最初は退屈だった物語がいきなり面白くなる転換点「ヴォルタ」とは?

「序盤は退屈だったけど中盤のあるシーンから一気に物語に引き込まれた」「最初は普通のアニメかと思っていたけど3話でひっくり返った」など、創作物には話がいきなり面白くなるシーンや文章が存在します。ハーバード大学の文学研究者であるエマ・アドラー氏は、そのような物語の転換点を「volta(ヴォルタ)」と呼んでおり、ヴォルタとはどのようなものか考察しています。
Every Novel Is Boring—Until It Isn’t - Public Books
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アドラー氏が小説を読む際は、決まって「最初は退屈に感じるものの、いきなり世界で一番面白いものに思えてくる」という傾向があるとのこと。このような作品の転換点に到達すると、それまで我慢して読み続けていた努力が報われ、もっと読み続けたいと思う作品に変化するとアドラー氏は説明しています。
この物語の転換点を、アドラー氏は「ヴォルタ」と呼んでいます。ヴォルタという用語はヨーロッパの定型詩・ソネット(十四行詩)に由来しており、ソネットの14行ある詩のうち前半の8行と後半の6行の間、あるいは最初の12行と最後の2行の間にみられる転換点を指す言葉です。ヴォルタに到達すると、詩の語り手はそれまで話してきた事柄について、新たな視点を持つようになります。
一方、小説などの創作物におけるヴォルタは視点の転換点というよりも、むしろ「本能的な喜びへの転換点」のようなものだそうです。もともと小説好きのアドラー氏も、「いつかヴォルタが来るのだろう」という期待を胸に読み進めており、これによって盛り上がりが少ない、あるいは期待外れの序盤や中盤も耐えられるとのこと。「もし小説を読む前にヴォルタがないと言われたら、私は決してその小説を開かないでしょう」とアドラー氏は述べています。

アドラー氏によると、ソネットにおけるヴォルタは教師がペンで印をつけるよう指示するほど明確なものであるのに対し、小説におけるヴォルタはほぼすべての読者がどこかの時点で体験する普遍的な要素ではあるものの、どこがヴォルタだと思うかは主観的な判断に委ねられるとのこと。そのため、同じ小説であってもヴォルタの場所は人それぞれです。
実際にアドラー氏は、複数人の友人にイギリスの小説家グレアム・グリーンの長編小説『情事の終り』を読んでもらい、どこでヴォルタを経験したのかを尋ねました。すると、ある友人はわずか20ページでヴォルタを経験した一方、別の友人は75ページあたりでヴォルタを経験したそうです。
75ページでヴォルタを経験した友人は、一時的に語り手になった登場人物が「それまでの出来事を新たな視点で捉え直さなくてはいけなくなるような告白」をしたことで、ヴォルタを経験したとのこと。ところがアドラー氏自身はそのシーンの後、それまでの登場人物が語り手として戻ってきて、物語の行く末が見えてきたことでヴォルタを経験したと述べています。

近年は若者の多くが小説を読まなくなっており、大人たちは「学生から長編小説を理解するのに必要な認知能力が失われているのではないか」「スマートフォンやSNSの影響で物語への集中力が損なわれているのではないか」と懸念しています。これに対しアドラー氏は、学生たちは小説が一気に面白くなるヴォルタの存在に気付いていないため、時間をかけて小説を読み続けようと思えないのではないかと指摘しています。
子どもの頃から小説に親しんできた人はヴォルタという概念を持っていなくても、「小説は序盤がつまらなくてもどこかでぐっと面白くなる」と体感的に理解しています。しかし、小説には急に面白いと感じられるポイントがあると知っていなければ、序盤がつまらないと思って読むのを放棄するのは自然なことです。こうした問題を解決するための方法として、アドラー氏は単純に「学生たちにヴォルタの存在を教える」ということを提案しています。
とはいえ、ヴォルタを教える際には注意が必要です。ヴォルタには「物語における節目がヴォルタになりやすい」といった傾向があるものの、どこをヴォルタだと感じるかは人によって異なり、時にはヴォルタに出くわすまでは非常に長かったり、ヴォルタが期待外れで小説を面白く感じられなかったりするケースもあります。アドラー氏自身も、ヴォルタを期待して読み進めた小説が面白いと感じられず、「読むのを止めていればよかった」と後悔したことがあるそうです。
それでもヴォルタは、人々に小説への興味を持ってもらうために利用可能な概念だといえます。なお、大きなヴォルタをもたらすものとして「どんでん返し」が挙げられていますが、「どんでん返しを終盤まで引っ張ることでほとんどページを退屈なまま読まなくてはいけなくなる」「どんでん返しを隠そうとするせいで読者が『いつかヴォルタが来る』と期待を持ちにくい」といったデメリットもあるとのこと。
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さらにアドラー氏は、人々は人間関係においても一種のヴォルタを待ち望んでいるのではないかと指摘。たとえば、友人や恋人との間に緊張が走っている時、「いつかこの関係が好転するのではないか」と期待を持ち続けるのは、小説においてヴォルタを期待するのと同じようなものかもしれません。
アドラー氏は、「こうした人間関係がいつか終わるのかは曖昧です。そう考えると、小説の転換点が私たちを束縛する期間が一定であることは、ある種の慰めになるかもしれません」と述べ、小説は有限であるためヴォルタを期待しやすいと主張しました。
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in 創作, Posted by log1h_ik
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