取材

アニメ業界は将来を見据えて作品作りと人材育成を進めなければならない、動画協会の布川理事長が語る


NARUTO-ナルト-」や「ぴえろ魔法少女シリーズ」などの制作で知られるアニメスタジオぴえろの布川郁司 代表取締役会長が、デジタルハリウッド大学のアニメ・ビジネス・フォーラム+2013の中で講演を行いました。

日本動画協会理事長でもある布川さんは、日本のアニメ作りはどうしてもまず国内に目を向けがちだが、ビジネスを考えたとき、もっと戦略的に世界に公開できる作品作りを心がける必要があるのではないかと提言。また、将来を考えると、アニメーターだけではなく、役割の大きな部分を果たすことになるプロデューサーも育てていかなければならないと、自身による「布川塾」の構想を語りました。

【デジタルハリウッド大学】アニメ・ビジネス・フォーラム+2013
http://www.dhw.ac.jp/e/anime_business2013/

タイトルは「ぴえろの現場と将来像


布川さんが会長を務めるぴえろは1979年5月に設立。「ニルスのふしぎな旅」でデビューしてから今日までにテレビシリーズ78作品、劇場版33作品などを手がけていて、テレビシリーズの話数で数えれば4000本近くにもなります。


そんな老舗のぴえろですが、アニメビジネスは大きく変容してきています。これは国内の少子化というのが大きな理由として挙げられます。ぴえろができた当時、アニメは「100%スポンサー」、つまりスポンサーが制作費とネットワーク代を払ってくれていたため、制作会社が作品に投資をすることはほとんどありませんでした。たとえば、サンライズの人気作品である「機動戦士ガンダム」も、玩具と連動しながら作られたアニメの1つです。つまり、アニメというのはスポンサーのコマーシャルをやっているという側面があったわけです。今は、100%スポンサーで作られているのはキッズアニメなど2割ほどになっています。


サザエさん」は43年間も放送されていて、今でもアニメの視聴率ではNo.1、全体で見てもベスト10に入ってくることがある希有な作品です。家族7人が丸い食卓を囲む姿や家具調テレビなど、もはや日本の原風景から消えてしまったものがそこにあり、海外の人が見たら「これが日本で一番人気のある作品!?」と驚くかもしれませんが、実際、今日まで続いています。同じように「ドラえもん」も30年近く続いていたりして、「キッズアニメが長く続くというのは日本独自の文化もしれない」と布川さん。しかし、制作会社からすれば43年も続けられるというのは非常に大きなことですが、サザエさんの視聴率がいくら高くても、海外の人が日本人と同様にサザエさんを知っているわけではありません。

布川さんは「日本のアニメはあくまで日本向けになっている」と、海外を意識して作るのではなく、日本でいかに人気が出るかに注力していることを指摘しました。制作現場が順風満帆かというとそうではなく、横に繋がるビジネスのある作品は生き残っているものの、放送されたあとビデオグラムが6本や13本リリースされたら終わってしまうという作品がかなり増えているのも事実。昔は地上波12チャンネルの中で、いかに放送枠を得るかしのぎを削っていましたが、今はBS、CS、さらに配信という形態も出てきて、流すインフラは大きくなっています。しかし、中身がそれだけ充実したかというと、むしろ薄まったかもしれない、と布川さん。


アニメ会社はほとんど東京西地区に存在しています。大きい組織から1人~2人でやっている小さいプロダクションまで大小合わせると600~700もの会社があって、これらが連携することで年間240もの作品を生み出しています。テレビは4月と10月に編成期があるため、この中で作品作りをしているとどうしても日本向けが優先され、海外へ目を向けるのは後になっています。日本のアニメのかなりの部分が海賊版で奪われているというのが悲しい現実だと、布川さんは制作者の立場から語りました。


これは「海外に広がった」ということでもあり、その点で言えば大きな販促力があるのも事実ですが、海外ではなかなか公共電波では流せないという実情もあります。たとえば、ぴえろ制作の「NARUTO-ナルト-」だとセクシャルな部分はないものの、流血シーンが多く登場します。これは海外に比べると日本の放送コードが緩いためで、海外に合わせると流せるものがなくなってしまいます。とはいえ、日本のマンガが海外で高く評価されているからと天狗になっていると、そこで日本のアニメは終わってしまうのではないか、と布川さんは危惧。戦略的に世界で公開できる作品作りを進めるべきではないかと考えているわけです。実際に、ぴえろでは海外で放送されているアニメの仕事を受けたことが、アメリカのアニメ作りや内容について参考になったとのこと。

