取材

アニメファンの熱気を即時共有することがヒットの鍵、サンライズ尾崎取締役が語る


アニメーション制作会社「サンライズ」は「機動戦士ガンダム」シリーズをはじめ、数々のアニメーション作品を世に送り出してきましたが、国内だけではなく、海外への展開についてはどのように行っているのか。その展開事例や、プロモーションについて、株式会社サンライズ取締役で、キャラクターワークス事業部ゼネラルマネージャー 兼 海外営業部部長の尾崎雅之さんが、デジタルハリウッド大学国際アニメ研究所が主催したアニメ・ビジネス・フォーラム+2013の中で、語ってくれました。

【デジタルハリウッド大学】アニメ・ビジネス・フォーラム+2013
http://www.dhw.ac.jp/e/anime_business2013/

講演タイトルは「サンライズの海外展開について」。


サンライズは今年で創業37年目を迎える老舗アニメーションスタジオ。尾崎さんのデータによると、著作権保有コンテンツは267作品あり、フィルム時間数は2000時間オーバー。現存するスタジオの中では東映アニメーションがもっとも歴史があり、トムス・エンタテインメント(東京ムービー)も同じく古い会社ですが、それに並んで多い方だとのこと。

一般的に、アニメには原作として漫画や小説がありますが、サンライズの強みは「オリジナルが多い」というところ。「機動戦士ガンダム」がよく知られているほかにロボットものを数多く作っていて、オリジナル作品比率は約7割。原作ものを扱うこともあるものの「サンライズとしてはオリジナルにこだわっていきたい」という思いがあるそうです。


フォーラムの中ではサンライズの2012年下期ラインナップの映像が流されました。流れた作品は、カードゲームをもとに作られている「バトルスピリッツ ソードアイズ」、週刊少年ジャンプ連載の原作をアニメ化した「銀魂」、バンダイが女の子向けに展開しているカードを利用したアーケードゲームを原作とした「アイカツ!」、オリジナルの男性向けアイドルもの「ラブライブ!」、サンライズを代表するオリジナル作品コードギアスシリーズの最新作「コードギアス 亡国のアキト」、有名小説をアニメ映画化した「ねらわれた学園」、児童小説をアニメ化して現在劇場公開中の「映画かいけつゾロリ だ・だ・だ・だいぼうけん!」、代表的オリジナル作品のテレビシリーズ終了後に公開された「劇場版 TIGER&BUNNY -The Beginning-」、10年前の作品をHDリマスターとして世界同時配信中の「機動戦士ガンダムSEED」、数ヶ月に1度のイベント上映とBDリリースを行っている「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」。ジャンルも原作の有無もかなり幅があることがわかります。

コンテンツの権利というのは、アニメでも実写でも「一次利用」と「二次利用」に分けられる、と尾崎さん。一次利用というのは最初に世に出るルートのことで「テレビ」や「スクリーン(映画)」のこと。二次利用は、テレビで放送されたものがBlu-ray DiscやDVDになったり、ネット配信をしたり(自動公衆送信)、関連する出版物を出したりすること。ここで1つのコンテンツが多方面展開されることでお金が生まれ、リクープ(回収)していくというモデルです。


この二次利用の中にあるのが「海外販売権」。海外についてもビデオグラム化したり、ネット配信したり……という構造が同じく存在しています。コンテンツを作るときには、主にいろいろな会社がお金を持ち寄って「製作委員会」を作りますが、その中で「海外についてはA社さん、国内はビデオグラムメーカーのB社さんに」というように、二次利用担当の会社が決められています。

サンライズの特徴は、アニメ制作だけではなく二次利用すべての運用が可能な部署と人員、機能があることだと尾崎さん。サンライズのオリジナル作品の場合、いろいろなケースはあるものの、すべての窓口をサンライズが担うというケースもあって、それを実現できることが強みとなっているそうです。そういった作品は、全作品の8~9割存在しています。


