創造するのが「コンセプト」で選択するのが「ゲームデザイン」、「GRAVITY DAZE」のコアゲームデザインとGUIの作り方
「GRAVITY DAZE」は重力を操作するという新感覚のシステムが特徴で、タッチパネル操作など「PlayStation Vita」の機能もうまくゲーム内に取り入れています。開発の途中でハードが「PlayStation3」から「PlayStation Vita」に変更されるという苦難があったのですが、逆にそれを生かしたという制作の過程は、普通のゲームとはちょっと違っています。その詳しい内容をCEDEC2012にて制作者の方々から聞いてきました。
少女は空に落ちる ~オープンフィールドに構築された『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』のコアゲームデザインとGUI~
http://cedec.cesa.or.jp/2012/program/GD/C12_P0070.html
大倉 純也さん(以下、大倉):
ソニー・コンピュータエンタテインメント、JAPANスタジオのシニアゲームデザイナー、大倉と申します。
このセッションは「GRAVITY DAZE」のリードゲームデザイナーである私と、アクション周り全般を担当した長岡、そしてGUI周りを担当した能登の3人でお送り致します。第1部、第2部の2部構成です。よろしくお願い致します。まずは簡単にタイトルの紹介をします。「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」は、「PlayStation Vita」の特徴をいかしたフリーローミングなアクションアドベンチャーゲームです。主人公は重力を操り好きな方向に落下したりオブジェクトを巻き込んだりすることができます。その力を使って「ヘキサビル」という空中都市を舞台に「ネヴィ」と呼ばれる未知の敵と戦いながらさまざまな苦難に立ち向かうというストーリーです。
90秒で分かる!「GRAVITY DAZE」映像 - YouTube
まずは「重力アクションアドベンチャー」というゲームスタイルが確立するまでの道のりについてお話させていただきます。
「GRAVITY DAZE」は当初「PlayStation3」をターゲットに開発がスタートしました。そのとき外山ディレクターの中ではパズル要素が強いゲームというイメージがあったようです。重力を操ってオブジェクトに干渉して間接的にアイテムを入手したり、重力方向を変えて壁に立てるようにして主人公の移動ルートを作るなどを考えていました。それ意外は未定で、この時点ではあらゆる可能性がありました。
まずはチームでブレーンストーミングを行いました。ゲームプレイ、舞台となる街、キャラクター、敵、世界観の設定などさまざまなことを話し合いました。同時にたくさんのイメージボードを作成してビジュアルイメージを広げていきました。この時点では何でもありのカオスな状態です。それぞれの持つイメージをアウトプットしていき、外山ディレクターの判断で一つ一つ決めていくことで、徐々に「GRAVITY DAZE」の世界観がまとまっていきました。
数々のアイデアが出るなか、箱庭的なフィールドを舞台としたアドベンチャー的な構成にすることで、重力操作を主軸としたフリーローミングなアクションアドベンチャーゲームを目指そうということになりました。ゲームの心臓部分である重力操作による移動の仕様などをまとめて「仕様概要書」というものを作成し、次のフェイズで試作すべきことを決定しました。
企画初期の段階ではまだ具体的なゲームイメージはありませんでした。ブレーンストーミングを重ね、ビジュアルイメージの模索をしました。ゲームイメージを明確化するために「仕様概要書」もこのときに作っています。
そして、ゲームのコアとなる部分を作るために試作すべきことをピックアップしました。試作の目的は明確で、「重力変化を使った移動が楽しいかどうか」を検証するものです。重力操作による移動をまだ誰も体験したことがないので、「そもそも遊びとして成立するのか?」というのが想像がつかず、また実際にやってみるまで面白いかどうかもわかりません。それを検証して作る価値があるというのを証明することがとても重要です。
まずは仮のモデルをサクッと作って、その中で重力操作をして壁を歩いたり飛んだりできる簡単なデモプログラムを作成しました。このテストでわかったことは、重力操作で壁を走ったりすることは意外と楽しいということです。もし魅力的な街があったとしたら、そこを自由に飛び回ったり、探索したりすればすごく楽しいだろうと想像することができました。このことによって、重力操作というキーとなるシステムが本ゲームの主要素となり得るということが証明されました。
