取材

イランで数え切れない親切を受けて思う、核兵器を持たずに存在感を示して欲しいということ


こんにちは。自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。最近、イランをめぐるニュースをよく見かけませんか?イランの核開発疑惑にともなうアメリカの軍事攻撃に全世界が注目しています。

悪者扱いされているイランですが、日本人なら普通に旅行ができる国です。1ヶ月に及ぶ走行の中で、たくさんの人に出会いました。「宿がないなら家に来い」と何度もホームステイのお世話になりました。不思議な国です。これからどうなるかは分かりませんが、イランという国について伝えなければいけないと感じたので書きます。アフガニスタンにはタリバン、イラクにはフセインがいましたが、イランには誰がいるというのでしょう。詳細はこちらから。

イランには敵であるアメリカの「コカ・コーラ」が普通に売られていて驚きました。それどころかペプシコーラもあります。


それと同時に瓶ビールもあります。でもイランはイスラム国家ですからノンアルコールです。


イスラム国家を語る際に、「世俗化と宗教」の二つは切っても切り離せません。

イランと聞いて砂漠や荒野のイメージを浮かべる人も多いでしょう。暑い暑い国……のはずですが、12月に旅した自分は雪を見たりして、寒い寒い思い出しかありません。たまに宿に入ったときは暖房をガンガンにかけていました。カスピ海沿岸は植生が豊かで日本の田舎の景色と似ています。カスピ海沿岸から高原に上がれば乾燥した景色が広がり、旅をする前のイメージに近いイランがありました。トルクメニスタンからMashhad(マシュハド)、カスピ海沿岸を経てRasht(ラシュト)Ardabil(アルダビル)と走ってアルメニアに抜けました。

「+2℃」と現在の気温を表示している電光掲示板。


雪が降った朝は銀世界。


広大な畑。


海のような湖、カスピ海。


ヨーロッパにあるような緑の山々を攻略中


標高をあげた高原は乾燥していました。


乾燥している中に何かの畑。


暑そうにみえるかもしれない荒野の集落ですが……


雪も降っていて本当に寒いのです。


絶景だったアルメニアとの国境。


イランの街はイランの色があります。アラビア語で書かれた多数の看板が、日本人から見ると奇抜な色の使い方で飾られていました。それに反してイランの田舎には色がありません。レンガで造られた家々はとても静かにしています。

街に入る合図の標識。図柄にはモスクがあります。


こちらが街中で見かけるモスク。


イランは右側通行。


右回りのラウンドアバウト


アラビア文字であふれる看板。


街の路地裏。


地方都市でみかけたトヨタの看板。


地方の街のマーケット。


田舎の集落の通り。


路面がぬかるんでいて大変でした。


この田舎の集落で撮った羊のムービーです。

チャリダーマンがイランの田舎の集落で会った羊たち


日本からみるとエジプト、シリア、サウジアラビア、イランと中東のイスラム地域を一括りにしがちですが、イランはアラブではありません。エジプト、シリア、サウジアラビアのアラブ人と違ってイランの人たちはペルシア人と呼ばれています。一緒のアラビア文字を使っていますが、イランの言葉はアラブ人共通のアラビア語ではなく独自のペルシア語が使われています。「アラブ人は石油しかない、歴史を持っていない」と誰かがこぼしたように、イランの人たちはアラブとは違うという意識をもっています。


イランの人たちは東の鼻の高いヨーロッパみたいな人と、西の肌の濃いインド人みたいな人とがぶつかって混ざっている印象でした。イスラムの国ですから男性はみんな髭を生やしているかと思っていたのですがそうでもありません。女性の体を覆い尽くす布も、コートみたいなカジュアルなタイプもあれば、全身黒の布を纏っている人も、かなりレアですが顔まで隠している人もいて様々でした。自動車免許を取得するため、教官を横に乗せて路上講習をする女性は印象的でした。調べてみるとサウジアラビアでは女性は運転できないみたいですね。イランで女性は普通に働いています。コピーを頼むのも女性で、逆にこっちが戸惑いました。そして何より衝撃的だったのが、普通に男女が手を繋いで歩く姿。服装や男女別学といった宗教の規律はあるけれど、社会はいたって普通に見えました。