海外マーケットの概況として、尾崎さんはまず「パッケージ市場の落ち込み」を挙げました。ここ2~4年ほどはDVDやBD、ゲームのパッケージが売れなくなってきており、特に北米でその進行が速く、1年遅れで日本、それから欧州へと流れが及んで、加速度的に落ち込んできているそうです。

2点目は「配信サービスの拡大」。これは事実なのですが、上述の落ち込み分をカバーするには至っていません。

3点目が「TV放送機会の減少」。北米ではCATVで日本のアニメが放送されなくなってきています。理由はいくつかあるものの、北米の会社自体が市場に合うアニメを作って展開し玩具を売るというビジネスが始まったことで、日本のアニメが放送されていた枠が取られる形になっています。アジアではそこまで顕著ではなく、日本作品のニーズもあって、マーケットも少しずつ拡大しているそうです。

4点目に挙げられたのは「商品化の普遍性」。アニメがデジタル化されてダウンロード可能なコンテンツとして存在する一方、玩具というのはダウンロードができない、現実での流通が必要な商品です。海賊版が出るリスクはあるものの、ネットが普及して配信規模が拡大したとしても、ファミリー・キッズものの玩具がなくなることはないので、引き続き力を入れればマネタイズできるだろう、とのこと。

最後は「情報即時性の高まり」です。海外のアニメファンに限らず、世界のどこかで流行しているものを自分たちも共有したいという思いが強まっていて、全世界的なヒットに注目して飛びつくという傾向があるのではないか、という話でした。

具体的な海外展開事例として挙げられたのは「機動戦士ガンダムUC」。この作品はOVA形式で6巻までリリースされていますが、2010年3月から日本のほかに北米・イギリス・フランス・香港・台湾で同じディスクを発売するという世界初の「BD世界同時発売」を実施しました。ディスクには日本語の音声と吹替の英語音声が入っていて、字幕は日本語・英語・フランス語・スペイン語・香港繁体字・台湾繁体字の6種類を収録。オリコンのデータによると、日本で2012年のBD全ジャンル中トップが機動戦士ガンダムUCだったとのことで、世界的にも大ヒットしているそうです。


また、「機動戦士ガンダムAGE」と「機動戦士ガンダムSEED HDリマスター版」では世界同時配信の試みが行われています。これは、公式のガンダム情報ポータルサイト「GUNDAM.INFO」で、字幕付き配信を行うというもの。その意味合いは「全世界同時で作品を知ってもらう、普及させる」ということもあるものの、大きいのは「海賊版対策」だと尾崎さん。現在、日本で放送があってから24時間以内に、全世界かなりの地域でファンが独自に字幕をつけてネット上にアップしているという状況があるそうで、公式が少しでも早く提供することで、ファンが海賊版ではなく公式を見るようになるという効果があります。実際、これによって海賊版は減少していて、対策につながっているそうです。

上述の「GUNDAM.INFO」は日本語版のほかに英語版・韓国語版・簡体中文版・香港繁体版・台湾繁体版があり、多言語化によってアクセス数が飛躍的に増えています。サンライズの公式ホームページについても、英語のみですが充実を図っているところで、作品検索がしやすい作りとなっています。

SUNRISE INTERNATIONAL Information
http://www.sunrise-inc.co.jp/international/index.html



海外展開では「TIGER&BUNNY」の事例も取り上げられました。テレビシリーズは2011年4月から全25話が半年かけて放送されましたが、北米・フランス・イギリス・オーストラリアでは字幕をつけて同日配信を実施。人気が出たので映画も制作されて、2012年秋に公開されました。映画はテレビシリーズ以上に広げて、香港や台湾、シンガポールなどでもほぼ同時期に公開されています。

尾崎さんは海外営業部長としてセールスを行っていますが、TIGER&BUNNYについては作品そのものをプロデュースするプロデューサーとして企画制作から携わっています。プロデューサーとしては「ファンの傾向が日本に似ている」「熱の伝わり方は日本と変わらない」という実感があり、笑いどころの細かい点では国ごとに差が出たりするものの、おおむね海外のファンも日本のファンと同じような反応を見せてくれるそうです。


