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冒頭の一文の「書き出し」に何ヶ月もかける理由をスティーヴン・キングが語る

By signora oriente

小説の中でも「書き出し」と呼ばれる冒頭の一文は、読者を作品に引込むために重要な役割を担っているため、書き手は書き出しに最も趣向を凝らすと言っても過言ではありません。例えば、太宰治の小説「走れメロス」の書き出しは、「メロスは激怒した」であり、この一文には「メロスとは誰なのか?」「なぜメロスは怒っているのか?」という読者をストーリーに引込むポイントが少なくとも2つあります。小説の中でも重要なパートである「書き出し」について、「シャイニング」や「キャリー」などのホラー作品から「刑務所のリタ・ヘイワース(映画名:ショーシャンクの空に)」「グリーンマイル」といったヒューマンドラマまで幅広いジャンルの小説を手がけるスティーブン・キング氏がThe Atlanticのインタビューに答えています。

2013年に「Joyland」と「シャイニング」の続編である「Doctor Sleep」計2冊の新刊を発表するキング氏によると、優れた書き出しを書くためには言葉で説明するのは難しいながらも理論があるとのこと。しかしながら、ただ確実に言えることが1つあり、書き出しは「聞いてくれ」「こっちにおいで」「君はストーリーについて知りたいよね」などと読者に問いかけて、ストーリーに招き入れるドアでなければいけません。

By Kara Harms

読者にとって本編へのドアである書き出しの手法として、多くの書き手が使用するのが、ドラマティックな出来事が起こっているさなかに読者を飛び込ませるような文です。例えば、ジェームズ・M・ケイン作「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の書き出し「They threw me off the hay truck about noon.(私は正午頃干し草を運んでいるトラックから外に投げ出された)」は、突然読者を出来事のさなかに連れて行ってしまいます。

また、「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の書き出しには「主人公がトラックから投げ出された」という事実以外に多くの情報が含まれており、例えば、干し草を運んでいるトラックにチケットを買って乗る人はいない、つまり「主人公はフラフラと放浪しているということ」「盗みを働いたのかも知れないということ」など読者は主人公について多くのこと情報を手に入れ、ストーリーに興味を持てます。

By Jeff Johnson

キング氏によると、読者はストーリーやキャラクターを見に来ているのではなく、小説の声を聞きに来ており、そのため優れた書き出しは読者の頭の中に語りかけてくるような文であるとのこと。小説の声は、ボイストレーニングをつんでいわゆるうまいという歌声ではなく、印象に残りやすく一度聞いたら忘れないミック・ジャガーボブ・ディランの歌声に似ています。

キング氏が気に入っている書き出しはDouglas Fairbairn作の「Shoot」の「This is what happened(これが起こったことだ)」です。この書き出しは大きなアクションを全く含んでいませんが、力強く訴えてくる「声」が聞こえてくるので小説の続きを読み進めずにはいられない、とキング氏はいいます。

By Ben Smith

キング氏が自身の作品から選ぶ最高の書き出しは「ニードフル・シングス」の「You've been here before.(あなたは以前ここに来たことがある)」です。1ページにこの書き出しだけを載せて、読者の興味をグッと引きつけたというキング氏は、「この書き出しは読者に親近感を持たせ、代わり映えしない現実の外へ連れて行くような感覚を与えます」と言います。

「シャイニング」の続編である「Doctor Sleep」の書き出し「On the second day of December, in a year when a Georgia peanut farmer was doing business in the White House, one of Colorado's great resort hotels burned to the ground.(ジョージアのピーナッツ農園主がホワイトハウスでビジネスを行っていた年の12月2日、コロラドにある大きなリゾートホテルのうちの1つが全焼した)」には読者に時期と場所を意識させ、また、前作「シャイニング」の結末をも想起させる役割があります。キング氏によれば、「Doctor Sleep」の書き出しは壮大でもなくエレガントでもなく、読者をストーリーに迎え入れるためのドアを開けるカギの働きをしているとのこと。

By John Hartnup

キング氏が新しい本を書くときには、真っ暗の部屋の中ベッドに入ってひたすら考えるそうで、満足のいく書き出しを書くために長くて数年間も考えることがありますが、一度満足のいく書き出しが完成すると後は一心不乱に書くのみだそうです。小説の書き出しは読者にとってストーリーの入口でありますが、それは書き手にとってもストーリーを書くための入口なっており、小説の中でも一番力を持っている部分とのことです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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