取材

「フィギュアも写真で見るんじゃなくて、ちゃんと実物を目で見て触ることです」謎の人物8月32日(晴れ)がベールを脱いでぶっちゃけまくりの「輪廻のラグランジェ」デザイナーズトークショー


2012年1月より放映されている千葉県鴨川市を舞台とするアニメ「輪廻のラグランジェ」は日産自動車のグローバルデザイン本部が本作品のロボット(オービッド)のデザインを担当し、作中のロボットはカーデザイナー自身によりブラッシュアップが施されています。ワンフェス2012[夏]では担当カーデザイナーの2人である大須田貴士さんと菊地宏幸さん、そしてデザインとカラーリングを監修している謎の人物「8月32日(晴れ)」さんを招いて、ウォクス・シリーズやデ・メトリオのオービッドが誕生するまでの紆余曲折が熱く語られました。また、ワンフェス2012[夏]で行われたアマチュアディーラーを対象にしたコンペティションの結果もこの場で発表されています。

ワンフェス会場の中にある特設ステージはこんな感じ。


開催は16:15~17:00。開始時間には続々と人が集まってきました。


◆「輪廻のラグランジェ」デザイナーズトークショー

廣田恵介(以下廣田):
デザイナーズトークショーということで、輪廻のラグランジェのメカデザインを担当をしたお2人、オービッドデザインの大須田貴士さんと菊地宏幸さんです。よろしくお願いします。


大須田貴士(以下大須田):
よろしくお願いします。


菊地宏幸(以下菊地):
よろしくお願いします。


廣田:
そして今回はゲストを1人呼んでおりまして、8月32日(晴れ)っていう明らかな偽名でオービッドデザイン&カラーリング監修をされている方なんですけど、今日は本名を明かすとうことでお招きしております、あさのまさひこさん。よろしくお願いします。

会場:
拍手

廣田:
何か一言お願いします。

あさのまさひこ(以下あさの):
えっと、8月32日(晴れ) という非常にややこしい偽名で仕事をさせていた、模型文化ライター、「ワンダーショウケース」レーベルプロデューサーあさのまさひこです。よろしくお願いします。


廣田:
あさのさんは何で偽名を使われていたんですか。

あさの:
理由は2個ありまして、まず1個が、僕はモデルグラフィックスでよく仕事をしているので、僕が本名を出すと「HobbyJAPAN」と「電撃ホビーマガジン」が多分取り上げてくれないだろうと。まあ、それは半分うそで半分本当なんですけど。リアルな理由っていうのがもう1つの方で、結局、良くも悪くもWikipediaに項目があるような人間がメーカーデザイン関わっちゃうと、「あさのが関わってる」っていう色眼鏡で見られちゃうじゃないですか。カラーフィルターを通して大須田さんとか菊地さんのデザインが見られてしまうのは絶対に避けたかったので。カーデザイナーが手がけたロボットが主役メカとして登場するっていうのに、脚色を加えたくなかったんですよ。だから「8月32日(晴れ) 」っていうよくわかんない名前にしといて、ばれなきゃいいかなって。最初はもうちょっと、「分かる人にはわかる」っていう名前にしようと思ったんですけど。フリッパーズギター系のネタで「ロリポップソニック」とか。でも、分かる人にわかりすぎちゃうので。わかったらTwitterでガ~ッていっちゃうから。これはもう完全にわかんない方がいいかなと。

廣田:
あさのさんはレーシングカー雑誌にも関わっているんですよね。

あさの:
まあ、一応。はい。

廣田:
で、アニメのことって今まで経験あります?

あさの:
ちょっと……。ア・リトルですよ。

廣田:
ガンダム・センチネル」って言ったらみんなにわかりやすいでしょうか。

あさの:
分かる人には分かる。

廣田:
ガンダム・センチネルを知ってる人……。あ、やっぱり何人か。ガンダム・センチネルはどういう役をされたんですか。

あさの:
うーん。なんか総監督兼、プロデューサーをやりました。

廣田:
というお話を、大須田さん・菊地さんはご存じなんですか?