海外販売権を行使してライセンスをする機会はいくつか場があり、その代表的なものが海外マーケット。映画でいえばアメリカン・フィルム・マーケット(AFM)やカンヌ映画祭に併設されるカンヌマーケットが有名で、テレビ作品だとMIPTVという見本市があります。サンライズは、ここ数年はこういった海外マーケットではなく、海外イベントに積極的に参加。有名なところだと、ロサンゼルスで開催される「Anime Expo」、パリで開催される「Japan Expo」、ボルティモアで開催される「OTAKON」、ニューヨークで開催される「New York Comic-Con」、香港で開催される「C3 in HongKong」などに参加しています。

こういった海外イベントではパネルセッションやサイン会、ラインナップのプレゼンテーションなどを行うのですが、ファンはプロデューサーや監督が実際にしゃべってくれるというところに価値を見いだしており、「ゲスト(プロデューサーや監督)が来るなら見よう」「ゲストが来るのならきっと話題になる作品だ」というように作品の温度感をはかっているようなところがあるそうです。尾崎さんもいろいろなイベントに参加してしゃべっている中で、日本での作品熱を海外で共有することにつながっているという感覚があり、ガンダムUCが全世界的にヒットした要因なのかもしれないと感じているそうです。また、海外ではプロデューサーが最終的なフィルムの編集権を持つなどして強いケースが多いため、キャストや監督だけではなく、プロデューサーのサインを求めてくれることは驚きだったとのこと。


サンライズでは、数は多くないものの、海外の会社とお金を出し合ってアニメを作ったケースがあります。それが「THE ビッグオー」で、カートゥーンネットワークとの共同製作でした。この作品は、まず日本で1クール分作って放送が行われましたが、話は尻切れトンボで終わっていました。ところが、これをアメリカで放送したところ大変受けが良く、カートゥーンネットワークから「ぜひセカンドシーズンを作ろう」というオファーがあって第2期が実現しました、講演資料の中で「放送権確保」と書いてありますが、これは、テレビ局が一緒に制作したので枠を確保できたということだったそうです。しかし、結果的とはいえ、確実にその局で放送されるというのは大きなポイントでもあるとのこと。

もう1つの共同製作作品は「SDガンダム三国伝」これは玩具と一緒にアニメを展開して、アジアマーケットを戦略的に開拓しようという作品でした。サンライズはバンダイナムコグループに属していることから、全世界のバンダイと商品連動をすることが多いのですが、この作品の場合はバンダイアジアのニーズや意見を聞いて作ったそうです。三国志は日本でもアジアでも人気があることから「三国志をモチーフとして低年齢層向けのガンダムを作るとヒットするのではないか?玩具も売れるのではないか?」ということで作られ、狙い通りにアジアで人気が出ました。日本のほか、香港・台湾・韓国・中国と広がりを持って展開できた事例だそうです。

「ちょっと特殊なケースですが」として出されたのがアニメーションの実写化でした。サンライズは自社アニメを積極的に実写化するというスタンスではなく、実施することで作品の認知度が世界的に高まって原作であるアニメに還元されるといいなというスタンスだそうです。実写化の可否については「作品に愛があるかどうか」で判断し、お金目当てでの実写化や「有名な作品だから実写化すれば当たる」というようなオファーに対してはライセンスしていないとのこと。これはしっかり話をしていれば見えてくるので重きを置いているポイントで、厳しく見る理由は「完成した実写化作品がコケるとアニメに悪影響を与えかねないから」だそうです。

サンライズ作品の実写化企画としては、2009年1月に人気SFアニメの「カウボーイビバップ」をキアヌ・リーブス主演で実写映画化するという発表がありましたが、これについては今も企画が進行中だとのこと。「実写化というのは時間がかかるんだな」というのが尾崎さんの実感です。