次はさまざまなレベルデザインのテストを行いました。空中迷路、閉鎖空間などさまざまな地形を作ってみて、どのような地形構造やリンクがこのゲームに向くのか、そして楽しいのかということをテストしました。その結果、さまざまなことがわかったので、その事例の一部を紹介します。これは完成写真なのですが、人が視覚情報から重力的な「下」というのを判断する仕組みというのはとても複雑です。その仕組みを簡単に説明しますと、視覚から入ってくる情報と過去の経験との比較によって「下」方向を推測していると言えます。よって、視覚情報の中に見慣れたものが多いほど「下」方向が容易に推測できるというわけです。
例えば、このように幾何学的なデザインの地形で、主人公の重力方向が既に変わっているのですが、これを見たときに直感的に「下」方向を判断するというのは非常に困難だと思います。実は、こちらが実際の下(画像の矢印方向)になります。主人公は壁に立っているという状況です。よく見てみると、主人公の髪の毛やスカーフが「下」方向に垂れ下がっているのですが、そうした仕様を知ったうえでじっくり観察しないとわからないというのは親切ではありません。
では、こちら(右側の図)をご覧ください。パッ見ただけで本来の「下」方向がわかると思います。このようにすぐに「下」方向がなんとなくわかるというのは、街のように複雑な構造の中では、方向性を見いだすためのきっかけが無数にあるからです。私たちはそういったものから、経験的に「下」方向を判断する能力を備えています。例え空想の街でもそれは通用します。本作では特殊なアクションステージなどでも街の要素を持ち込むことによって、プレーヤーが方向感覚を保てるように工夫しました。
また、プレーヤーの中には今実際に目に見えているものから何とかして正しい重力方向を推測しようという無意識の心理が働きます。その基準となりやすい目立った地形というのは、安易に傾けるべきではありません。ここにある異次元ステージと呼ばれるアクションステージは無秩序な世界に見えますが、実は上下の判断に使われやすい基準となる地形で特に大きなものというのは全て正しい重力方向にしてあります。
またプレーヤーがカメラを動かしてどの方向を見ても上下感覚の基準となる地形がなるべく多く画面におさまるように工夫をしています。街は上下にも大きく立体的な構造とし、空中には船が飛び交うなど、なるべく多くのものが画面に映り込むように工夫しています。
試作を行うことでゲームデザインの方向性が見えてきました。自由な移動、開放感が面白さのコアであること、制限をきつくしてパズル要素を強めてしまうと良い所がスポイルされてしまうということなどです。よってシビアなルートパズルには向いていないのではないかという結論になりました。なんだかんだで、街っぽい構造を自由に飛び回っているのが一番楽しかったということです。
試作期間に行ったことはゲームプレイの検証だけではありません。キャラ、背景のイメージボードの作成、仮背景データの作成、各種シェーダーの研究、イベント案、ストーリーの作成、コンセプトイメージムービーの作成です。
コンセプトイメージムービーについて話をしていきます。ある程度方向性が見えたときに外山ディレクターから「コンセプトムービーをつくろう」という話がありました。これまで別々に作ってきたゲームデザインとビジュアルの成果物を統合して作るもので、これを見れば「GRAVITY DAZE」というゲームがわかるというものです。
このコンセプトムービーを作ることによって、各自バラバラだった「GRAVITY DAZE」のイメージがまとまりチームで共有することができました。ゲームデザインとしてはこのムービーの内容をユーザーがそのまま体験できるということを目指すことにしました。
順調に開発が進んでいたのですが、ここで突然「PlayStation Vita」での開発にシフトすることが決まりました。主に、重力アクションは「PlayStation Vita」のモーションセンサーと相性が良さそうである、またゲームのリリース予定時期が「PlayStation Vita」のローンチ付近だったということが挙げられます。これを私たちは前向きにとらえ、いったんチーム規模を縮小して、仕切り直すことにしました。
