「物を作るときは、いつも見る側に立って考える」、「ガメラ」「モスラ」「キングギドラ」を作った特殊造形師・村瀬継蔵インタビュー
『ガメラ』や『キングギドラ』の造形を担当し、舞台やコンサートの衣装製作、テーマパークのアトラクション造形など幅広く活躍している特殊造形師村瀬継蔵氏に、造形という仕事とその裏側について聞いてきました。
ゴジラシリーズなどの怪獣造形を数多く手掛ける一方、ショウ・ブラザーズに招かれて香港で『蛇王子』、『北京原人の逆襲』などの造形を担当し、香港映画にも進出している村瀬氏。今回は、スカパー!や各ケーブルテレビ局などで放送中の日本映画専門チャンネルのオリジナル番組『ニッポン特撮、国境を越える!~世界に挑んだ男たち~』(3月20日・21日ほか放送)に出演しています。映画でもCGが隆盛を極める現在の状況を、造形の匠はどのように見ているのか、話を伺いました。
日本映画専門チャンネル『特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~』
http://www.nihon-eiga.com/tokusatsu/
村瀬氏は「特撮王国」に「北京原人の逆襲」で使った着ぐるみを元に、今回新たに作成したリメイクの衣装を自らかぶって登場。
「これがジャケットだったとは知らなかったよ」と『北京原人の逆襲』の特技助監督を務めた川北紘一さん
解説の原口智生監督とツーショット
実際に映画撮影で使用する着ぐるみなだけに、異様な迫力です
一人で脱着することはできないため、いったん退場して着替えます
乱れた髪も整えて、改めて収録に戻ります
◆特殊造形とはどんな仕事か
GIGAZINE(以下、G):
まず、基本的な質問なのですが、造形というのがどんなお仕事なのか教えていただけますか。
村瀬継蔵氏(以下、村瀬):
今は造形大学といった教育機関もありますが、基本的には、映画業界から始まって「造形」という言葉がでてきたんだと思います。映画から始まって、一般のディスプレイ用の造形という方向に進んでいったんですね。私たちが東宝のころにやっていたのが造形の最初の頃で、それからどんどんいろんな人が増えて、いろんな会社ができて、いろんな方向へ広がって行きました。
だからと言って、今の時代、造形だけで生活が成り立つかというと難しい。例えば私の会社、特殊美術造形ツエニーで言っても、今の仕事としては、造形に付随する電飾の仕事など、造形に関わる全般の仕事を受けていく傾向にあります。
G:
村瀬さんが取り組まれていた「特殊造形」というお仕事はどんなものだったのでしょうか?
村瀬:
あれはね、名前のつけようがなかったんです。当時、東宝の中に私の席があったんですが、ほかで作れないコマーシャルの仕事が私のところに来ていました。そうすると、それを結局「特殊造形」と呼んで、誰もやらない仕事を我々はあえて挑戦してやってきたということですね。それが特殊造形です。
造形の中でも、先駆者であり続け、造形を変えていく、同じ物を作り続けるんじゃなくて、必ずひと味ふた味を加えたものを作っていくということは、東宝時代に生まれた考え方ですね。単なる造形屋さんだと、粘土で原型を起こして、発砲スチロールで削って、石こうで型を作って、樹脂で抜けばいいという工程です。これが特殊造形になると、その中にメカニックが入ってくる。
村瀬:
ロボットで言えば、外装も作り、中のメカも作る。それから中の制御も作る。そういう風にどんどん変わってきたんですね。『マッハGoGoGo』の「マッハ号」のように自動車を作っても、100km/h出して実際に走れる自動車を作っちゃう。同じ造形であってもそこまでやる、というのが普通の造形とちょっと違うところですね。
そういう風にいろんなものをミックスして、かつての造形が考えなかったものを、いろんな形で新しい物を作り上げていこう、それも、当時若いからできたとかじゃなく、年を取っても、若い人たちをそういう形に引っ張っていこうという気持ちが自分の中にあります。恐らく、私が生きている間は続いて、前へ前へと進んでいくんじゃないかな、と思います。
◆北京原人の着ぐるみに使った人毛の伝説
G:
ショウ・ブラザーズのチャイ・ランのもとで村瀬さんが造形を担当した『北京原人の逆襲』の話になるのですが、インターネット上では「第一陣スタッフは北京原人のぬいぐるみの体毛に、山羊の毛を使ったが、よい効果が出なかった。村瀬はこれに人毛の使用を思いつき、香港市民に髪の毛の提供を呼びかけ、集まった300人分の人毛で、三体分の原人の体毛を仕上げた。撮影所に送られてきた人毛は、山のように積み上がってかなり不気味だったそうである」との情報がありますが、これは本当なのでしょうか?