尾崎さんは「アニメの方が国境を越えやすいが、全世界的には実写の方が市民権を得ており、訴求しやすいのは間違いない」と語りました。これは、ふだんアニメを見ない人であっても、ハリウッドで実写映画化されたということなら見てみようと思う人が確実に多いということ。尾崎さんによると、作品への入り口というのは何でもよく、たとえば「ハリウッド版のカウボーイビバップを見たインドの女の子が、そのあとで原作になったアニメを見る」という形でも、最終的にアニメに還元されればいいだろうということを目指して実写化は進められているそうです。

いろいろなオファーはあるそうですが、上述のように「作品への愛」「最終的にアニメに還元されるのか」といったところや、権利の調整、対価といった条件を折り合わせるのはなかなか大変だと尾崎さん。しかし、「海外からの日本アニメ注目度は確実に高い、と言えると思います」とのことでした。

所見の中で尾崎さんは「種まき」という単語を用いて、アニメを最終的にマネタイズするためには好きになってもらうというのが前提になるため、入り口はなんであれ入ってきてもらうことが重要だと述べました。


また、ヒットしたものについてはいかにタイムラグを少なく全世界で共有するかというところもポイントなので、そのためには海外イベントに足を運ぶし、同時配信・同時発売など見てもらうための機会は積極的に提供していくとも語りました。

今後、デジタル系の課題としては、配信だけではパッケージの落ち込みをまだカバーできておらず、スマホなどのデバイスが伸びる中でいかにマネタイズしていくか。そして、非デジタル系では、アニメコンサートやイベント、舞台化、ミュージカル化といった生で楽しむ「ライブエンターテイメント」が注目で、現在隆盛を極める「一人でいつでもどこでも楽しめるコンテンツ」でなく「大勢でその場でしか共有できないものにお金を払う」方への消費行動が高まってきているので、いかに開拓していくか、海外マーケットをホットにできるかがポイントになってくるとのこと。

最後は質疑応答が行われました。

Q:
海外展開を行うとどうしても海賊版の問題が出てくると思います。中国の場合は日本と法律が違うこともありますが、これについて具体的・積極的な対応や対策は何かありますか?

尾崎:
ガンダムAGEやガンダムSEEDが最たる例ですが、公式配信の前は海賊版の視聴数が数千万回もありました。しかし、オフィシャルがちゃんと現地字幕をつけて配信するようにすると公式へと来てくれるようになりました。もちろん、海賊版もまだ存在はしていますが、少なくなっています。中国は政府の規制もあってテレビ放送ができないので、配信という形態を取っていますが配信についても規制がどうなるか不透明な部分はあるので、試行錯誤しながら展開しています。

Q:
海外への配信は無料配信だと思いますが、いかにマネタイズしているのですか?

尾崎:
これは「種まき」に該当するんです。無料であっても、数千万回見てもらえれば、その中からSEEDを好きになる人が出てきます。その人が「ガンダムのことが好きだから、ガンプラを買ってみよう」と思ってくれれば達成です。ガンプラが売れれば、その何割かはサンライズにも還元されますし、バンナムグループの売り上げになります。それがうちの強みです。映像でマネタイズできなくても、二次利用でお金に換えていくという戦略です。

そういえば、アニメ・ビジネス・フォーラム+2011で、サンライズの宮河恭夫プロデューサーがDVDやBDが売れないというのは言い訳ではないかと業界に対して厳しい指摘をしていましたが、テレビ放送と同時にUstreamでの配信を実施していたTIGER&BUNNYが大ヒットしてBDも売れ、映画まで作られたことを考えると、指摘は的中しています。

2011年当時、有料配信と映画館でのイベント上映を実施した上でBlu-rayを早期発売するというガンダムUCのウインドウ戦略はかなり目立っていましたが、最近は「宇宙戦艦ヤマト2199」が同じような戦略を採用しており、アニメビジネスの戦略は、今までの常識にとらわれていてはいけないことを実感します。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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