とは言え、「PlayStation Vita」は当時まったく未知のハードでこれまでやろうとしていたことが実現できるかわからなかったので、ゲームデザインをいったんリセットすることにしました。「PlayStation Vita」の検証はまず、モーションセンサーとタッチパネルで行いました。結果としてわかったことは、モーションセンサーは重力アクションと相性がよいということ、一方タッチパネルはボタンとの組み合わせでホームポジションを崩す持ち替え動作がわずらわしく、あまり相性がよくないという印象でした。しかし、「PlayStation Vita」で実現できることも多く、大きく方針を変える必要がないことがわかりました。
一方、ゲームデザイン面では大きな壁にぶつかっていました。それは、まだ重力アクション「らしさ」が足りないということです。当時は重力方向を変えるだけではまだゲームプレイのインパクトが弱いと考えていて、もっと重力アクションらしくするにはどうしたらよいのかと模索していました。しかし、安易に新規要素を追加するとゲームがわかりにくくなってしまうという問題が事態をやっかいなものにしていました。
そして、開発の後半にさしかかったタイミングでゲームデザイナー間で話し合いを持ちました。「PlayStation Vita」と出会うことでモーションセンサーを使った非常に新規性の高い移動アクションを手に入れることができ、また魅力的な世界観という武器もあります。ですので、これだけでも十分に戦えると判断しました。そして、「重力操作による移動」に特化させたうえで、ゲームとして馴染みのある安心できる手触りをうまく融合していこうということになりました。
ここでようやく、重力を操って街を自由に移動し、その力でさまざまな事件を解決してくアクションアドベンチャーゲームが「GRAVITY DAZE」であるというゲームコンセプトが成立したと言えます。
ここまでのまとめです。面白さを言葉で明確に伝えられないプロジェクトというのは、試作がとても重要です。イメージをチームで共有するということも重要です。新しいことというのは理解してもらうことが難しく、まずはチームメンバーに理解してもらうということがとても重要です。また、新しいことを意識するあまり、全てが革新的でなければならないという思い込みがあります。しかし、新規性の高いゲームを目指すときは、この危険は仕方がないことだと思います。要はそれを正しく認識することが重要だということです。
では、次は新規性の高いコンセプトを持った企画を「ゲーム」にするために重要なことについて掘り下げていきたいと思います。長岡がお話致します。
長岡 靖仁さん:
今回「GRAVITY DAZE」では、プレーヤーアクション周りなどのプランニングを担当しました。新規性の高い企画というのはメリットだけじゃなくデメリットがあります。メリットというのは新鮮さ、オリジナリティをアピールできユーザーの好奇心を刺激できること。デメリットというのは、前例が無いためにどんなゲームなのかが伝わりにくいことです。
ユーザーというのは「新鮮さ」だけでなく「安心感」を同時に求めています。
では、これを城作りで例えてみます。コンセプトというのは、いわば天守閣です。ゲームデザインがこの構造というのに例えられます。新規性が高くて魅力的なコンセプトというのは、「立派な天守閣がある」というところにつながります。天守閣だけでは城は造れないので、石垣、堀、城壁、城本体などがそろってはじめて城になります。そして、その各要素というのは城が「城」であるためにフォーマットがある程度決まっています。
ゲームで言うならば先人の蓄積によってフォーマットというのがある程度あるわけです。システム、基本操作、エネミー挙動など今までに積み上げられてきたものがたくさんありますが、それらは城と同様、「ゲーム」としてのフォーマットがある程度決まっています。
ゲームデザインにおいてはその要素の個別の新規性よりも、「どの要素を選択するのか?」を決めることが重要なのです。
極端な言い方ですが、創造するのが「コンセプト」で、選択するのが「ゲームデザイン」というのが私の持論です。
ゲームデザインで正しい選択をするために重要なことというのは、コンセプトを掘り下げることに尽きると思います。つまり、作ろうとしているゲームが「ユーザーにどんな体験を与えて、結果としてどんな感情を生み出すのか」を明確にすることです。明確化されることでゲームデザイン時の要素選択の判断基準、言ってみればタイトル制作の「憲法」です。最初にこの憲法を作ろうということです。