村瀬:
かなり話が大きくなっていますね(笑) 人数については10倍くらい大きくなってるんじゃないでしょうか。実際に植えたものは、1メートル四方のものがだいたい10枚くらいだったと思います。あとは部分的に使う物で、50センチ四方のものが10枚くらい。
やはり山羊の毛皮で作った北京原人は、剛毛というか、毛が厚すぎて、動きは取れないし、中がなめし皮なので突っ張ってしまい、動けないんですね。だから、これはダメだなと。のろまな演技でやるならいいけど、ある程度激しい運動をする場合には、もっともっと身軽にできていないといけない。
そういう提案をして、ある日会社に行ったらデスクにドサッとあるわけですよ(笑) なんだこれは、ずいぶん薄気味悪いものが置いてあるなと思ったら、全部人毛だって言うんで余計びっくりしましたよ。これはもう呪われるんじゃないかと。
G:
それじゃあ最初から人毛という指定ではなかったんですね。
村瀬:
ないですないです(笑)
◆キングギドラの造形
G:
少し時代が先に進むんですが、キングギドラ、メカキングギドラなどの造形も担当されたということで、あれは実際に作成するのにどれくらいの時間がかかっているんでしょうか。
村瀬:
だいたい3ヶ月か4ヶ月くらいかかっているんじゃないですかね。スタッフが10人から15人くらい。キングギドラ、モスラ、それからメカキングギドラを作りましたが、それくらいかかってます。
G:
メカキングギドラはキングギドラとは別個に作られた物なんですか?
村瀬:
あれは被せるメカ部分だけを作ったんです。首も全部すげ替えにして、鎧とか脚のカバーは後から全部セッティングできるように、鱗の上からバチンバチンとくっつけています。
G:
まさにメカキングギドラなんですね(笑)
村瀬:
そうですね(笑)
◆CGと実写映像の違い
G:
特撮ではなくCGを駆使する作品が年々増加し、『アバター』に代表されるような全編立体映像で見る映画が続々と作られていますが、この流れについてはどう思われますか?
