インタビュー

「自己満足だけでやっていると、お客さんは離れていってしまう」、ウルトラシリーズなどの特撮技術監督である佐川和夫インタビュー


円谷プロを創立した「特撮の神様」円谷英二の直弟子で、ウルトラシリーズの特撮技術監督として多くの特撮作品を生み出した佐川和夫監督に、その仕事の神髄や円谷監督との思い出などについて聞いてきました。

佐川監督は、「ウルトラマン」の特殊撮影をはじめとし、「帰ってきたウルトラマン」「ウルトラマンタロウ」「ウルトラマンコスモス」などの作品に特技監督として参加。今回は、スカパー!や各ケーブルテレビ局などで放送中の日本映画専門チャンネルの特集「特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~」のオリジナル番組「ニッポン特撮、国境を越える!~世界に挑んだ男たち~」(3/20、3/21ほか放送)に出演。30年以上にわたって日本の特撮を支え続けた特技監督は、現在の特撮が置かれている状況に対して、どんな想いを抱いているのでしょうか。

詳細は以下から。日本映画専門チャンネル『特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~』



本日の収録が行われる赤坂ツインタワーに到着


日本映画専門チャンネルの受付


収録現場には佐川監督が到着していました。今回の出演は、アメリカ資本で撮影した「極底探検船ポーラボーラ」という映画が特集の第1回に放映されるということで、番組では当時の撮影の状況などが語られています。


当時、実際に撮影に使われた「ポーラボーラ号」など。今回の出演者の一人でもある原口智生監督が、撮影所で廃棄された物を回収し、個人的に修復・保管していたものを持ってきてくれました。


ポーラボーラ号を前に、原口監督と。


◆特撮技術監督になるまで


GIGAZINE(以下、G):
まず、特撮技術監督というのは普通の監督とどう違うものなのでしょうか?

佐川和夫監督(以下、佐川):
普通の監督というのは、ドラマを撮るんですが、特技監督というのはドラマの中で、イメージを映像に具象化する仕事です。例えば怪獣の着ぐるみを演出するというのも当然あるんですが、それは特技監督の仕事の中で発生した、円谷英二からの仕事になっているわけですね。普通の監督は、レンズを通してこの世界にある物を撮るわけですが、特技監督は台本に書かれているイメージ、この世界に存在しないものを撮影しなくてはならない。レンズをのぞいても絵が無いものを撮影するということができないと、特技監督とは言えないですね。ただ怪獣の演出をしているだけでは、特技監督とは言えません。

G:
特技監督というのは特殊なお仕事だと思いますが、どのような経緯で特技監督になったのでしょうか。

佐川:
私が学生だった頃、昭和33年だったかな。池袋の江古田にある日本大学の芸術学部というところに入って、普通の演出家なり監督になっていたら、これから人口も多くなる時期でしたし、そんなに目立たないんじゃないかなということで、人がやらないことをやってみようと考えたわけですね。

ちょうどその頃、ゴジラが盛り上がってきていて、大学一年の春に、円谷英二さん、私はオヤジさんと呼んでるんですけれども、円谷さんのところに行って、オヤジさんのところで学びたいんだと。そうしたら「お前、やめろよこんな商売、俺だけでいいよ」って言うんで、そんなこと言わないでお願いしますと頼み込んで、そんなにやりたいんなら、まずはアルバイトでということになったのがきっかけですね。オヤジさんが「親御さんはどう考えてるんだ」と言うから、「私は次男なので大丈夫です」と(笑)

でも大変でした。オヤジさんが仕事に入ると、撮影助手とかいろんな仕事に呼ばれて、仕事が無い時に学校に行くという感じだったので、どっちが本当の仕事だか分かんない状態。だから、再三再四試験は逃しちゃうし、再試なんてやっても受かるわけないんですよ。そんな状況で、半年遅れで大学を卒業しました。半年遅れでも卒業できたので良かったですね(笑)


G:
なるほど、そういう経緯だったんですね。

佐川:
当時の映像関係の仕事は、テレビならいくらでもあったんですよ。人が足らないから、卒業すればNHK以外は「いらっしゃい、いらっしゃい」という。今で言うと一人あたり何社も内定が出るような状態ですね。でもそれをお断りして、フィルムのほうをやりたいと。

◆デジタル技術とアナログ技術


G:
ちょっと話がそれますが、最近は特撮を使った映画が減ってきて、代わりにCGを使ったものが増えてきている傾向にあるのかなと思うんですが、そういう中でもCGより特撮のほうが優れている点というのはどんなところでしょうか?