では、フォーマット例です。「プレーヤーが○○をすることで、△△な気持ちになるゲーム」を例としたとき、「○○」というのはゲームプレイの大半を占める行為、「△△」というのは具体的なプレーヤーの感情は何だということになります。
「プレーヤーが○○する」といっても、例えばRPGだったら戦ったり、探索したり、成長したりといろいろな要素があるから「○○する」なんて一言じゃ書けないだろうとなりますが、複数の行動を結ぶ共通のカテゴリーワードがあるはずです。例えば、「子ども時代の夏休みに遊んだことを追体験する」といったものです。
「△△の気分になる」というのも人によって解釈が分かれるような抽象的なものではなく、「子どもの頃に戻ったようなノスタルジックな気持ちになる」といった、実はこれ「ぼくのなつやすみ」の話しなんですが引用させて頂いています(笑)。チーム内で共通理解が得られるような内容であることが重要で、「あぁ、そういう感じか」という共通認識が大切なのです。
それが次のSTEP2にいくと、今度はコンセプトを評価するというのが必要です。明確にしたというのは「やりたいことが分かった」というだけ。その後に芯の太いコンセプトを作るためにはコンセプトを「評価する」ことが重要です。
評価の基準としては、まずは妥当性の評価、「○○すると本当に△△な気持ちになるのか?」に妥当性があるのかどうか。次に独自性の評価として「○○する以外では△△な気持ちにならないか?」。他にもっとこんな気持ちになる手段があるんじゃないのかと、そしてそれがあった場合には独自性としては評価できないだろうということです。最後には魅力の評価として「○○して△△な気持ちになりたいとユーザーは思うか?」。この3つを満たせば良いコンセプトではないかということです。
では、「GRAVITY DAZE」の場合ですが、「重力を操作する」というのが○○をするというところ、「空へ落ちていくような浮遊感やスリル感」が△△な気持ちになる、これがアクションの部分のコンセプトになっています。
その場合に「空を飛ぶのではなく、空へ落ちる感覚が必須」という話になっていきます。コンセプトを掘り下げた結果、飛ぶのではダメだと言った場合に舞空術ではなく、空中にある目標地点を決めてその方向へ直線的に移動するというある種不自由な空中移動の仕組みが必須だろうと理論的に導き出されます。
空中移動をベースとしたプロトタイプがある、それをベースとしてそこを活かしたアクションとなる場合に、アスレチックアクションとなってくると地形に依存してしまいゲームが作りづらい、と言った場合に相性が良いのは、エネミーを中心としたバトルアクションにした方がいいだろうというのが導き出されます。
今回、空中移動のシステムは独特な分バトルの仕組みはシンプルに分かりやすくするというのがよいのではないかと考え、1ボタンで出せる重力キックのシステムや「ここを狙うように」というコアを敵に用意してわかりやすくしています。
つまり、コンセプトが明確だと仕様において何を選択すればよいかというのは、勘ではなくある程度論理的に導き出すことが可能です。
まとめです。新規タイトルというのは「新鮮さ」だけでなく「安心感」も大切だということ。創造するのが「コンセプト」であって、それをもとに正しい選択をするのが「ゲームデザイン」です。そして、その「コンセプト」を掘り下げ評価して、チームでシェアすることが重要なのです。再び、大倉に戻ります。
大倉:
では「GRAVITY DAZE」で行ったレベルデザインの制作フローについてお話をします。「GRAVITY DAZE」で目指していたことは「仮想世界の実存感を重視する」ということです。どいういうことかと言いますと、ゲームをプレイしながらゲームシステムの都合を感じない生きた仮想世界を作り挙げるということです。
通常ですと、プレイヤーキャラクターがジャンプしたり走ったり、速度とか高さとか基本となるゲームシステムをある程度確定してからそれを元にフィールドを設計して最後にアーティストによるデザインを行います。
しかし、「GRAVITY DAZE」のチームにはある課題がありました。これも開発ハードを変更したことによる影響の一つです。ゲームシステムはまだまだ発展途上で、すぐには確定できないが、すぐにフィールドの作成を開始しないとスケジュールが間に合わないという状況で、従来の方法では実現が不可能なのです。