大須田:
僕はもうがっつり、ガンダム・センチネルを見てたんで。

菊地:
センチネルは知っていましたが、残念ながら僕はあまり。

廣田:
最初にじゃあ、あさのさんがディレクションに入るって聞いた時はどんな気持ちで……。

大須田:
まあ、狂気乱舞というか……嬉しくて。

菊地:
いや、僕は全くインプット無かったんで、ただ大須田さんの方から「すごい人だから、取りあえず聞いとけ」みたいな。じゃあとりあえず全部聞いてみようかと。

廣田:
じゃあ、そういう状態で、あさのさんが全部統括して……。

あさの:
まあ大げさに言えばそうですけど。基本的には僕の好きなように塗り替えるというよりは、そこに埋まっている正解値を引き出すのをお手伝いさせて頂くという感じで。

◆オーピッドのカラーリングに対するこだわり

廣田:
じゃあまず、カラーリングの話から。

あさの:
カラーリングに関しては、ウォクスは3体とも僕がゼロからカラーリングをして、菊地さんのデ・メトリオのやつは、僕は色のチューニングを。「ここはもうちょっと茶色に振らない?」とか「もうちょっとオレンジに振らない?」とかは言いましたけど、これは基本的に全部菊地さんです。で、ヴィラジュリオの側のやつは、僕と大須田さんが一緒にやったやつです。ちなみにヴィラジュリオ機のバージョン2の配色で、なんで色が入れ替わっているかと言いますとね、あの、白の部分と赤の部分が逆になっているんですけど、実を言うと、最初はこの色だったんですよ。大須田さんがデザインした段階で。ただこれだと、ウォクスと配色が似すぎてて、味方の機体に見えちゃって。


廣田:
白の面積が多いんですね。

あさの:
ええ。なので、じゃあ逆転させましょうと。ただ、逆転させる元のやつもかっこいいんで、鈴木利正監督に「シーズン2で色逆転させてもいい?」って聞いたら、「いいよ」って言ってくれたんで。これ、何がやりたかったかっていうと、F1分かる人にしか分かんないんですけど、1982年のチームブラバムBT52っていうマシンがですね、第5戦モナコGPからだったか、紺の部分と白の部分が入れ替わってBT52Bになるんです。それがやりたかっただけなんですけど。

大:
僕もF1大好きだったんで、即座に「それはいいです。やりましょう」と。

廣田:
ウォクスに関してなんですけど、ひと口にグリーンって言っても、羽のところと首回りでは濃度が違う、微妙に。そういうカラーリングデザインをアウラでやってますけど、同じことをリンファとイグニスでやってるかっていうと違うじゃないですか。


あさの:
そうなんです。リンファとアウラは濃度が逆なんです。何でかって言うと、リンファでアウラと同じことをしちゃうと、ヒーロー色が色濃いリンファの方が強そうに見えちゃうんですよ。リンファがどう見ても主役機に見えちゃうんです。だから、だからわざと周囲に淡い色を置くことによって印象を散慢にしているんですね。リンファの方が実はサブ機なんだよっていうのが分かるための演出として濃淡の位置も入れ替えてる。

廣田:
で、イグニスがオレンジ。これは濃淡がついていないんですよね。


あさの:
ついてないです。オレンジっていうのは、カラーリング・デザインに詳しい人は3軸……色相と、なんだっけ明度・彩度?で考えた時に、オレンジっていう色は明度をあげていくと肌色になっちゃうんですよ。逆に明度を下げていくとレンガ色になっちゃいます。オレンジのバリエーションって実は作れないんですよ。だから、オレンジに関しては単色で構わない。

廣田:
じゃあわりと、そういうトライアルを……。

あさの:
そうですね。あくまでもこの3機のデザインに関してはグラフィックデザインの考え方でカラーリングしていて。あともう一つ僕の方から余計なことを言っておくと、特にウォクスなんですけど、色使いの見本は「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」なんです。あれのνガンダムとかサザビーとかって、実はものすごく使っている色数が少ないんですね。なのにヒーロー性が全然損なわれてなくて、非常に的確なチューニングなんですよ。あれを前からすごく気に入ってて、単にグラフィックデザインで考えるだけじゃなくて、ガンダム的な文法とか、そういうリアルなロボットアニメの文法をちゃんとそこに落とし込みたいなって。そういう感じですね。

廣田:
それはガンダム的なロボットも意識しながら……。

あさの:
もちろんそうです。ていうか「ガンダムSEED」じゃなくて……「機動戦士ガンダム00」かな、そのモビルスーツのカラーリングがどれも非常に素晴らしくて。それ以前のものが、よくないものがすごく多かったんで、結構見てて「なんでこんなにカラーリングよくないいんだ」ってフラストレーションがたまっていて。ここでちょっと、「グラフィックデザイナーのお仕事をやってあげましょう」と。

