螺旋状ビーム通信技術により通信速度は2.5Tbpsに達し、将来は帯域問題に悩む必要がゼロに
By Erathic Eric
世界的に無線通信の量は膨大なものになっており、指定された帯域での通信は限界を迎えつつあります。それを一気に解決し、通信速度を2.5Tbps(約320GB/s)まで高速化できるという「螺旋状ビーム通信技術」の研究が佳境を迎えています。
BBC News - 'Twisted light' carries 2.5 terabits of data per second
Infinite-capacity wireless vortex beams carry 2.5 terabits per second | ExtremeTech
Vortex radio waves could boost wireless capacity “infinitely” | ExtremeTech
この技術はAlan Willner教授と南カリフォルニア大学のチーム、NASAのジェット推進研究所、テルアビブ大学が共同で研究を進めているもの。
現在の無線通信は同一の周波数で複数の通信を行うことができません。これは電波をSAM(スピン角運動量)情報だけで調整しているためで、Wi-FiやLTE、COFDMといった最新の通信技術だけではなく、ラジオやテレビでも同様です。しかし、実際は電波にはSAMと同時にOAM(軌道角運動量)の情報を持たせることが可能です。
いきなり「角運動量」といわれてもわけが分かりませんが、自転(地球が地軸に沿って回転する)で用いられるのがSAM、公転(地球が太陽の周りを回る)で用いられるのがOAMです。地球が自転と公転のどちらも同時に行っているように、電波もSAMとOAMを同時に持てるというわけです。
スウェーデンの物理学者Bo Thidéは、スウェーデンの研究所とイタリアの研究チームと組んで4年間研究を重ね、同じ無線周波数で複数の通信を行うことが可能であるということを証明しました。Thidéが用いたのは電波にOAMを追加することで螺旋状のデータストリームにする(Thidéいわく「radio vortex(螺旋無線)」)という手法で、ヴェネチアにおいて2つのストリームを同時に同周波数で飛ばし、442m離れたところで受信することに成功しました。
これがテストで使用したアンテナ(送信側)。冗談のようですが、標準的なパラボラアンテナに切り込みを入れてわずかにひねっているだけ。コルク抜きのような形で無線の電波が飛んでいくというイメージでOKだそうです。
一方、受信側は2つの普通のテレビアンテナ(八木・宇田アンテナ)を使用。トランスミッターを取り付けて同じ角度に向けて設置しておくと、アンテナで“螺旋無線”を受信してデコードするというわけです。
Willner教授らのチームはSAMとOAMの両方を使用する無線通信プロトコルを作り出せた、という点が大きな進歩です。Willner教授らのチームは実験で300Gbpsの可視光線データストリーム8本を使用。この8本のビームはそれぞれに異なるレベルのOAMツイストがかけられて1つの大きな螺旋状ビームを形成。送信されたビームはオープンスペースを通って、1m先の受信機で螺旋をデコードして処理されました。
コレが螺旋状ビームの構成。
実物はこんな感じになるようです。
この実験での通信速度は2.5Tbps(テラビット毎秒)。換算すると320GB/s、つまりBlu-rayの映画7本を1秒間で転送できるほどの速度でした。Thidéによって電波にOAMを追加するということが可能だと証明されてから、わずか数ヶ月でこのような偉業が達成されました。Thidéの言葉によれば、短期的にはOAMによって現在の無線通信でも速度が10倍~20倍に向上するほか、長期的にはOAMを深く理解することで、無線通信で利用できる帯域は無限に広がるだろうとのこと。
ちなみに、Willner教授のOAMリンクのシステムスペクトル効率(数字が大きいほど最大スループットが高まる)は95.7bit/s/Hz/site。この値はLTEだと16.32、Wi-Fi(802.11n)が2.4、テレビのデジタル放送(DVB-T)は0.55です。
そもそも、ベライゾンやボーダフォンがわずか数メガヘルツに対して何十億ドルも投資したり、ソフトバンクがプラチナバンド獲得に燃えていたのは、その帯域を得ることが通信事業者にとって死活問題となるからです。しかし、Thidéの研究がうまくいけば、帯域問題というのがほぼ無価値になるだけではなく、4G LTE通信事業者のLightSquaredの周辺でのいさかいごと、国際ローミングなどなど山積している問題も同じように雲散霧消します。
Willner教授のチームに課せられた次の課題は、螺旋状ビーム通信の通信距離がわずか1mという現状を、もうちょっと使用可能なレベルにまで伸ばすこと。今後、高容量通信が要求される状況で、1km未満の距離であれば、この技術は使えるだろうとWillner教授は考えています。この技術において問題となってくるのは大気の乱れなので、そういったものが発生しない宇宙においては、衛星間長距離通信での利用が期待されています。
実際問題、この技術の主な限定要因は、OAMを処理するためのハードウェア、ソフトウェアを我々が持ち合わせていないところにあるそうで、数年内には技術が確立されて無線通信は明るい未来を迎えるとみられています。
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