この問題を解決しつつ視覚世界の実存感を出すためにはどうすればいいのか。極端で誤解されそうな言い方になってしまいますが、あえて言います。世界観設定を元に、アーティスト主導で街を作ってしまうという方法をとりました。しかし、これは皆様もおわかりだと思いますが、ゲームシステムに都合の悪い地形データができあがってしまうことです。ひどい場合はゲームで使えないものになってしまうこともあります。ゆえに、通常この方法で背景が作られるということはまずありません。
私たちはさまざまな工夫でこの問題を克服しました。まず、厳密なレベルデザインを必要としないゲームシステムです。このゲームでは、ルートパズル的な遊びを強くすると自由な重力移動による開放感をスポイルしてしまいます。逆に考えると街においてはそのようなパズル的なデザインをする必要がないということです。この制限を無くすことで比較的自由に街を設計することができます。次に街のイメージを共有することです。街の詳細な部分のイメージボードがアーティストによってたくさん描かれていましたので、どのような街が作られるのかというのは、私たちにも予想することができ、事前に問題点があれば指摘したり口頭での修正をするといったことができました。成果物を随時チェックできる自動ビルド環境というのがあり、アーティストは常に最新のプログラムで、自分の作った街をテストプレイすることができました。ですので、問題点をすぐに見つけて修正するということができます。また、ゲームデザイン側の環境でも常に最新の背景データを使ってイベントを組んでいたので、何か問題があればすぐに修正を依頼するということが可能でした。あとはお任せです。アーティストのやる気が満々で皆が自主的に動くというチームでしたので、それに乗っかっていきました。全てがチームワークにおいて成されたと言えます。ちなみにですが、異次元ステージやチュートリアルステージは先にゲームデザイナーが設定とプレイ検証を行ってからアーティストが作りこんでいきました。
レベルデザインで一番頭を抱えたのがコリジョンです。重力方向を変えてあらゆるところに行けるということは、あらゆるところにごまかしがききません。「都合の悪いところに壁をおいてそこから先へは行けないことにすればいい」という方法は全く通じません。これは企画の最初からわかっていたことではありました。それでどうしたかと言うと、あえて考えないことにしました。なぜなら、可能性の芽を摘んでしまうことになりかねないからです。とは言いつつも、いつまでも目をつぶっているわけにもいかないので、このような方法をとりました。コリジョンに依存したキャラクター挙動は極力行わない。どういうことかと言いますと、あらゆる方向に重力は変わって地形などに依存したキャラクター挙動は行っていないということです。例えば、乗っているヘリから落ちにくくしてみたりとか、狭い足場に着地するのをサポートするシステムだとか、そういったことを行わないことでコリジョンルールをゆるめることができました。大量生産の地形作成システムとフローについてですが、街はパーツをブロックのように組み合わせて作っています。そのために特定箇所のコリジョントラブルは起こりにくく、一つ直せば全部直るという形になっているので修正はしやすくなっています。
残り2つがプレイヤープログラムの職人技とひたすらトライ&エラーです。つきつめると精神論になってしまうのですが、遊びやすさに直結する部分なので最後の最後まで調整が行われました。
最後にこれだけの困難を乗り越えることによって得られたメリットについてお話します。「ゲームシステムの都合に縛られずに実存感のある世界が構築しやすい」、これに尽きます。「GRAVITY DAZE」のゲームコンセプトに直結することなので、このメリットはとても大きく重要です。アーティストから出てくるたくさんのアイデアの多くを生かすこともできますし、細かい設計をやり取りする時間というのも大幅に縮小することができます。
まとめです。本作のゲームデザインで目指したのは「重力操作」と「いきている街」との「コラボレーション」です。そのためにはゲームシステムに「だけ」都合のいい世界をつくってはいけません。「ゲームシステムに合わせたレベルデザイン」ではなく「実存感のある街を楽しむためのゲームシステム」を作るという逆のアプローチをしました。これが最も重要な点だと思います。
ここで第1部は終了です。次にGUIのお話に移らせていただきます。
能登 伸治さん:
ここからはGUIのパートに入ります。「GRAVITY DAZE」ではGUIとグラフィックデザインを担当した能登と申します。本日はよろしくお願い致します。今日は「GRAVITY DAZE」のマップナビゲーションをどう表現するべきか、もう一つはタッチパネルという新しいユーザーインターフェースをどう使うべきか、この2つの制作初期から完成に至るまでの経緯を中心にお話します。
