取材

スマホから8Kテレビまで広がったスクリーンメディアとアニメはどう関わっていくのか

By San José Library

CSのアニメ専門チャンネルAT-Xの岩田圭介社長が、アニメ・ビジネス・フォーラム+2013の中で「進化するスクリーンメディアの戦略とアニメ産業」について語りました。スクリーンメディアというのはテレビやPC、スマートフォン、タブレットなどのこと。アニメにも作品によって「向き」「不向き」があるはずで、今後、こういったスクリーンメディアとどのように関わっていけばいいのか、そして海外での状況はどうなっているかなど、幅広い話が展開されました。

【デジタルハリウッド大学】アニメ・ビジネス・フォーラム+2013
http://www.dhw.ac.jp/e/anime_business2013/

講師は株式会社エー・ティー・エックス(AT-X)代表取締役社長の岩田圭介さん。


タイトルは「進化するスクリーンメディアの戦略とアニメ産業


「スクリーンメディア」というのはテレビや映画のスクリーン、PCなどのデバイスのことを指し、最近ではスマートフォンやタブレットも含まれています。このいろいろなスクリーンの中で、ライツ型アニメ(アニメからビジネスが派生していってグッズ販売など関連商品が中心になるもの)とコンテンツ型アニメ(アニメ自体が商品となっているもの)とがどういう位置づけになっていくのかというのが最初のテーマです。


まず、スクリーンメディアをデバイス軸で分解したものがコレ。左にゲームコンソールやスマートテレビといった従来型スクリーンに近いものが並び、中央にタブレットとスマートフォン、右側にパソコンが並んでいます。使い勝手がいいのは左側で、操作が誰でもカンタンということ。テレビを思い浮かべるとわかりやすい例です。一方、多機能端末であるPCは「マルチだが中途半端」という位置づけです。


この軸とアニメを関連づけてみると、ライツ型アニメは本編がどうであるかということよりも、まずは「多くの視聴者に見てもらう」ということが大事なので、リアルタイム視聴でも録画でもテレビが一番適しています。コンテンツ型アニメの場合は、かんたんにいえば「高画質」。視聴者は能動的にコンテンツを求めて視聴し、時間がないときは外出した先でも見たりするので、どこでも視聴できるスマートフォンやタブレットが最強となります。


スクリーンメディアを時間軸で見ると、テレビはリニア放送(番組編成に従った放送)が基本なのでライブ視聴に最適。PCはどうしてもレート不足などでテレビには劣ります。一方、タブレットやスマートフォンは高速化は進んでいるもののまだライブ視聴には厳しいところもあり、当面は「持ち出した先で見る」という形になるのではないか、というのが岩田さんの意見。


時間軸とアニメとの関係でいうと、ライツ型アニメは「クリスマス商戦」のような関連商品との相関性があるため、リアルタイムであればあるほどよく、テレビが最適なスクリーンということになります。コンテンツ型アニメの場合は「視聴する」ということが消費なので、リアルタイムで見るか遅れて見るかは大きく関係せず、むしろ何度でも楽しめるのでテレビもスマホ・タブレットも向いています。ただ、PCはテレビのように楽しむにはスクリーンが小さく、出先で楽しむにはタブレットほど携帯性が高くないため、あまり適当なデバイスではありません。


最後は場所軸との関係です。大型化の進むテレビは家庭内視聴にぴったり。スマートフォンやタブレットは家庭内でも外出先でも使えますが、特に出先では強みを見せます。PCはいずれにしても中途半端な位置づけに。


ライツ型アニメはキッズ向け作品が多く、子どもが幼ければ幼いほど番組選択権は親が持っていて一緒に楽しむ形になるので、テレビが最適で、テレビ機能付きPCがそれに準じます。コンテンツ型アニメは上述のように「見ること」が消費なので、場所を問わず楽しむことができるスマートフォンやタブレットが適当。ただし、PCは不適となります。


では、いま欧米ではどういった動きが起きているのかというと、1つ目が「コード・カッティング(Code Cutting)」です。アメリカではCATVが優位にありますが、だいたい月100ドル(約9300円)かかるということで、コストを嫌って解約する動きが出てきています。2番目の「Over The Top(OTT)」は、セットトップボックス(STB)越しにネット接続して番組を楽しむようになってきているということです。そして3番目が「サブスクリプション型ビデオオンデマンド(SVOD)」、8ドル(約750円)ほどで番組が見放題というサービスです。これがあるため、高すぎるCATVが避けられる傾向にあるわけです。4番目は「キャッチアップ配信(CVOD:見逃し配信)」、大手CATVがSVODに対抗して打ち出したサービスです。SVODというとNetflixなどが代表的ですが、ComcastもCVOD、そしてSVODで対抗してきています。つまり、有料テレビもサービス競争の時代に入ってきています。