◆カーデザイナーたちと8月32日(晴れ)としてのディレクション

廣田:
作業的なディテールの話はあとでまた聞こうと思います。その前に、大須田さんと菊地さんは最初のコンペでは結構自由に描かれたと思うんですけど、その点はどうですか。アニメに向けて形を決めていかないといけない時期だったと思うんですけど。LAGRANGE DESIGNS (ラグランジェデザインズ)って本に、かなり初期のデザインが出てるんですけど、例えば菊地さんで言うと、かなり怪獣っぽいデザインなんですね。そのあたりのお話を伺っていいですか。


菊地:
はいはいはい。そうですね、最初のデザインはかなりあの……イメージスケッチみたいな感じで。肩のシルエットとか、全体の手足のシルエットみたいなものを描いてはいるんですが、いわゆるその、車をデザインしている人間がデザインしているっていう目で見てみると、「ちょっと怪獣っぽいね」っていう話がやっぱりありました。そこのところをあさのさんにもご指摘頂いて、「いやいや、俺ってカーデザイナーだよね!」みたいな立ち位置をしっかりさせてもらったっていう感じですね。


菊地:
それで色んなチューニングをして……一番難しかったのはテネリタス。テネリタスの怪獣からカーデザインへの進化っていうのは一番辛くもあり、楽しくもあり、という。


廣田:
大須田さんはどうでした?

大須田:
僕はですね、最初のコンペの時には、常に「変形アリ」っていうお題があったので、変形させなきゃいけない、かつ、当然ロボット形態と飛行形態がそれぞれかっこよくなきゃいけないってところで、すごく悩みましたね。その中で、初期の設定の中では音を使うっていう話もあって。

廣田:
音を。

大須田:
肩のところにスピーカーみたいなのがついてたと思うんですけど、あれはその名残なんです。


廣田:
黄色いとこですね?

大須田:
はい。ロボットって大体そうなんですけど、横から見たら薄っぺらなデザインって結構多いじゃないですか。それの特徴付けっていうのもありましたし、飛行形態になったときにこの4つがこう……羽の下に爆装がついてるみたいな感じに見えればなればいいなあっていうのもあって、そこをポイントにしてデザインしましたね。

廣田:
なんでそんな話を聞いたかっていうと、12年前の本なんですけど、「MEAD GUNDAM(ミード・ガンダム)」っていう本がありまして、これは「∀ガンダム」のデザインの本当に……荒いラフスケッチまで全て含めて、一体なぜこのデザインが作られていったかが書いてあるんです。∀ガンダムでモビルスーツをデザインしたシド・ミードが、一体何を考えてやったのかを徹底網羅した本で、僕のうちの本棚に12年間あったので今日持ってきたんですけど。

あさの:
それ、今ヤフオクで買うとすっげえ高いですよ。

廣田:
いくらですか。

あさの:
5000円以下じゃ絶対買えない。

廣田:
まあそんな試行錯誤があって∀ガンダムのデザインが出来たんだっていう。今回は、そういう方向からあさのさんのディレクション作業を見ていきたいと思うんですけど。まずは、これ。これは一体どういう指示が?

あさの:
まあ、うーん。もうちょっとこうした方がこの機体デザインにはあってるんじゃないかっていうのをイチイチ事細かーく書いていっただけの話ではあるんですけども。

廣田:
これ、字、見えます?読めます?これ一番上にね……。

あさの:
一番上の指示書きはひどいんですよ。

廣田:
「こういう言い方はアレですが、ひどいですね。『じつは菊地さんがいちばんキリウス機の真実を理解していない』ように感じます。キリウス機は『様式美』と『シャープさ&スピード感』だけで成立しているような『ジャニーズ系の機体』なんです」と。ロボットにジャニーズ系という言葉を使うっていうのは……。


あさの:
ひどいですね。

菊地:
あさのさんからのメールはどれもひどいんですけれども(笑)すごいこういう……グサグサっとくる言葉に毎回奮い立たせられるというところがあって、会社で仕事している以上に自分の刺激になりました。クリエイティビティっていうのはこうやって上がって来るんだなって。

廣田:
答えにくいかもしれないんですけど、じゃあ会社では……。

菊地:
会社ではそういうことは言われないんです。やっぱり。

あさの:
あのね、菊地さんは褒められて伸びるタイプなんですよ。

廣田:
褒めてない、褒めてない(笑)

あさの:
いや、だから、僕はコーチングとして褒めながら伸びるっていう概念がわからないんですよ。叩いて叩いて伸ばすっていうのが僕のコーチングなんで。


廣田:
続きですけど、「キリウス機ならではのスタイリッシュさが死んでしまっています」と。そこまで言われてよく……。

大須田:
僕だったら「もういいや」ってなってます。

菊地:
何度も悩みました。この時期は大須田さんからもいろいろ、アドバイスを側面からもらったりしてたんで。

あさの:
僕らはデザイン作業をやってるときに、菊地さんにデザインをもらう時にも、返す時にも、CCで大須田さんを常に入れてたんです。だから大須田さんもやり取りを全部見ているんですよ。