まずは、マップナビゲーションの話からです。開発当初は僕たちのチームのメンバーも最終的に「GRAVITY DAZE」がどのようなゲームになるのか、まだはっきりとは見えていなかった時期なので、まずフリーローミングについて、他のゲームや自分たちの過去に作ったゲームをきっかけとしてアイデアを出していきました。フリーローミングといえば上の写真のプレイ画面の右下に表示されているものです。このマップには目的地までの最短距離が表示されて要はカーナビとして機能しています。これが、フリーローミングの定番だと僕たちは考えました。他には「GRAVITY DAZE」の以前に手がけた作品で既にマップを作った経験があったので、「GRAVITY DAZE」も3D空間を自由自在に動けるゲームだったら見た目も操作性も3Dのマップが最適だと最初は考えました。
ところが実際にプロトタイプにしてみると、主人公が高速で空を飛ぶときにはミニマップのような近距離の周辺情報というのはどんどん流れてしまって、全然役に立たないことがわかりました。
通常のフリーローミングのゲームではキャラクターが移動するわけですが、「GRAVITY DAZE」の場合、主人公が空中に浮かんでしまった時点で道路を基準としたカーナビ的な概念は全て崩壊してしまいます。また、巨大な街を3Dで表現しようとするとカメラが建物にめりこんだときの処理の問題などが生じます。
仕切り直しをして、最終的に僕たちは単純で原始的な2Dのマップによるナビゲーションを採用することにしました。
歩いたり車に乗ったりするだけでなく空を飛べるゲーム、つまり地形にとらわれずに移動できるゲームの最短距離というのは、現在地という点から目的地という点を結ぶ直線なわけです。この目的地をズバリそのままゲーム画面に表示してあとはその点に向かってプレーヤーが向かってくれれば、いつか目的地にたどり着くはず、というアイデアに落ち着きました。
画面の中央にある白い点が目的地です。この点を画面の中央に置いて飛んでくれれば、いつか目的地に着きます。
もし、途中に障害物があればプレーヤーが判断して遠回りしてまた白い点に向かって飛んでください、というナビゲーションなのですが、これも親切過ぎず突き放し過ぎずという感じで良いあんばいだったと思います。
2Dにした理由の一つにスマートフォンの存在があります。ちょうど僕たちが開発し始めた頃にiPhoneが普及しはじめて、タッチパネルと2DのGoogle Mapsの相性がとてつもなく良いことがわかりました。既に模範解答に近いお手本が目の前にあるのに、あえていばらの道を行くことも無いだろうという判断で2Dマップにしたというのがあります。
2Dでいくことまでは決まったのですが、どんな様式で表現するかで迷いました。思いついたアイデアが女性向けの雑誌、タウン誌、観光地などにあるイラストマップ、「京都お寺めぐりマップ」とか「月島もんじゃ焼きマップ」みたいなものです。
これが実際にゲームで使ったマップの画像です。イラストで描かれている建物のサイズなどは見た目の印象に合わせて大きく描いたり、まったく無視したりしています。つまり、プレーヤーの目印となるランドマークだけに表現を集中したわけです。これも遠くの風景を見ながら高速で移動するゲームにマッチしたと思います。
レベルデザイナーなどが作る地形というのは16:9にバランスよくおさまるような条件で作ってくれるわけではありません。いびつな形状になるわけです。そうなると通常、画面に余白が発生します。僕たちは雲を描いたりといろいろごまかすわけですけれども、非常に苦しいものです。ところがイラストマップを使うと、余白部分に各都市の主要なモチーフを描きこむことができて、いびつな形状を逆に利用することができました。
「GRAVITY DAZE」では特に新規性の高いアイデアや技術を取り入れたわけではありません。僕はもともと現場畑ではないグラフィックデザイナーだったのですが、GUIを含めデザインのプロセスというのは常に問題解決の連続だと思っています。グラフィックデザインのときは困った問題をかかえた案件やクライアントだったわけですが、ゲームを作るようになってからはそれが困った問題を抱えた仕様やゲームディレクターになっただけだと思っています。たくさんの問題を一つずつ解決していくのがデザインのプロセスなわけですが、アート側からのアプローチやひらめきで複数の問題を一度に解決できるときがあります。それが問題解決の理想的な形と言えるわけですが、今回の「GRAVITY DAZE」の場合はイラストを使ったマップだったというわけです。