では、日本ではどうなっているかというと、差し込むだけで接続できるドングル型STBを各キャリアが出し始めています。CATVでは、最大手のJ:COMJCNと合併して圧倒的な優位に立ちます。この流れはSmartSTBやSVODの普及に寄与していくかもしれないと岩田さん。OTTサービスではHuluをはじめとする廉価なSVOD配信業者がどう伸びてくるのか。何年か後に、アメリカと同じ流れになっているのか、それとも携帯電話会社が圧倒的な強さで行く日本独自の展開になるかは、まだわからないとのこと。


ライツ型アニメに及ぼす影響ということで、SVODが馴染むかどうかですが、これもまた先を予見するのは難しいようです。スマートテレビでネットショップに行って関連商品の売り上げに寄与するかどうかというのも未知数。このスマートメディアにマッチしたビジネスが出てくるのか、商機が増えるのかも注目だと岩田さん。ただ、デジタル関連玩具が主流になってきていて、スマートテレビ環境がビジネスの追い風になる可能性があるとのこと。これは、スマートメディアなどオンラインで申し込むと特典があるというようなOnline to Offline(O2O)、実際に商品を扱っているお店に行って安く買えるという形です。


コンテンツ型アニメへの影響はどうか。「最速で見たい」というファンがすごく多いため、タイムシフト型のVODがどうなるのかはやってみないとわからないところ。まだまだウインドウとしては地上波を使ってのテレビ視聴も行われているので、なじむかどうかという点も課題だと岩田さんは見ています。パッケージビジネスという点でも、最高画質がスーパーハイビジョンの4Kや8Kになっていく流れの中で、どこでも高画質のものが見られるというときに売れるのだろうか……という疑問もありますが、スマート化はコンタクトのチャンスであり、消費チャンスを増やすことは確実だと語りました。


チャンスが増えるのはいいことですが、重要なのはトレンドを見ること。スクリーントレンドで、どこがどのようなポイントになっているのか。そして、スクリーンの機能では何ができるのか。自分のアニメのスクリーンごとの強みと弱みは何なのか。たとえば、スマートフォンで見たときにどこが強みでどこが弱みなのか。これまでは時間軸だった展開に、スクリーン軸が追加されることになります。画面サイズがいろいろなので、プロデュースの段階からスクリーンプランニングをすることが重要になってきます。海外ビジネスでのローカライズは国にあった音楽をつけて、合わないところはカットして……といろいろありますが、日本の中でマルチスクリーンに対応するためのプランがいるというわけです。岩田さんはこれを「スクリーンライズ」と表現しました。


実際にマーケットはどうなっているのかというと、国内コンテンツ市場は映像が4兆円規模。世界的にはコンテンツ市場は6000億ドル(約56兆円)ほどで、アメリカとヨーロッパ、そしてアジアだけでほとんどのシェアを占めています。


日本のコンテンツ輸出額はどうなっているかというと、アニメは82.2億円でシェアは輸出額中の1.5%。ゲームが95%と圧倒的です。クール・ジャパンなんて言ってますが、全然大したことないんです」と岩田さん。放送番組を含めてもわずか3%と「シェア」と言えないようなもので、「日本というのはガラパゴスです」と表現しました。


日本動画協会調べによる海外販売売上高の数字がこちら。フォーラムを主催した国際アニメ研究所高橋光輝さんが、アニメバブルの時期に比べて数字が下がってきていると指摘した通り、2006年をピークに下がってきています。


各コンテンツ分野の国内市場と輸出額の比較です。映像分野と音楽分野に関していうと、国内市場規模の1%も輸出していません。この温度差が隠されているわけです。


2006年のアニメバブル後、2008年にリーマンショックがあって景気が落ち込みましたが、ネットインフラは整備が進みました。これを受けてアニメの総制作量はどんどん減ってきていましたが、去年底を打ち、2013年は増産体制に入ってきています。放送枠の状況でいえば、秋には枠が足りないというぐらいに相当数が増えるのは間違いありません。


アニメーションの状況がどうなのかというと、セガトイズ爆丸は海外でものすごく当たっていて、タカラトミーベイブレードも海外で圧倒的なシェアを持っています。バンダイではパワーレンジャーが全世界的にヒットしていて、アメリカの方がマーケットの中心になっているベン10もあります。アジア圏では韓国を中心に好調が続いています。

しかし、毎年のようにお話をしているとおり、日本では「NARUTO-ナルト-」以降、世界的なヒットがないというのが現状です。日本国内で大ヒットしている「イナズマイレブン」でも、海外のマーチャンダイジングでは苦戦していて、ビジネスとしてはそこ止まりなのかなという感じがあります。

