インタビュー

ウルトラマンの変身シーンを生み出した男、「ゴジラ対ビオランテ」の川北紘一インタビュー


片手を天に突き出して迫ってくるウルトラマンのあの変身シーンを作り、観客動員数200万人を記録した「ゴジラvsビオランテ」の特技監督を担当した川北紘一氏にインタビューができるということで、数々の逸話の真相と、3D映像の潮流についての意見など、気になるところを聞いてみました。

川北監督は「ゴジラvsビオランテ」をはじめ、以降「ゴジラvsキングギドラ」「ゴジラvsモスラ」「ゴジラvsメカゴジラ」など、平成に入ってからのゴジラ6作を担当。今回は、スカイパーフェクTV日本映画専門チャンネルの番組「特撮王国」の特集「特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~」のオリジナル番組「ニッポン特撮、国境を越える!~世界に挑んだ男たち~」(3/20、3/21ほか放送)に出演。その独特な手法で「特撮の鬼」とも呼ばれる特撮界の大御所の目に、現在の特撮はどう映っているのでしょうか。

詳細は以下から。日本映画専門チャンネル『特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~』



左が川北監督。今回の「特撮王国」では川北監督も特撮監督として参加し、香港で撮影された「北京原人の逆襲」が放映されるということで、造形を担当した村瀬継蔵氏(右)と一緒に出演。村瀬氏は北京原人の着ぐるみをリメイクして持ってきてくれました。


◆監督だけど月給制


GIGAZINE(以下、G):
まず、特技監督という職業に就かれた経緯はどんなものだったのでしょうか。

川北紘一監督(以下、川北):
僕は今で言う、オタクのはしりみたいなものなんじゃないかな。僕の家は兄弟全員映画の道に入ったんですよ。小学校の頃から映画が好きで、そういう点では、映画に対する興味は多分にあったんだと思います。だんだん高学年になるにつれて、映画に対する興味が変化して行って、特殊効果というものに興味を持つようになりました。「十戒」だったら、こういう絵はこう撮るんだよね、とか、そういう分野への興味がずっとあって、そこが最初のきっかけかな。学生時代から映画技術とか、そういう本を読んでましたね。

G:
具体的に職業として意識し始めたのはいつ頃からですか?

川北:
小学校の高学年くらいかな。

G:
ずいぶん早いですね!

川北:
そう。だから当時の同級生に会うとよく「川北はそう言ってたもんなぁ」って言われますね。まあ、僕がこうやって特撮の仕事をずっとやってられるのも、東宝の社員だったからで、フリーの人は今もっと大変だと思いますね。

僕みたいにずっと東宝の社員でっていうのは少ないんじゃないかな。ほかは皆フリーになってるから。僕は定年まで東宝の社員だった。だから僕は、監督料ってもらったことがないんですよ。月給なんです。


G:
じゃあ、今までの「ゴジラ対ビオランテ」を撮ったときも、月給なんですか?

川北:
そう。サラリーマンですよ、普通の。普通の会社の、部長とか課長と一緒です。経理の部長だって、僕の後輩にいるけど、そういう仕事ができるかって言うと、僕はできないし、じゃあ彼に監督ができるかって言うとできない。適材適所ですね。ただ、たまたま円谷さんっていう大監督についてやってきたので、そういう流れの中だからずっと続いてきたっていう面もあると思いますね。

◆ウルトラマンの変身シーンを作る


G:
インターネット上の情報では「変身した『ウルトラマン』が、赤い光の中から拳を突き上げて迫ってくる有名な画は、川北が作ったものである」ということがあったんですが、これは本当に川北監督によるものなんですか?

川北:
合成をやってたんですね、当時。それを撮影したのは佐川さんで、佐川さんが現場で撮ったやつを僕がオプチカル・プリンターで合成したんです。原画をこう、ぐりぐりってやってね。魚眼レンズで撮った静態の物って、こっちが大きくてあっちは小さいっていうデフォルメがされてるじゃないですか。それを立体化して、フィルム上に撮ったものをコンポジット(合成)していくんですね。

僕は、現場の撮影助手をやったり、合成をやったり、演出助手をやったり、監督をやったり、また助手に戻ったり、いろんなことをやりましたね。製作もやってたし。


◆「アバター」とCGの可能性


G:
特撮ではなくCGを駆使する作品が年々増加し、さらには「アバター」に代表されるような全編立体映像で見る映画が続々と作られていますが、この流れについてはどう思われますか?

川北:
映画製作におけるひとつのツールとして、すごいと思いますね。ただ、それを感覚的に使いこなすための技量が、我々にあるかということですね。それは、ジェームズ・キャメロンも言っていたけれど「映画というのは撮りながら進化していったり変化していったり、いろいろな趣旨を入れながら、新しいものを作り出す」って、そうなるんだろうと思いますけどね。

ただ、我々が今作っている映画っていうのは、映画のシナリオがあって、そこからイマジネーションを膨らませてコンテを切っていくんだけれど、そこで「これをこうやればOKが出るだろう」っていう分かりきった仕事上のやり方をしちゃってる部分があるかも知れない。無限大の可能性があるCGという武器があるけれど、それを有効に使いこなすだけの、使い手にも能力が求められるよね。僕は無いからダメだ(笑)


G:
技術は進歩しているけれど、使い手がまだうまく使いこなせていない、と。

川北:
そう。でも、「あんなCGは嫌だなぁ」と思うところも多分にあるんですよ。なんでもできちゃうじゃない。絵にはできるけど、人の心までつかみ取ることは難しい。視覚的なイメージは伝達できてもね。

G:
近年、テレビも高画質化してきていますが、そうなると特撮も難しくなってくるんでしょうか?