ここからタッチパネルについての話に移ります。全く初めて使う機能だったために、かなりの試行錯誤がありました。タッチパネル自体が新ハードである「PlayStation Vita」のウリの一つということもあり、「GRAVITY DAZE」にもファーストパーティーとしてハードの機能を最大限に引き出すというミッションが自然と課せられることになりました。
当初プレーヤーアクションの方にもどうにかうまくタッチパネルを使えないかと試行錯誤を重ねてきたのですが、やはりアクションが中心のゲームということでどうしてもレスポンスの高い操作性を重視すると物理ボタンの比重が増えていきます。そこで、タッチパネルの仕様はGUIの方で吸収してしまおうということになりました。つまり、十字キーで選択、ボタンで決定という従来のターゲットカーソルの仕様を捨てて、指一本によるダイレクト入力で全て済ませるという判断です。タッチインターフェースだけでいかに快適に操作させるかという試行錯誤につながっていきます。
まず考えたのがこちらが指示しなければユーザーは画面を触ってくれないのではないかという疑問です。従来のハードと同じく「PlayStation Vita」には十字キーも物理ボタンもついていますし、「ボタン連打しているのにゲームが始まらない」なんてことが起きないようにする必要がありました。「GRAVITY DAZE」では主人公のペット、というかマスコット的なキャラクターがいるのですが、タッチ入力が必要な箇所には全て猫の肉球のアイコンを表示するというアイデアでユーザーにタッチ入力をうながすようにしました。
特にゲーム冒頭では画面のリンゴをタッチではたき落とすというのを入れて、「ボタン入力よりまずタッチ」という印象をユーザーに与えるようにしています。
携帯電話というのは通常両手でホールドして遊びます。ゲーム中の通常のアクション操作は物理ボタンを使っているので、どうしても一度ボタンを押している手を離さないとタッチパネルをタッチすることができません。何度もこれをやらされると面倒くさくてユーザーはゲーム自体をやりたくなくなるかも知れません。ということで、「PlayStation Vita」を両手でホールドしたとき親指を物理ボタンからちょっと伸ばすだけで触れる位置、つまり画面の両端にタッチのボタンを集中させるようにしました。
タッチ入力の弱点として触覚によるフィードバックが全く無いために、入力できたのかわからないという問題があります。一口に指で触るといっても指先で触る人もいれば指の腹で触る人もいて人それぞれ触り方が違います。そのあたりはユーザーがトライ&エラーを繰り返すことで、学習してもらうしかないという部分もあるのですが、ゲームの方からも学習をうながすようなフィードバックを与える必要があります。「GRAVITY DAZE」の場合は指先が触れた箇所が必ず発光するエフェクトを入れて、指先のどこが触れているかわかるようにしています。
iPhoneを触って初めてわかったことなのですが、タッチパネルというのは現実に即したUIの挙動とか視覚的なフィードバックがすごく重要になります。指が止まらずに動いている慣性だとか、画面の端に行ったときに跳ね返ってぶつかってまた戻ってくるというのがあります。Appleはその辺りを研究してよくわかって作ってらっしゃると思うので非常に参考になるのですが、重要なポイントだけあって特許もたくさんとられているようです。その微妙なポイントに抵触しないように僕らもユーザーへのフィードバックを大切にしていこうと考えています。
また、タッチ入力の弱点として指で押そうとしている箇所が見えなくなってしまうという欠点があります。「GRAVITY DAZE」ではボタンが密集している箇所では画面を押している指の周りにボタンを一度広げて、もう一度押したいボタンを押させるというアイデアで対応しています。
「GRAVITY DAZE」の操作は最終的にはタッチパネルと物理ボタンとの併用になりました。ユーザビリティの観点から言えばその判断に全く後悔はないのですが、ルールの整合性、フィードバックの信頼度という観点から見ると最後の軸がぶれてしまったかなという反省点はあります。このタッチパネルと物理ボタンの共存という問題は今後のソフト開発でも大きな課題にとなっていくと思います。
ご清聴ありがとうございました。
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