取材

造型師・材料屋・アニメーターといくつもの顔を持つ男「鯨井実」インタビュー


東映動画(東映アニメーション)に所属して「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」「ゲゲゲの鬼太郎」の制作に参加。その後、好きだった特撮畑に転身して円谷プロに入り「ウルトラマンレオ」や「ウルトラマンタロウ」、「プロレスの星アステカイザー」で合成作画を担当し、円谷恐竜シリーズと呼ばれる「恐竜探険隊ボーンフリー」が始まる前のパイロットフィルム「巨獣惑星」でミニチュア特撮を手がけ、映画「帝都物語」では造型師としても活躍、現在、業界では「材料屋さん」としても知られているという鯨井実さんが、日本映画専門チャンネルで放送される「特撮国宝」の第1回ゲストとしてやって来るということで、番組で聞けなかった部分などについてお話を聞いてきました。

特撮国宝|7月4日(木)よる11時スタート 3カ月限定企画、企画監修・出演:樋口真嗣|日本映画専門チャンネル
http://www.nihon-eiga.com/osusume/tokuho/



今回、題材となったのは「恐竜探険隊ボーンフリー」。円谷プロダクションではこのボーンフリーのあとに「恐竜大戦争アイゼンボーグ」「恐竜戦隊コセイドン」という2作品を作っていて、3本合わせて円谷恐竜シリーズと呼ばれることもあるのですが、ボーンフリーの特徴は恐竜はミニチュアを用いた実写特撮、人物はアニメーションで描かれていて、それが組み合わされているというところ。鯨井さんはこのシリーズの制作が決定するキッカケになったというパイロットフィルム「巨獣惑星」で、同じ手法を用いての作品制作を行っています。

GIGAZINE(以下、G):
鯨井さんと特撮との出会いは1958年の「大怪獣バラン」だったとのことですが、この4年前に「ゴジラ」が公開されていて、バランの4年後には当時多くの特撮ファンを生み出した「キングコング対ゴジラ」も公開されていますが、こちらはご覧になりましたか?

鯨井実(以下、鯨):
もちろん、バランの前にもあったわけですが、たぶん最初のゴジラは後で見ていると思うんですよ。ただ、劇場で最初に見たのはバランかな。それをきっかけに、特撮だと必ず劇場に行っていましたね。

G:
ほぼ映画館で。

鯨:
ほとんど映画館で見てると思います。「ゴジラ対何々」とか「総進撃」とか、ゴジラがシェーをやったりした時もありましたね。ただ、「メカゴジラの逆襲」で一度終わっちゃったのが残念。主役は一体や二体までにしておいて、その縛りの中で新鮮なものを作り上げていくというのは至難の業だから、難しいね……。海外でも、「プレデター」はシリーズごとにどんどん数が増えていたりするし。

Q:
シリーズをそのままパワーアップさせていくというのは難しい、というところでしょうか。

鯨:
そう、一体で勝負出来るものを作れたら見てる方もほんとに楽しいんだけど、最初はともかく、それをまた作っていくっていうのは難しいと思う。


G:
ご自身のお仕事は映像になったときのことをイメージしながら作られているそうですが、そのイメージ通り、「これはうまいこと動いたな」という仕事や造形というのはどういうものでしょうか。

鯨:
自分で全部作っているわけではなく、優秀な造形の人がいて、まずその人を呼んで作ってもらって、僕は総合的に進めているんですよね。当然、僕も造形をやったり仕掛けには全部タッチしますけれど、正確に言えば「僕が作った」というよりも「ライブハウスが作った」という感じなんですね。その中で、僕の場合はコマ撮りながら全部コマ撮りというこだわりがあまり無いんですよ。ギニョール(手を入れて操る人形)であっても、お客さんが面白ければいい。だから、コマ撮り用のちっちゃな人形と、手をつっこむギニョールで作っているときにも、同時にセットで照明を当てて動いている、動かしてはいないんだけど動いてる絵が頭に浮かぶんですよ。すると、ワクワクしてくる。撮った後、その通りにいかない場合も結構あると思うんですけどね。ただ今までは映画の中で使われたもの、よく動いてたと思います。