佐川:
アナログでできていて、デジタルではできないことという話だと、難しいですね。デジタルで一番難しかったのは、水と火なんですよ。ただ今は、水や火も元になる映像があればそれを再現することができる。渦を作ろうが竜巻を作ろうが、なんでもできちゃう。アナログの場合は、それをいかに作るかという技術の問題になってくるわけですね。

で、そのどちらが優れているか、迫力があるかということになると、それは作る人の頭に入っているイメージの問題だと思います。竜巻なら竜巻の、嵐なら嵐の、それぞれみんなイメージを持っていると思うんですよ。そのイメージが毒々しいものか、あっさりとしたものか、そこの違いですね。


佐川:
例えばその人の得意な絵というのがあって、得意なものばかり撮っても自己満足になっちゃう。自己満足が無いと映像はできないんですが、自己満足だけでやっていると、お客さんは離れていってしまう。

私も未だに「自然なものは自然に映るように」と考えて撮っています。例えばこの手前にあるコップ。これは誰が見てもコップなわけですよ。それと同じように、ここに新しく造形をした時、それが恐竜なのか怪獣なのか、黙っていても分かればいいわけです。それが、テロップが入ったり、説明しなきゃ分からないようではいけないんです。

だから、特殊映像に一番大事なのは、その映像を見た人たちが、それぞれの心の中で勝手にSE(効果音)を作れるようなものにすることです。それができたらもう大丈夫ですね。


佐川:
これはオヤジさんがいつも言っていたことなんですが、「お客さんの側に立って絵を作りなさい」と。「自分の絵を作りたいなら、それは自主映画を作りなさい。あくまで我々は資本社会の中に住んでいる一個人なんだ。それを考えてやらないと、お客さんは離れていくよ」と。

まあ、そればっかりじゃなくて、自分のこだわりを持つことも大切です。この気持ちをまったく無くしてしまったら、後味が悪いんですよ、自分が作った物を後から見ても。少しでも自分のこだわりが残っていれば、多少は喜びを感じることができますから。

◆お客さんが没入してくれる作品を作ることができれば成功


G:
今まで作ってきた作品の中で、これはうまくいった、満足ができるという作品はどれでしょうか?

佐川:
自分がやってる以上は、満足できたのもあるし、満足できなかったのも、そりゃ当然あるわけですが、それは一本の中で、それぞれの工程にもあるんですね。なので、どの作品がということになると難しいなぁ。

G:
では、どんなときに「これは良くできたな」と思いますか?

佐川:
それは、お客さんが違和感なく、ドラマの中にぐーっと没入して見てくれる、そういう時ですね。昔はよく映画館に行って、出口で話を聞きました。その時に「ああ、そうだよね」という感じがあれば、私はそれで大成功だと思ってます。「うわー良かった、最高だった!」なんて言うのは、これはオタクの意見ですから(笑)

オタクが悪いってわけじゃないですよ。しかしオタクじゃない人も映画を見ているわけなので。

◆映画「アバター」とハリウッド映画の作り方


G:
「アバター」という映画が成功していますが、ご覧になりましたか?

佐川:
見よう見ようと思ってるんですが、途中の部分をちょこちょこ見てるだけで、まだ全編通して見てないんですよ。あの映画のすばらしさは、ジェームズ・キャメロンという人のすばらしさですよ。あの人も恐らく、どういう映像を作ればお客さんが喜ぶかということを、しっかり考えているんだと思います。

自分のために作ってる部分も多少はあるかもしれないけど、ハリウッドの映画の作り方というのは、作って、お客さんが入って、お金が入ってくるというのを前提にして作っています。それも世界中のバイヤーを相手にしているんで、日本の人はこんなのが好き、アメリカの人はこんなのが好きというんじゃなくて、世界中の人間が平均してどういう映像を欲しているかということを計算して作っていると思う。


映画を見ていて「あっ、次はこうなるんじゃないかな?」って思うことがあるじゃないですか。それで、実際にそうなる。そういう時は、やっぱり観客が欲しい物を読んでるんだと思います。

ハリウッドの作品はたくさん見る機会があったので、よく思うんですが、向こうのやり方というのはこんな感じです。「出てくるぞ、出てくるぞ、出て……ああ、出てこない」そう思わせた瞬間に、バーッと出てくる。これです。必ずこれがあります。これが向こうの最初のやり方なんですね。


◆リアリティのある映像を作るには


G:
監督の作品には、現実に本当にありそうだなと思うような、リアリティのある作品が多いように思うのですが、どのようにしてリアリティを出しているんでしょうか?

佐川:
どうかなぁ。作る方としては、そういう気持ちで作ってるからじゃないかな。怪獣映画を撮る時に、一番簡単な方法は、「怖いものは怖いように撮る」ということです。

というのは、怪獣だったら吠えてるとき、攻撃している時、怪獣の怖さを考えて演出する。逆に優しさを出すときは、優しい心で接してあげれば優しい映像が撮れる。映像というのも感情なんですね。感情を表したほうが簡単なんですよ。

良く漫才でも言うんですが、「泣きは修行、怒りは鞭」という。では「笑い」はというと、これは成功なんですね。笑うほどのものを作ったら、本当に良い映像ができます。

◆現在のウルトラシリーズについて


G:
ウルトラシリーズにかなり深く関わっていたということですが、新しいウルトラマンを見て、なにか感じるところはありますか?