菊地:
「僕はこう思うんだけどさ」みたいなことを、ちょっと冷静な感じで言ってくれてたんで。会社の休み時間といかを使いながら、「あさのさんのコメントどう思う?」みたいな話をしたりして、自分を取り戻していく的な。

大須田:
あくまで休み時間にね。

廣田:
休み時間に2人で。

菊地:
はい。

大須田:
そうですね。

廣田:
じゃあ、次。イゾ機。これはどういう……。


あさの:
これも右上の指示書きがひどいですね。

廣田:
「ノズルがいくらなんでもザックリしすぎです。(これだと『マジンガーZ』の、スパロボの世界です)。『カーデザイン』を意識してゼロから再考して下さい!」と、ズバリ書いてありますが。

菊地:
書いてますね。僕もちょっと気を抜くとそっちに行っちゃうタイプの人間なんで、自分のカーデザイナーとしての取り組みっていうのをこの中に出さなきゃいけなかったんですね。こういうことは時々ありました。一例で言うと、小さなスリットなんですよ。ここにはないんですけども。スリットを2本書いたんです。ピッピって。そしたらあさのさんからコメントが返ってきて、「菊地さん、車は3本でしょ。スリットを3本に直せ」と。2本じゃあ車のデザインじゃないんですよ、と。ちょっとそこは……よく分からなかったんですけど(笑)取りあえず従っておけばいいかなって。


あさの:
いや、というのも僕が菊地さんに対して特に言ったのは、「積極的に、カーデザイナーのまねごとを演じてくれ」っていうこと。つまり、片岡鶴太郎が「マッチでーす!」ってマッチ(近藤真彦)のモノマネをやったのが、今じゃマッチの自身のモノマネみたいになっちゃってるじゃないですか。あれぐらい分かりやすくないと、世の中に「カーデザイナーっていうのはこういう感じなんですよ」っていうのがわかんないと思うんですよ。さっきのヴィラジュリオの手下の機体だったりすると……これなんか背面にポルシェ・928のテールエンドみたいなのがくっついてるんですよ。あれなんかも大須田さんに「大須田さん、申し訳ないんだけど、自分でやっててやんなっちゃうと思うんだけど、車のテールエンドくっつけてよ。それくらい分かりやすくしないと分かんないからさ」と。そういう意味で言うと、僕は2人にカーデザイナーを演じてもらうってところに対して相当お願いをしましたね。

廣田:
なるほど。じゃあ次に。これは先ほどの……。


あさの:
これがさっきの大須田さんの初期稿ですね。

廣田:
大須田さんはさっきの、バージョン2の方のアルヴィリウムのカラーリングは考えてたんですよね。

大須田:
そうですね。はい。で、この後に、あさのさんから主役機のカラースキームに近すぎるという指摘を受けまして。

廣田:
で、これが、改定案。


あさの:
この頃まだね、僕Photoshopの使い方がよくわからなくてですね。なんかこう、色の塗り方が汚いんです。範囲選択の使い方がよく分からなくてね。この頃はまだ手書きで書いてるんですよ。

廣田:
手書き。

あさの:
文字をね。で、この頃はペンネームとかまだ考えてなかったから普通にM・Aとかってサインが入ってたりする。だからCAR STYLINGの別冊作るときは全部そのへん消しまくった。

廣田:
なるほど。じゃあこれは悪役っぽさを出すために。

あさの:
悪役っぽさというよりは、単純に主役機と、アウラたちと、似た雰囲気を払拭するために変えて。

廣田:
これは……。


あさの:
これは大須田さんの方から、これは俗称、我々の間ではシオマネキと呼んでいるんですけど、の、カラーリングはヴィラジュリオ専用機の色と合わせてこんな色でどうでしょうかって来たんですけど、ちょっと弱いかなと。で、僕の方から3案ほど、「こんな感じでどうでしょうか」って。


廣田:
「ヴィラ機がシャア専用機と考えるなら、手下機は量産型ザクみたいな、グリーンもあり」……結構身も蓋もないことが書いてありますが。

あさの:
グリーンは、さすがにアレかなと思ってやめたんですけど。

廣田:
結局右下の青になったんですね。

あさの:
これは大須田さんにプレゼンして、「この中だったらどれが好きですか」って聞いたら即答で「青がいい」って話だったんです。よく見るとこの2色、マックスとミリアなんですけど。

廣田:
その変は意識して……。

あさの:
いや、あんまり意識はしてないですよ。単純にグラフィックデザインの方法論で考えていった時に「ああ、よく考えるとマックスとミリアってこういう配色だったんだね」って当てはまっちゃったんです。厳密に言うと違いますよ、マックスの青より僕の青の方が色味がいいです。

廣田:
(笑)えっと、次は武器……武装です。この武装を最初に描かれたのは、あさのさんですか?