鯨:
ただ、やっぱり、動かすことへのこだわりはあるわけですよ。カメラマンの方もいるけど、どこから撮ったら一番格好が良く撮れるかっていう角度は作っていると確かにあって、そこからずれるとちょっとな、という場合はあるんです。それは映像の中でも、いくら良いものを作っても撮り方が悪いと……っていうことは、あります。自分で撮る場合は、ある程度は予想がつくんだけど、時間がかかる一番良いところを狙って撮っていくっていう感じですね。でも、やっぱり普通の商業映画になると各分野のプロがいるんで、あまりそこまでは普通は言えないです。その面で、「おっ」ていうのもあるし「おっとっと……」もあるんですよね(笑)


G:
なるほど、集団作業ですもんね。

ところで、鯨井さんのアトリエに行ったことがあるという方が以前、「天井に頭が届くくらい大きなカマキリが置かれている」ということをネットに書かれていたんですが……

鯨:
あぁ、カマキリ。あれ、どこから入ったんですか、そんな情報(笑)

G:
アトリエに行った方が「すごかった!」と。

鯨:
これはね、世界一の製作なんですよ。カマキリを何匹も捕まえてきて、虫眼鏡で見て、寸法も全部合わせて、3mくらいのカマキリを作ったんです。これはイベント用に作ったんだけど、やり過ぎちゃって大赤字だったよ(笑)その後、昆虫展っていうのに貸し出して一応収入を得たんだけど、そこのイベント屋さんがなくなってしまって、今は部屋にあります。カマキリのパーツも作って売ってるんだけど売れないし、あの巨大カマキリもしまったまま終わっちゃうのかなぁっていう感じですね。


G:
3mもあるんですねぇ……

鯨:
えぇ、本当に技術のある人お金をかければもっといいものもできるかもしれませんが、リアルさでいえば、今の段階であれ以上のものは他にはちょっと無いんじゃないかと思います。

Q:
材質は何なんですか?

鯨:
FRPっていう樹脂ですね。

Q:
可動はしない?

鯨:
可動はしないですね。

G:
そういえば、そもそもは作り手である鯨井さんが材料屋さんをやるようになったきっかけというのは何だったんですか?

鯨:
コマーシャル映像の制作をやっているころに材料屋さんを始めたんですよ。それ自体がコマーシャルになるし。ちょっと自慢になっちゃうけど、仕掛け抜きで難しいコマーシャルというのは全部うちに来ていたんです、よそで断られたのも全部。それで、最初はうちでもできないよと断るんだけど、最終的にはできちゃって……そうすると、他のプロダクションからも「これはどこでどうやったんだ」とか言ってきて、僕と一番付き合いの多かったプロダクションもどんどん難しいもの、よそで断られたようなものも持ってくるようになるんですよ。そのおかげで、より覚えられたというところもありましたけど。当時は貫徹してその次が撮影というのを5年ぐらい繰り返しました。コマーシャルは今でもそうだと思うんだけれど、テストに時間を3分の2ぐらい取られちゃうんですよ。そして残りの3分の1で仕上げていく。だから、もう最後の日はほとんど貫徹。それで、普通の作り物だったら納品して帰れますけど、全部仕掛けが入ってるから、寝ないで次の日もまた仕掛けを動かして、これはちょっともたないなと思いましたね(笑)


それで材料屋さんを少しずつ始めて……。後から聞いたら、周りでは「もう潰れるのは時間の問題だ」って思ってたらしいんだよ。まぁ、せっかく材料があって、やっぱり約束は守らないとってことで注文が来たら必ず取る、仕掛けを作りながら現場に材料を納めていたんですよね。その頃は毎日が配達日だったんですよ。今は1日おきなんだけどね。お客さんは、競争が激しいから減ってはいるけど、一応、25年以上1人でやってますね。

G:
すごい……!!

