取材

来年発売予定の新型iPhoneディスプレイを巡る熾烈なバトル、その舞台裏の一端がシャープの抗議で見えてきた


来年発売予定の新型iPhoneに採用されるディスプレイには、Appleが直接投資を行い、シャープと東芝に製造させたものが採用される予定ですが、「シャープが外れて東芝のみに投資が絞り込まれる」という報道が日刊工業新聞社によって本日行われました。

シャープはこの報道に対して「同記事は事実に反する一方的なものであり、当社の信用を著しく傷つけています。当社は、日刊工業新聞社に対して厳重に抗議し、記事の撤回と謝罪を求めます」という強い口調で抗議していますが、はたして抗議の真意はどこにあるのでしょうか。

シャープに問い合わせた内容やこれまでに得られた情報から類推されることなど、考察の詳細は以下から。
米アップル、「iPhone」液晶を東芝に絞る:日刊工業新聞

発端は日刊工業新聞社の第一面に掲載されたというこの記事。Appleが東芝とシャープに約1000億円ずつ投資を行い、来年発売予定の新型iPhoneに採用する液晶ディスプレイの製造を委託するという内容で、震災によって一国へ投資を集中させることのリスクが顕在化したことや液晶製造装置の調達難、韓国メーカーの巻き返しなどによって、日本での投資先を東芝1社に絞り込んだという内容となっています。

米アップルがスマートフォン(多機能携帯電話)に使う中小型液晶パネルの日本での投資先を東芝に絞り込んだことが明らかになった。東芝と並行してアップルが交渉していたシャープは候補から外れた。
 震災で一国への投資集中のリスクが顕在化したほか、液晶製造装置の調達難、韓国メーカーの巻き返しなど複数の要因が重なったためと見られる。シャープは大口顧客として期待していたアップル向けの需要がなくなるほか、テレビ用大型パネルも過剰在庫で堺工場(堺市堺区)などの生産を休止しており、液晶事業の戦略再構築が急務になる。
 アップルは画面の高精細な表示に有利な日本の液晶技術に着目。来年発売予定の「iPhone(アイフォーン)」の新モデルに採用する準備を進めている。東芝とシャープがそれぞれ新設する生産ラインにアップルが約1000億円ずつ直接負担する枠組みだった。

この報道に対し、シャープは「事実に反する一方的なもの」「厳重に抗議し、記事の撤回と謝罪を求めます」とコメントを発表しました。

4月20日付けの日刊工業新聞の記事について | ニュースリリース:シャープ

4月20日付けの日刊工業新聞一面に、当社と特定顧客との液晶取引に関する記事
が記載されています。
しかしながら、同記事は事実に反する一方的なものであり、当社の信用を著しく
傷つけています。
当社は、日刊工業新聞社に対して厳重に抗議し、記事の撤回と謝罪を求めます。

シャープの広報担当者に対して、該当記事のどの部分が事実に反する一方的なもので、信用を著しく傷つけているのかを問い合わせてみたところ、ざっくりまとめると「基本的に当社が特定の顧客との取引について公表することはできませんが、該当記事は事実に反しています」という内容でした。これだけを見ていると非常に曖昧な回答に見えますが、業界内を知っている立場から見るとこの回答には違う意味があることがわかります。

まずiPhoneに限らず、このような製品の部品調達について、「特定の顧客との取引について製造を請け負っている側から、請け負っているという事実を公表することはできない」という点があげられます。要するに受注した側は特別な許可を得ない限り「あの製品のこの部品はうちで製造したものです!」とは言えないわけです。特にAppleは交渉相手に対しても、部品発注先に対しても徹底した秘密主義を強要することで有名です。


つまり、今回の次期iPhone(iPhone5ではなくiPhone6の可能性もあり)について、東芝もシャープも自分から何かを発表するということはまずあり得ないわけです。それでも敢えてシャープが今回の件に対して「事実に反する一方的なもの」「厳重に抗議し、記事の撤回と謝罪を求めます」というコメントを発表した理由は、今回の報道が東芝にとって有利に働くことはあってもシャープにとっては有利に働かないこと、そしてシャープはいまだAppleと交渉を継続しており「東芝1社に絞る」といったことはまだ100%決定しているわけではないからこそだと考えられます。

そもそも日刊工業新聞社は今回の記事を1面で掲載していますが、「日本での投資先を東芝に絞り込んだ」という内容の情報源は当然ながら不明です。秘密主義のAppleはもちろん、シャープが自社に不利な内容をリークするはずもないため、東芝の関係者が交渉を有利に進めるためにリークした可能性も否めないわけですが、これをどのように見るかは今後の展開次第といったところです。

なお、一つの国に投資を集中させることのリスク(今回の震災のように国全体を襲う災害が発生した場合に部品供給が一気に滞る)を懸念して、実際にAppleが日本でのディスプレイ製造候補を1社に絞り込み、もう1社を日本以外のメーカーに委託することにした場合、どのメーカーに白羽の矢が立つのかについてもある程度の予想が可能です。

というのも、iPhone 4の高精細液晶「Retina Display」の供給は日本の「東芝」と韓国の「LG電子」が行っているためです。実際にはもう一社、Samsungという選択もあるのですが、Appleと裁判沙汰になっていることから考えても、片方の手で殴り合ってもう片方の手で握手するというのはちょっと考えがたい状態です。

ちなみに来年発売予定とされる「新型iPhone」が、製造がずれ込み、9月から製造開始されるという情報もある「iPhone 5(仮)」なのか、それともさらに次の世代の「iPhone 6(仮)」なのかは不明ですが、いずれ「Retina Display」以上に高精細なディスプレイを採用したモデルが登場することは間違い無いようです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「GALAXYシリーズはiPhoneやiPadの露骨なコピー」として、AppleがSamsungを提訴 - GIGAZINE

フラッシュメモリや液晶ディスプレイなどの製品価格、震災を受けて世界的に高騰へ - GIGAZINE

「最後発のWindows PhoneがiPhoneを抜き去る」と調査会社が驚きの予測、Androidは圧倒的シェアで1位に - GIGAZINE

in 取材,   モバイル, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.