あさの:
いや、大須田さんです。これは、この仕事の中でかなり快感度数が高かった瞬間なんですけど、鈴木監督の方から、「シオマネキにはランスを持たせて欲しい」っていうリクエストがあったんですよ。で、まず大須田さんが「こんなもんかな~」ってランスをデザインしてきてくれたんですけど、先っちょからカッターナイフみたいな刃が生えてて、どうもランスに見えなかったんです。ランスってやっぱり槍だから、槍に見えないのはちょっとなあって思って、僕が「こんなのどう?」って描き直して。ここからビームがヒュ~って出てたらかっこいいんじゃない?って。自分で描いてて「もっとかっこよくかければいいんだけど、なんかうまくいかない……。もういいや、送っちゃえ!」ってメールで送っちゃったんですよ。そしたらすごいかっこいい感じにブラッシュアップされてきて、「うわ~俺のアイデアすごいかっこよくなってんじゃん!」ってすごい嬉しかったです。


廣田:
これがこうなりましてね。


あさの:
あのひどいのが……。

大須田:
今のやりとりもやっぱり、あさのさんからラフであってもネタを振られたので、僕もこういう風に描けたんですよ。ゼロから考えるとなかなかそこに行き着くまでに時間がかかったと思うんですけど。

あさの:
僕の方もデザイナーではないので、どこまで踏み込んでいいのかが分からなかったんですけど、大須田さんは全然そこを嫌がらないで、喜んでくれてるってこともあって、結構後半はPhotoshop使いまくりでしたね。

廣田:
次。これは……。


あさの:
これはですね、むしろカラーリングで。ディセルマイン専用機はこの状態でデザインが進んでいたんですけど、ある日突然「これじゃつまんない」って思って……。で、イキナリ赤をバスっと入れたんです。色をこちらから大須田さんの方に「こんな感じにしてみたらどう?」って提案して。要するにこれ、ボーダフォン・マクラーレン・メルセデスなんですけど。


廣田:
はい、これは……武器ですか。


あさの:
これは、それまでの武器がちょっと細かったので。

廣田:
これ、ウルトラマンのアラシ隊員が持ってた、スパイダーショットっていう武器なんですね。この短くてぶっとい……。

あさの:
なんかそういう、オタク向けアイテムっぽいものをたまには据えたほうがわかりやすいかなと思って。ネットで落っことしてきて貼り付けて、みたいな。

廣田:
ちなみにこれはガレージキットなんで、円谷プロのオリジナルではないです(笑)形が分かりやすければいいという感じで。結局この時はどんな話を。

あさの:
それはあくまで、「なんかそんな感じ」って感じで。大須田さんがこれを見て、いい処理をしてくれて。

◆ガレージキット・コンペティション「デザイン賞」結果発表

廣田:
今日は、ワンダーフェスティバル5時でなんで、5時ギリギリまでやりますけど、ガレージキット・コンペティションがありますので、大須田さんと菊地さんにそれぞれに選んで頂いた作品を紹介しまして、賞を取った方には大須田さんと菊地さんのイラストをプレゼントします。では菊地さんからデザイン賞を。


菊地:
はい。ではリベルタスを作った、takahilowさん。僕が考えていた立体の120%くらいかっこよくしてくれたなって感じなんですが、特に背中の描写がすごくよかったんです。


廣田:
ええ、そうですね。

菊地:
非常にこれは感動しました。もちろんこれに近い、第2位みたいな人もいました。光っていて、非常にそちらも良かったんですけど、すみません、今回はこちらを。感動しました。


廣田:
これを作られた方はいらっしゃいますか……あ、いらっしゃいますね。

会場:
拍手

廣田:
では、後ほど。次は大須田さん。

大須田:
はい。「ウォクス・アウラ」を製作されたSparrow S.Aさん。非常にシャープなアレンジをされていて、飛行形態に特化して作られているのはよくわかったんですけども、この、かっこいい方向へのデフォルメ具合がすばらしくて。僕は女の子が主人公ってわかってたんで、角を丸くしたりとか柔らかいように意図的にしてたんですけど、放っておくと僕もこういう方向になるんです。だから今、僕が描くと多分こんな感じになるのかなって、共感を。