佐川:
ウルトラマンというのは、これだけ有名になっちゃったから、どう作ってもウルトラマンになっちゃうんですね。ウルトラマンが出てくる以上、ウルトラマンなんですよ。

じゃあウルトラマンが出てこなかったらどうなるかというと、これはもうドラマにならない。今のファンというのは、対象年齢で言うと4~5歳でしょう。10歳まではいないんじゃないかな。ということは、4~5歳の子供を馬鹿にして撮っちゃいけないということです。

私にも5歳になる孫がいますが、5歳には5歳の気持ちがある。今の5歳というのは、テレビの影響なのか、現象しか望まないんですよ。ドラマはどうでもいいんです。ウルトラマンが出てきて、怪獣をやっつければいい。本当はそれじゃいけないんですが、そういう世の中にしちゃったんだから仕方がないですね、これは。

現象だけを捉えているテレビドラマというのがたくさんあります。作る側としては、それが一番手っ取り早いんです。で、見る側はそればっかり見るようになっちゃう。


G:
昔は5歳の子供もそうではなかった?

佐川:
私の子供が見ている頃は、親が一緒にいて、子供は分かんないところがあると「これは何をやってるの?」と聞けた。それでドラマを理解できたんだけど、今はそういう両親がいない。昔は両親そろってウルトラマンとかキャラクター物を見ている家庭もけっこうあったんですが、今はそういう家族で見る映像が少なくなった。

昔、重苦しい映像を撮ると「お前これ、子供がご飯食べてる時間帯で見せられないよ」と円谷のオヤジさんによく言われました。今だからたしかにそうだと思いますが、当時は「いいじゃないのオヤジさん」って言って「その考えがいけないんだ、お前は!」って怒られました。

◆「100点の素材に100点の加工をして、初めて100点の映像」


G:
ちょっと話が変わるんですが、最近見た映画などで、これは良かったというものはありますか?

佐川:
これは、勘弁してください(笑) 私はテレビが嫌いなわけじゃないんですが、映像を見るなら大きいスクリーンで見たい。で、映画館に行くのは今、もう孫と一緒に行くばっかりなんで。

最近の映像はもう、すごいことやってるなぁ、こんなことできるんだっていう、驚きの連続ですよ。まったくデジタルの技術を知らないわけじゃなくて、なまじ知ってるから。でも、細工をしてない映像を見たらなんてことのない映像だろうなと思っちゃう。素の映像を考えちゃうんですね。

私の場合で言えば、何の細工もされていない映像の時点で100点のものを撮って、そこから100点の味付けをして、できるのが100点の映像だと思っています。足して200点じゃないんですね。でも今の映像というのは、全部が全部そうじゃないですが、何の細工もされていないのが50点、細工が50点、50+50で100点だと思ってるわけですが、そうじゃない。


G:
50点の映像に50点の細工をしても、100点にはならないと。

佐川:
私も長年アナログ映像をやっていて、失敗することもあるんですが、失敗すると箸にも棒にもかからない映像になっちゃうんですよ。そういうのは、素が50点で細工が50点の映像ですね。

これはいくら熟練しても必ず起こることで、自分一人で撮ってる時はなんとか苦労して100点の映像を撮るようにするんですが、芝居を撮ってる人と、特撮を撮ってる人が違ってくると、「これだけはやめてくださいよ」ということを事前にお願いするんですが、どうしても現場ではそれしか撮れなかったという時がある。

◆「どんなものでも真剣になって撮りなさい」


G:
では最後の質問として、仕事をする上で常に心がけていることというのはありますか?

佐川:
若いときと今じゃ全然話が違うんですが、若いときにオヤジさんに言われた「どんなものでも真剣になって撮りなさい」ということですね。「これが無くなった時は、もうこの世界から降りなさい。どんな小さなものでも、真剣になって取り組みなさい」というんです。なかなか難しいことですけど。

自分じゃ100%やってるつもりなんだけど、難しいですね。時間とお金、いろんなことに捕らわれるからね。

G:
どうもありがとうございました。

なお、次回はウルトラマンのあの変身シーンを作り、「ゴジラ対ビオランテ」などを多数の作品で特撮技術監督を担当した川北紘一監督のインタビューを掲載します。

◆日本映画専門チャンネル・「特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~」
日本が海外とタッグを組んだ特撮映画を一挙放送!

・放送日
3月19日(土)~21日(祝・月) あさ7時~ ほか

・放送作品
「極底探険船ポーラーボーラ」/「デスカッパ」/「北京原人の逆襲」
「中国超人インフラマン」/「クライシス2050」/「白夫人の妖恋」
「ニッポン特撮、国境を越える!~世界に挑んだ男たち~ 1」

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in 取材,   インタビュー,   映画, Posted by darkhorse_log

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