鯨:
その傍ら作り物で、まぁほとんど売れる目安はないんですけど、作んないと何もプラスになんないから作って(笑)

G:
なるほど、そういうことだったんですね。鯨井さんのサイトへ行くと、メニューに大きく「材料販売」「注文方法」と出ていて、樋口真嗣さんも「今は材料屋としての鯨井さんしか知らない人もいるんじゃないか」と仰っていました。実際は材料屋以前に、アニメ、特撮で活躍していて、自主制作の映像も作られていたわけですよね。

鯨:
ものを作っていた人間としては、「タイムトンネル」(鯨井さんが自主制作したパイロットフィルム)は未完成だったので、発表するのは失礼かなとずっと思っていたんだけれど、年齢も年齢なので、「こういうのをやっていた人がいたんですよ」というのを知ってもらおうかなと思って公開してみたんです。だから、アクセスもまぁ多くて50回くらいかなぁと思っていたんですよ。そうしたら、意外にも1000回ぐらい再生されて、「ああ、見てもらってるんだなぁ」って。

G:
鯨井さんの作られた映像がネットで見られるということがわかれば、さらに見る人は増えそうですね。

「タイムトンネル」は、実写映像とコマ撮り特撮とを組み合わせたダイナメーションに魅せられた鯨井さんが自主製作した作品で、撮影・照明・光学合成以外をすべて鯨井さんがこなしています。また、若き日の鯨井さん自身が出演しています。

タイムトンネル - YouTube


G:
最後に、最近は造形をこなせる3Dプリンターとかも出てきていますけれど、そういった新しい技術のことはどのように見ていらっしゃいますか?

フィギュアを立体成型できる3Dプリンタ「Replicator 2」をグッスマが実演展示



鯨:
造型屋さんからCGに行った人も結構いるんですよ。でも、みんな「作ってる時が一番良かった」って言うんですよね。それでも、食べるためにはやっぱり一番先端にあるものを覚えていかないと、置いて行かれるようになっちゃいますよね。だから、そういう意味で時代の流れかなぁっていう感じはします。

僕はCGはほとんど知らないけど、立体的なものはその元になる形を作ってる場合が多いらしいんですよ。3Dプリンターで作ったり原型で作ったりして……だから、作り物屋さんもそっちの方が売り物になって、3D用のモデルとか原型を作るとか。ただ、造型もうまい人じゃないと結果的にはダメなんじゃないかっていう話はありますけどね。もちろん、造型屋さんもそういう新しいことを知らないと置いてけぼりをくうこともあります。だから、両方覚えた上で、流れから置いてけぼりをくわないようにやっていくっていうのが一番良いんじゃないですかね。

G:
ありがとうございました。

「恐竜探険隊ボーンフリー」の第8話・第10話・第12話・第14話、および樋口真嗣監督と鯨井さんによる対談が放送される「特撮国宝」の第1回は7月4日23時ほかで放送されることになっています。樋口さんと鯨井さんの後ろに大規模なジオラマが見えていますが、番組収録が行われたのは原鉄道模型博物館。次は「特撮国宝」第2回のゲスト、真賀里文子さんのインタビューを掲載します。


恐竜探険隊ボーンフリー(TVシリーズ)第8話&第10話&第12話&第14話|日本映画・邦画を見るなら日本映画専門チャンネル
http://www.nihon-eiga.com/program/detail/nh10005368_0001.html



◆番組からのお知らせ
番組のオフィシャルFacebookページでは番組の最新情報やコラムなどを掲載しています。また、日本映画専門チャンネルプレゼンツ「燃えよ特撮!祭2013」が8月3日に開催されることが決定していて、特撮ファンに語り継がれる特別ドラマ「東京大地震マグニチュード8.1」の特別上映が行われることになっています。


このイベントに80組160名を招待するとのことなので、参加希望者は特設の応募ページから応募してください。

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人形アニメーション作家・真賀里文子さんに日本の立体アニメの祖・持永只仁氏のことや制作技法についてインタビュー


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in 取材, Posted by logc_nt

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