廣田:
なるほど。

あさの:
これは機首を安易に長くするんではなくて、むしろ縮めているのがかっこいいですよね。

大須田:
ですね。非常に面白かったです。


廣田:
この作品を作られた方はいらっしゃいます?……いらっしゃらないですか。

あさの:
僕は、ワンダーショーケースの選出作業がてら、さっき会いましたよ。

廣田:
じゃあ後ほど連絡を下されば、大須田さんの描かれたイラストを差し上げますので、ハイ。まだ若干時間がありますね。こうやってガレージキットで自分なりの解釈ができるっていうのは、すごく素晴らしいことです。特にメカニックは作るのが本当に大変なんで。まあフィギュアも大変かもしれませんけど、最近メカニックを作る人が少ないなあって感じていて。ハセガワからたまご飛行機が出ますけど、僕としてはちゃんと、スケールモデルとして、ウォクスもそうだし、デ・メトリオの3体も出して欲しいなと。それがまあ、キット……インジェクションキットであるということに、みんなもっと意味を見いだして欲しい。今のガンプラだと、シール貼って、ハイできました、一応形になりました、動きます、ってそうじゃなくて、形を捉えるために手で触って欲しいんですよ。

◆根本的に考えようっていうトライアルをラグランジェはしている

あさの:
今、廣田さんがおっしゃった通り、手っていうのはものすごく重要な入力デバイスで、プラモデルを作る方だと分かると思うんですけど、例えばザクを1体作ると、翌日からザクを描けるんです。だから、こういう、ウォクスみたいな複雑なデザインは2Dの絵で見ても絶対にわからないんですよ。だからパーツを作って、触って、「ああここってこうだったのか」って解釈するためにはマスターグレードがないと困るんです。僕はですね、浅草に出向きましてですね、直接プレゼンをやったんですよ。そしたらですね、「いや~あんまりやりたくないな~」っていう反応をされてしまって。


廣田:
そのくせに、あそこは色々出しますよね。タイトルは言いませんけど、あれも出してこれも出して……なんでラグランジェが出ないんだよ!と。はっきり言って僕、ホビー業界は情けないなって思ってますよ。なんでこれを出さないの、と。おかしい。だってカーデザイナーのお2人がですよ、ここまで頑張ってあさのさんにボコボコに言われながらやったものを素通りするなんて、ホビー業界はちょっと考えられないですよ。やっぱり。ちゃんとインジェクションでキットを出すべき。出したところは英雄ですよ。

あさの:
実際問題、今回、僕がどうしてラグランジェのメカデザインをお手伝いさせてもらいたいって自分から言ったかといいますとね、99年の12月27日に富野由悠季監督に∀ガンダムのインタビューをさせてもらったんです。その時に「シド・ミードを使った理由っていうのは、ブレードランナーじゃないよ」と聞いて。要はフォードに勤めてた工業デザイナーのミードに、ちゃんとした工業デザインとしてのガンダムをやって欲しかったんだと。ただし残念ながらミードはおじいちゃんだから、これがもう限界。だからこの次のステージに行くんだったらポルシェの若手デザイナーに頼むとか、それくらい思い切ったことをしなくちゃだめだっていうことを、もう10年以上前に言ってるんです。それをアニメ業界は全部スルーして、なかったことにしていて、それを今回とうとう日本の現役カーデザイナーに頼んだっていうこの事件性。それを聞いたときに本気でしびれたというか、鳥肌が立って。これはもう後世に残さなきゃいけない、レジェンドにしなきゃいけないっていうところで、ハイって言ったから、さっきも言ったように僕はペンネームを使わざるを得なくなったという。まあ、そこはいいんですけどね。言ってしまえば僕らの世代って富野チルドレンだと思うんですけど、その富野チルドレンが単にプラモデル買ってきて「うほーい」ってやってるんではなくて、ちゃんと仕事として、富野さんに返さなきゃいけないなって思ったんで。

廣田:
そこはやっぱり意識を変えて。「RX-78っていいな」って思うのは別にいいんですけど、いつまでもそれでいいのかっていうね。要するに∀ガンダムの時にRX-78をゼロ戦に例えていましたよね。RX-78はゼロ戦になったから、ゼロ戦の模型が今でも作られているように、RX-78の模型は出ててもいいんだと。ただ、そこから先に道はないですよね。いつまでたっても出て来ない。ちょっとラインが違うとか、装備が違うとかね。じゃあ根本的に考えよう、っていうトライアルを、僕はラグランジェがしてるって思います。そこをみんな、もっと、見て欲しい。去年の10月に NISSANホールで製作発表をやった時は注目されたけど、それ以降で注目されることがあんまりない。