将来をにらんだ上でキーになってくるのは、やはり人材。アニメーターを育てるというのは当然のことですが、クリエイターから会社を興してプロデューサーになった布川さんは、これからはもっとプロデューサーの役割が大きくなっていくと考えています。いま、日本でプロデューサーと呼ばれているのはほとんどがメインプロダクションやポストプロダクションのプロデューサー。しかし、これからは国内マーケットから国外に目を向けていかなければならないというところで、プリプロダクションのプロデューサーを作っていかなければなりません。


アヌシー国際アニメーション映画祭に行った布川さんは、最初はアートみたいな作品が多いのかと考えていたそうですが、実際にはいろいろな作品があって、そのプリプロダクションのプロデューサーやディレクターがいっぱい集まり、iPadで企画をガンガンと売り込んでいる姿を目にしました。「NARUTO-ナルト-」や「幽☆遊☆白書」が好きだという人ともいっぱい出会い、「でも、日本は合作しないでしょ?」と言われたことは刺激になったそうです。シルク・ドゥ・ソレイユ発祥の地であるカナダのケベック州にはプロダクションが多数存在し、アメリカとヨーロッパの橋渡しをしていますが、これからの日本はそういうことができるようになるだろうか、と疑問を持った布川さん。しかし、今すぐに自分たちができるかと言われれば困難なことであっても、日本のコミックが売りであるうちに戦略的に出て行かなければ行けないのではないかという思いもあります。

昨年、ぴえろの会長になった布川さんは4月から「布川塾」を立ち上げてみようかという構想を持っています。これは演出に重点を置いたもので、宮崎駿高畑勲といったビッグネームも演出畑の出身であるように、演出というのがいろいろな面で重要な要素となってくるため。


また、それを中心にして、プロデューサーについても論じていきます。物作りのプロダクション構造には「川上(プリプロダクション)」「川中(メインプロダクション)」「川下(ポストプロダクション)」の仕事があります。川上が詰まると川中は厳しくなり、川下はもっと厳しくなってしまいます。それについて、「時間がなかったから」「予算が足りなかったから」という言い訳がされてきたわけですが、繰り返さないために、何十年もの経験を持つ布川さんが川上の意識教育を行って、川の流れをよくしていかなければならないのではないかという思いがあるとのこと。詳細は追って公開される予定となっています。


質疑応答では、デジタルハリウッド大学国際アニメ研究所の高橋光輝さんが質問を行いました。


高橋:
デジタルハリウッド大学でもプロデューサーを養成すべく教育を行っていますが、業界構造として、制作進行や動画から上がっていった人が、資金調達のことなどを勉強する時間もなく、経験年数で“肩書きプロデューサー”になっている流れがあると思います。理想像と現実の中で、アニメプロデューサーはどうすればいいのでしょうか。

布川:
プロデューサーというと「悪徳」というイメージがあるのではないでしょうか(笑)


たとえば、予算を叩いて安く作らせる、というような。でも、物作りのプロデューサーと物売りのプロデューサーは違うと思います。物作りであれば制作進行から始めなければいけません。いかに作品をコンパクトに作り上げるか、スタッフのモチベーションを上げるか、予算通りに作るか、といったことを知っているのは大事ですから。

しかし、これだけではいけないのではないか、プリプロダクションのプロデューサーは制作進行からの叩き上げではなくてもいいのではないか、とも感じています。弊社でも元銀行マンや元商社マンといった人が働いています。そういう人が、アニメを別の見地から見て「こう売ろう」「こうプリプロしよう」と考えること、外部から血が入るというのはいいことだと思います。また、すべてとは言いませんが、我々はどうしてもノウハウを伝える商売です。アメリカとの仕事でも「こういう感じで」というニュアンスが、通訳が入ることで伝わらないことがでてくるため、海外と渡り合うのであればそれなりの語学力も必要になってきます。こういうことをすべてアニメーションの現場で蓄積していくのは難しいので、プリプロのプロデューサーは、制作プロデューサーとは違う観点から考えていった方がいいのかなと思っています。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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