日本のアニメを海外に持っていたとき、日本作品は作り方がルーズだと見られています。特にセックス&バイオレンスに関しては各国の常識に当てはまらず、そのあたりを考えて作られていないと難色を示すバイヤーが多め。

オンラインマーケットに目を向けると、2009年にスタートしたクランチロールはいまや有料会員10万人、無料会員は700万人という規模になっています。


中国マーケットはすごく難しく、政治問題が直ぐに跳ね返ってきますが、2011年に始まったTudouには億単位のユーザーがいて、広告収入のレベニューシェアを行っています。このTudouはライバルのYoukuに合併統合されました。シェアはまだまだ数%ですが、伸びる可能性は大きいと思います。正規ライセンスが出ることで海賊版を駆逐するというのも、効果が出てきているところです。

海外展開での課題としては「文化の違いが大きい」と岩田さん。衣食住の違いではなく、制作時のスタンスの違いが大きな足かせとなるそうです。というのも、日本でコンテまで作って海外に送り、上がったフィルムが戻ってきたとき、たとえば1回目は直す暇がなかったのでOKしたが、2回目は制作に余裕があったので直したいと指摘します。すると「1回目は通ったのに、なぜ直さないといけないのか?」と言われてしまうそうです。これは、「ものをよくするためにどうするか」という感覚のズレが大きいようです。


「クール・ジャパン」という言葉がよく使われる一方、「韓国は国策でやっているのに、日本はやっていない、後れを取っている」と言われることがあります。しかし、韓国もそれほど売れているわけではないそうです。たとえば韓流ドラマのお得意様はほぼ日本で、欧米ではビジネスをやっていません。

海外マーケットにおいて、日本はガラケーならぬ「ガラブー(ガラパゴス化したブース)になっているのではないか」と岩田さん。日本で作られているものはまだ日本でリクープ(回収)するようなものばかりで、「クール・ジャパン」が馴染んでいるのも日本だけ。日本に来ているディズニーなどは世界中に展開していてパイプも持っているが、日本は日本だけで完結してしまっている、と指摘しました。

今後のメディアの市場は、スマートテレビがどんどん増加していきます。

スマートフォンやタブレットの普及によりVOD市場も拡大、1300億円から1400億円ぐらいになると見込まれています。

では、その手元の小さなデバイスから大きな8Kまで、あらゆるスクリーンメディアでどうしていくか……これが岩田さんによる「今日の宿題」です。「ちゃんと考えていかないとディズニーのような大手にやられてしまう」と岩田さん。フランスでは日本のマンガが大学の授業で使われるほどの文化であり、海賊版があれだけ作られるのはそれなりの土壌があるからですが、ビジネスになっていない。そこが海外ビジネスの最大の問題点であり課題だろう、と締めくくりました。


以下は質疑応答

Q:
新しいレコーダーとして、テレビで放送された画質のままiPhoneやタブレットに転送できるものが出るという話があります。テレビ画質のものがマルチデバイスで見られるようになると、テレビのウインドウはどうなるのでしょうか。

岩田:
アメリカでのデータですが、コンテンツを楽しむのは最後には大型テレビだけです。日本のケータイやスマホは画素数勝負になってきていますが、ユーザが何で楽しむかというと、圧倒的に大型テレビなんです。外出先や移動先でということであれば、そこまでのものはなくてもいいのではないかと思います。もう1つ、それができるようになったら、著作権ライツの解決をどうするかですね。CSだと番組局事業者として24時間ストリーミング放送しているものを、どこまでオールライツで見ていいのか。ITTVはCS放送局に紐付いているが、どうするのか。線引きがあれば、それぞれの国に応じた展開が可能になります。ライツ型ではなく、コンテンツそのものでマーケットを広げられる可能性はあると思います。

Q:
AT-Xの海外展開について、今後どういったことをされていく予定があるのでしょうか?

岩田:
AT-Xの場合はアニメのテレビ局へのビジネスを行っています。今は国内レベルで24時間放送をしていますが、これをそのまま海外で運営できないだろうかということを考えています。これまではコンテンツに対して出資し、リターンが帰ってくる、外貨を稼いでくるという形でしたが、そこから広がれないかと。いまAT-Xは単チャンネルで、ユーザが15万人というニッチメディアですから、コアなアニメファンをターゲットにしていますが、単チャンネルがいいのかどうかというのも考えています。

Q:
ストリーミングでやる場合、デバイスというのはどういったものをお考えですか?

岩田:
流通問題についていうと、どのプラットフォームともフラットな付き合いで行こうというのがAT-Xの方針です。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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