あさの:
ていうかラグランジェのデザインに関しては、いいとも悪いとも、ほっとんど誰も何も言わないんですよね。むしろ「こうだからよくない」っていうのを言ってくれれば全然OKなんですけど。

廣田:
嫌いでもいいんですよ。ただそれが「交響詩篇エウレカセブン」に似てるから嫌いだとか「創聖のアクエリオン」に似てるから嫌いだとか、そういうレベルじゃ無くて、あのラインが気にくわないとか、この色が気にくわないとか、はっきり言ってもらっていいですよ。そうじゃないと自分も鍛えられないし、ファンの人や、業界全体も鍛えられない。みんなもっとドンドン言いたいことを言っていいんですよ。

会場:
(笑)

廣田:
僕はそう思うんですけど、僕の勝手な思い込みでしょうか(笑)

あさの:
いや、まったくその通りだと思いますね。

廣田:
なんかね、何かにつけて「これ言ったらやばいよね」とか、「これを褒めたらバカにされるんじゃない?」とか、みんな思いすぎじゃないかなって思うんですよね。そこまで大須田さんと菊地さんが気を大きくして当てられたんじゃないにしても、やっぱり得られた成果物っていうのは大きいですよ。

菊地:
いや、思うんですけど、今回こうやってアニメの業界と僕ら車の業界が一緒に作品を作ったことを、一般の人は「ああ、また日産とアニメの会社が一緒にやって、話題作りかな」って軽いイメージで受け取られるかもしれないんですけど、ここまでたどり着くのにハードルがたくさんあって、あさのさんにお願いする話もあるし、アニメを作る側の話も、ものすごい厳しい話が色々あったんです。ここに出てきたことっていうのは本当に、ちょっとやそっとのことでは得られない結果だってことを、みなさんに知って頂きたいなあって思っているんですよ。

あさの:
まだオンエア中の番組にこう言うのもあれなんですけど、多分みんな10年後に「あれはすごかった……」って気がつくと思いますよ。

会場:
(笑)

廣田:
大須田さんは何か……。

大:
そうなってるといいと思います(笑)

廣田:
10年後に残りますよ。っていうか僕らが残しますから。大丈夫です。

あさの:
素晴らしい。

会場:
拍手

廣田:
だってそれくらいやんないと、このトライアルは全然報われてないですよ。ここは模型の会場だから言いますけど、模型の一体くらい出してみろよ、と言いたいじゃないですか。

あさの:
ちょうどそこにバンダイホビー事業部の狩野義弘さんがいらっしゃいますよ。

会場:
(笑)

廣田:
じゃあ、ぜひ。

あさの:
ホビー事業部で、マスターグレードの∀ガンダムやR3のウォーカーギャリアも狩野さんが開発担当されたんですよ。

廣田:
はい、狩野さんありがとうございます。

狩野:
すみません、突然呼ばれまして……。


廣田:
この場の方に拍手で答えて欲しいんですが、ウォクス・アウラをマスターグレード・レーベルで出して欲しい方。

会場:
拍手

狩野:
ずるいなあ。この場にこうやって呼ばれてそう言われても。僕に商品をやるとかやらないとか決める権利はありません。

廣田:
個人的には?

狩野:
個人的にはですね、面白いなあって思うデザインではあるんですけど。ただ、シド・ミードの時と違って1つあるのは、さっきのミード・ガンダムの本がありましたけど、あれを見ても正解値がわかんなかったから、僕らなら最終正解値を出せる、という流れになったんです。だけど、このデザインに関してはデザインを見た瞬間にもう正解値があったので、ぶっちゃけバンダイでなくても、きっと同じものが出せるだろうと思いました。そこが大きな違いですね。なので、バンダイがやる意義っていうのが、プレゼンされた段階では正直わからなかった。

廣田:
じゃあ、もしかしたら10年後は……。

狩野:
わかりません。「もっとこういう風にした方がいい」って色んな人の意見があって、このデザインがもっと進化したら、何かあるのかもしれません。すみません、これは本当に個人的な……。会社の加担をするというわけではないんですけど。

廣田:
いえいえ。狩野さんがおっしゃったように、みんながこのデザインをどう思うか。いいと思ったら広めればいいし、悪いと思ったらはっきり言ってもらった方が、メーカーとしてはやりやすいと思う。今、狩野さんがおっしゃった通りですね。だからみなさん黙ってしまわないで。まだ番組はこれからも続きますし、いいと思った所はいい、悪いと思った所は悪いと、はっきり意思表示をしないと、メーカーも動かない。意思表示すればメーカーは動くかもしんないよ、という感じですね。

◆ガレージキット・コンペティション「大賞」結果発表

廣田:
あっ、すみません、今からガレージキットコンペの大賞を今から発表します。

会場:
(笑)

廣田:
今メカの話してんのに~!