イランではたくさんの人に出会いました。「一泊していかないか」と招待を受けたり「宿がないならここに泊まりなさい」と数え切れない親切を受けました。

サイクルショップにて。


食堂にて。


レースに向かうサイクリスト。


泊めてもらった英語の先生と子どもたち。


日本に滞在していた経験があるという一家。


警官の家に泊めてもらいました。


一晩寝かせてもらったカスピ海沿岸の食堂にて。


ホットドッグ屋の兄ちゃんと一緒に。


数泊お世話になったご家族と親戚のみなさん。


きりっとしていたお父さんと可愛らしいお嬢ちゃん。


水煙草を楽しむ人たち。


1泊させてもらった大学院生たち。


商店の店主。


運転していた車を止めた青年たち。


元気のいい悪ガキども。


こちらも走行中の車が止まって……


お父さんと娘さん。


走っていると次々に手渡されたミカンがこんな数に。これがイランの優しさです。


イランはイスラム国家です。いつもモスクでは何かに向かって祈る人たちがいました。床に頭をこすり付けて、真摯に祈りを奉げるその姿には心を打たれました。自分にはできません。イランで「死」を意識したときにたどり着く場所がイスラムになるのでしょう。だからこそイランの人たちは自分に謙虚に他人に優しくありました。日本だと馴染みの薄いイスラムですが、旅をしているとこれほど安心できる場所はありません。同じアフリカを旅してもイスラムの国とキリスト教の国では身の構え方が違います。イスラムの国ではキリスト教の国にはない穏やかさで安心して旅ができるのです。

12月24日に滞在していたArdabil(アルダビル)ではイスラムの祭りが行われていました。

行進していく祭りの参加者。


群集。


黒のベールに包まれた女性たち。


イスラムのお祭りの日 in イラン


イランが核兵器を持つこと。誰も持っていなければ悪かもしれませんが、すでに持っている国がいます。その持っている国が「お前は持つな」と言う、ここに疑問を感じるべきでしょう。このイランがイラクや北朝鮮みたいな独裁国家であれば責められる理由もあるかもしれませんが、イランでは普通に選挙が行われています。大統領も現在の保守派であるアフマディーネジャードの前は改革派であるハタミでした。旅をしていると「ヒロシマ、ナガサキと原爆を落としたアメリカについてどう思っているか」とも「アフマディーネジャードは口だけだ」と両方の声を聞きました。貧富の差が大きくなれば保守に、経済が豊かになれば改革に、いずれにしてもイランの国民が決めることであって、よそがどうこういう問題ではないでしょう。09年の大統領選挙の際に混乱が起きたことをふまえて、国際的な選挙監視は必要かもしれませんが。

だからといって、イランの核兵器開発には賛成しかねます。ここは開発を断念して、それこそ他の保有国に放棄を迫る態度で存在感を示すのも一つの方法ではないでしょうか。そうすれば誰も死ぬことはありません。

仮に戦争になれば、また多くの人が死ぬことになるでしょう。イランでは親米だったパーレビー政権がイラン革命で倒れて現在まで続く反米のイスラム国家となりました。このイラン革命に干渉する形で行われたのがイラン・イラク戦争になります。イラクによる奇襲で始まった戦争は、革命で混乱下のイランにはあまりに無力で多数の死者を出しました。その数は75万人とも100万人ともいわれています。イランを旅していると、必ずといっていいくらいどの街にも殉職者を称える看板が立てられていました。その髭をはやした顔は親切にしてくれたイラン人そのものであってとても悲しく感じました。

イランの最高指導者ハーメネイー氏


イラン・イラク戦争の戦死者の看板。


これからどう情勢が動くか分かりませんが、これが戦争になって欲しくはありません。アフガニスタンにはタリバン、イラクにはフセインといった独裁者がいましたが、イランには何があるのでしょうか。アメリカが戦争を起すのであれば、そこを明確にして欲しいものです。イラクとの戦争でたくさんの人が死んだイランだからこそ、これから起きるかもしれない戦争を止めてほしいと願ってしまいます。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
)

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in 取材,   動画, Posted by logc_nt

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