村瀬:
CGを使った作品というのは、たしかに目を引くんですが、目を引くだけじゃなくて、私はもっともっとマニアックな作り方をしたほうが、見る人は身近に感じるんじゃないかなと思いますね。CGを使って、全部機械頼りで画面が出来上がっていくというのは、僕らにしてみたらちょっと深みが無いかな、という気はします。
村瀬:
風景ひとつでも、描いたもので終わっちゃう。すべてが合成、合成で進んでいくというのは、考え方は古いのかも知れないですが、画面の味が違うという感じがするんですね。
なんでもできるんじゃないか、というのが逆に作用してしまって、コンピューターをいじれる人なら誰でもできるでしょという感じがしてしまいますね。昔の特撮は、本当にごく一部の人しかできなかった。
だから、本当に手作りで全部やる、何人かかっても全部人間でやる、そういうことに本当の味があるんだろうと思います。画面の中だけで処理されているというのは、さみしいなぁと思いますね。そりゃCGでやれば、今はコストも下がってきてるんで、なんでもお手軽にできちゃうんですが、実写でできるものはちゃんと実写で撮って欲しいなという気持ちですね。
◆香港で見たワイヤーアクション
村瀬:
もちろん、加工によって逆にリアリティが発生する場合もあって、僕らが香港に行って撮影をしたとき、ピアノ線を持っていったんですが、香港のスタッフは太いワイヤーを使うというんですね。「それじゃあ見えちゃうでしょ」と言ったら「多少手がかかっても、消せばいいんだ。これでリアルに撮れるんだから」と言われました。
我々が撮影した『北京原人の逆襲』以降でも、香港映画ではずっとワイヤーアクションを使っていて、最近はブルーバックとかグリーンバックとかを使って合成していますが、一時は本当にワイヤーだけで全部やっていました。北京原人が終わって、僕たちがゴールデン・ハーベストに行った時に、ジャッキー・チェンもワイヤーアクションをやっていました。
村瀬:
それから佐川さんとチョウ・ユンファの『セブンス・カース』という映画を撮りに行った時にも、やはり皆ワイヤーで吊ってどんどん飛ばしてるんですね。これはすごいなと思いました。ワイヤー1本を5人で操れば、3本使うと15人。その数の人間が、気持ちを揃えて一斉に物を動かしているという、あれは日本ではちょっとできないなと思いました。あそこまでやるには、相当の経験が必要だし、呼吸が合っていないとできないですよ。ワイヤー1本ゆるんでもアウトですからね。香港の映画だと、アクション映画でもなんでも全部ワイヤーでやってるわけです。
僕らはショウ・ブラザーズでの撮影でもピアノ線でやっていたわけですが、「絡んだらどうするの? 切れちゃうでしょ」と言われました。実際に絡むと切れてしまって、撮影が中断します。消す人も、ペンキ屋さんが1人ついていて、1本ずつ消して撮影していました。それに、6人も7人も人を飛ばそうとしたら、ピアノ線だと指とかが切れてしまう危険もあるので、ワイヤーを使った方がいいということで、彼らはワイヤーを使っていましたね。だからショウ・ブラザーズの映画でピアノ線を使っているのは、僕らがやった「蛇王子」だけだと思います。そのくらい彼らにはワイヤーに対する信頼感を持ってるんですね。
◆物を作るときは、いつも見る側に立って考える
G:
最後の質問になりますが、仕事をする上で心がけている点はありますか?
村瀬:
物を作るときは、いつも見る側に立って考えるということですね。見る側に立たないと、良い物は作れない。見る側に立って、精巧に作らなければならないところはどこまでも精巧に作る。やっぱり「ここはアップになるぞ」というところは、実際にアップになりますよという伝達が無くても、足の爪や手の爪、そういうポイントはきっちり細かく作ります。
そういうところがきっちりしていないと、だらしない作品になってしまうんですね。特に末端のところがちゃんと仕上がっていないと、造形さんにとっては命取りになっちゃいます。そうやってお客さんがどこに注目するのかということを考えて作るということですね。
G:
ありがとうございました。
最後に、リメイクされた北京原人のマスクを近くで見せてもらいました
これは人毛ではありませんが、実物は人毛のネットを縫い合わせたとのこと。リアリティを追求する造形師魂に頭が下がります
なお次回は、『ウルトラマン80』、『仮面ライダー THE NEXT』、『陰陽師』、『リング0 バースデイ』など数々の映画で特殊メイクや造形を担当した日本屈指の特殊メイクアーティストであり、『ウルトラマンメビウス』などで自ら監督、特技監督としても活躍している原口智生監督のインタビューを掲載予定です。
日本映画専門チャンネル・「特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~」
日本が海外とタッグを組んだ特撮映画を一挙放送!
<放送日>
3月19日(土)~21日(祝・月) あさ7時~ ほか
<放送作品>
『極底探険船ポーラーボーラ』/『デスカッパ』/『北京原人の逆襲』
『中国超人インフラマン』/『クライシス2050』/『白夫人の妖恋』
『ニッポン特撮、国境を越える!~世界に挑んだ男たち~ 1』
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