大須田:
イキナリ来ましたね(笑)

廣田:
これはすごい、出来いいですよ。zenkoさんの「ラン」。大体、フィギュアって塗装でごまかされちゃう場合が多いんですけど、これはちゃんとしてました。だからフィギュアも写真で見るんじゃなくて、ちゃんと実物を目で見て触ることです。


あさの:
強引につなげてる……(笑)

会場:
(笑)

廣田:
触んないとわかんない。写真なんかで満足しちゃだめですよ。フィギュアでもなんでも、立体は、触ること。それが一番分かりやすいんですよ。塗装に、ある意味、ごまかされてはいけない。触らなきゃだめなんです。模型は全てそうです。だからみんな模型を箱で買って箱を積んでおくとか言ってないで、どんどん作ること。

あさの:
だから本当は、塗らなくていいんですよね。組んで、情報を手から入力して、これはこういうデザインなんだっていうのを頭の中で組み立てられたらいいんですよ。

廣田:
指が入力デバイスっていうのはそういう意味で、頭の中で立体を組み立てられるんですよ。後日、目の前の模型がなくなっても、頭の中でちゃんと覚えてる。それは人間の能力だから、実感しましょうよ。模型好きの人は。

大須田:
僕も菊地もそうですけど、やっぱ小さい頃は模型を作って、手で立体感を覚えて、今の仕事に至っているんで。本当に、触ってほしいですね。


あさの:
僕、ガンダムのモビルスーツって相当描けるんですけど、「ガンダムMk-II」はガンプラを作ってないから描けない。

廣田:
そういうことですよね。デザイナーになる方も、立体というものを写真やモニターで見て分かった気になっちゃうけど、モニターで満足しないで、触ること、作ること。ガレージキットなんて作ったやつが一番えらいんだから。今日80何人がコンペに参加してくれていますけど、僕からすれば全員えらいですよ。それを見て評価している人間より、作った人間が最強ですから。それはみなさん忘れないようにして欲しいですね。はい。という感じでこのトークショーは以上です。

会場:
(笑)

あさの:
ありがとうございました。

菊地:
ありがとうございました。

大須田:
ありがとうございました。

廣田:
最後に告知があります。アニメですけど、今夜TOKYO MXで第4話が放映されます。


廣田:
あとここに物販コーナーがあるんですけど、大須田さんと菊地さんのサインが入ったラグランジェデザインズ。これ本当に買った方がいいですよ。買った方がいいですよ。買った方がいいですよ!僕は自分のお金で買いましたから。これはサイン入りなんで、数が限られていますから。ぜひこの帰りに買ってください。よろしくお願いします。


大須田:
よろしくお願いします。

菊地:
よろしくお願いします。

廣田:
じゃあ、大須田さん、菊地さん、ありがとうございました。最後にもう一言ずつお願いします。

菊地:
今回、僕にとって一番大きかったのは、やっぱり、さっき選ばせていただいたリベルタスを見せていただいたっていうことで、すごい感動してるんですよ。車のデザイナーといっても、なかなか自分のスケッチだけで物が終わることっていうのはなくて、それを作ってくれるモデラーの方がいて、初めて車のデザインって成り立つんです。なので、僕は絵しか描いてなかったので、3D化されていないデザインだったので、それがどんな風に立体になるのかっていうのはすごく興味があったんです。それが、もうほんっとに僕の想像を超えたかっこよさを入れてくれたんで、とりあえずそこに「ありがとう」と。感謝しています。

大須田:
僕も今日ここに来て、モデルを見るのをすごく楽しみにしていたんですけど、やっぱり、自分が描いたデザインを、まったく知らない誰かが再現してくれるのが、ほんとに嬉しくて。感動しました。よくぞここまで考えて作ってくれたなと。


廣田:
はい。2人ともありがとうございました。トークショーはこれで終了です。ありがとうございました。

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in 取材,   アニメ, Posted by darkhorse_log

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