川北:
放送局の基準があるから、そこはクリアしていかなきゃ行けないよね。ただ、フィルムで撮ると化学的な要素があって、電子的な分解じゃないから、不安定要素っていうのがあって、ラチュード(寛容度)なんかも意外とアバウトなところがあるよね。そういうのはいいところで、もっと有効に使ったらいいんじゃないかなと。今、デジタルでやっても、フィルムのラチュードに合わせるような仕組みにするんで。

デジタルがあまりに進み過ぎちゃうと、ドラマのポイントを外れて、そういう画質にばっかり走っちゃったりするから、もっとドラマに引きつけるような魅力で押さえつけなきゃダメなんじゃないかなと思いますね。


◆「ゴジラ対ビオランテ」で見せた今までに無い演出


G:
実は初めて見に行った映画が「ゴジラ対ビオランテ」だったのですが、そのど迫力っぷりに度肝を抜かれてしまいました。ビオランテの触手がゴジラの手を貫く演出とか、どういう経緯でこういった演出にしようと考えたのですか?

川北:
ゴジラは血を出さない、傷つけないという方向はありつつも、あれはビオランテとゴジラには、核エネルギーという共通点があって、同化しようという意図があった、ということでああなったんですね。だからあれは、やっつけたというよりも同化しようとしたと。自分なりにもまだ消化しきれてないんだと思うんです。それで、スプラッタ要素だけが突き抜けて見えてしまう。

G:
最後のほうのシーンで、金粉が舞うシーンがありますが、あれも珍しい演出ですよね。ほかの特撮映画には見られない演出だと思うのですが、ああいった演出はどういうところから思いついたんですか?

川北:
当時、特撮には無かったね。ああいうのが好きだったものだから。「螢川」って知ってる? 宮本輝の小説を原作にした映画で、富山で何年かに一度、蛍が乱舞するっていう、文芸作品の映画なんだけど、それで蛍を表現するときに同じような素材を使ってやってたんですね。それで幻想的なシーンが構築できてたんで、それがアイデアのひとつの根源だったかな。全然特撮じゃないし、地味な作品なんだけど、作品としてはすごく好きな作品でね。


◆超合金とプラモデルのCM制作から1/1ガンダムの撮影へ


G:
映画の話から少しそれるんですが、超合金やガンダムのプラモデルのCMも多く手掛けられていますが、どういった経緯でこの方面のお仕事をされるようになったんでしょうか。

川北:
ほとんど東映アニメの作品なんですよ。僕に仕事の話が来たのは、バンダイさんが新しく超合金シリーズというものを出すということで、「UFOロボ グレンダイザー」という作品が第一弾としてあって、そういうのをうまく撮れるやつが東宝にいるってことで僕が推薦されたんですね。

あれはダミーを使ってなくて、実際の商品を使ってるんです。だから、小さいんですよ。「大空魔竜ガイキング」という作品があって、その時は小さいものを加工したりしてやってました。大きさも出さなきゃ行けないし、メタルの重量感も出さなきゃいけないし。商品が小さいんで、接写で撮るとメッキの梨地というブツブツとした模様が見えちゃう。メッキも当時はあんまり精度が高くなかったから、商品だとバレちゃいそうなこともありました。

そういう中で、「大空魔竜ガイキング」とかの個々の作品はありつつも、全体として超合金の世界観を作ろうとしました。超合金というブランドを立ち上げる、ということが第一だったんですね。


G:
最近ではどのようなお仕事をされてるんでしょうか?

川北:
86年ごろにガンダムのプラモデルのCMをやってて、プラモデルを実際に組み立ててエイジング(汚し)をかけて、重量感を出して、そういうものをCMで何作品か撮ってたんですが、そのつながりで去年の暮れに、東静岡にある原寸大のガンダムを撮ってくれないかという依頼がありました。それも3Dで撮ろうと。あれは18メートルもあるんで、けっこう大変でした。3Dテレビの「東芝 REGZA」っていう商品の宣材として、家電量販店用に撮ったんですね。


G:
最後の質問になりますが、仕事をしていく中で、常に心がけていることはありますか?

川北:
やっぱり我々の仕事というのは、人を楽しませることですから。映画でもCMでも、商品を手にとってもらえないと仕事にならないので、そういう魅力を必ず引き出すように心がけていますね。

G:
どうもありがとうございました。

なお、次回はキングギドラガメラモスラの造形を手掛け、川北監督とともに香港に渡って「北京原人の逆襲」で造形を担当、自ら着ぐるみを着て火だるまになりビルから落ちるシーンを熱演した特殊造形師村瀬継蔵氏のインタビューを掲載予定です。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
エヴァの庵野秀明氏が「ゴジラ」新シリーズの総監督・脚本を担当することに - GIGAZINE

レジェンダリー・ピクチャーズがハリウッド版の「ゴジラ」を再び製作へ、公開は2012年を予定 - GIGAZINE

どう見ても怪獣大戦争、赤ちゃんを題材にした人形アート - GIGAZINE

やたらリアルな怪獣襲撃映画「CLOVERFIELD」、あまりにリアルすぎて映画館に注意書き登場 - GIGAZINE

in 取材,   インタビュー,   映画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.