サイエンス

「ホラー映画効果」を利用しオスがメスにアピールする鳥

by jmcgross

デートで映画を見るとき、「怖がって抱きついてくれたりして……」と期待してホラー映画を選んだ経験のある人も多いかもしれません。

「怖くてドキドキしている時に頼りになるところ見せて、どさくさに紛れてあわよくば……」という人間の下心と似たような作戦で、捕食者などの脅威を利用してオスがメスにアピールする鳥がいるそうです。


詳細は以下から。Using Fear to Flirt: The “Scary Movie Effect” « Science Life Blog « University of Chicago Medical Center

シカゴ大学の進化生態学者Stephen Pruett-Jones准教授は、20年間にわたりオーストラリアとアメリカを行き来してムラサキオーストラリアムシクイの生態を研究してきました。

ムラサキオーストラリアムシクイは、オスとメスのつがいが「家庭」を作るパートナーとしては一生連れ添うものの、性的にはオスもメスも「家庭」の外でパートナー以外の多数の相手と繁殖するという、「社会的には一夫一婦制・性的には多重婚」とも呼べるユニークな社会生活を送っています。性成熟した若い鳥たちがなかなか「独り立ち」せず、「両親と同居しながら弟や妹の面倒を見る」ということもあり、多くの「家庭」はかなり複雑な家族構成となるそうです。

ムラサキオーストラリアムシクイのオス(左)とメス(右)。

by Mitchell Walters

観察を続ける中でPruett-Jones博士らは、ムラサキオーストラリアムシクイのもう一つのユニークな生態に気付きました。Butcherbirdのような捕食者の鳴き声を聞いたり、研究者たちが大きな物音を立ててしまった時、脅威を感じて飛び立つのが通常予想される行動ですが、ムラサキオーストラリアムシクイのオスは枝にとまったまま、敵に居場所を知られることを恐れぬかのように高らかに鳴くのです。

ムラサキオーストラリアムシクイの天敵Butcherbird。カササギフエガラスと近種のモリツバメ科の鳥です。


Butcherbirdの声にムラサキオーストラリアムシクイのオスの声が重なる様子は「デュエットのよう」「ボーカル・ヒッチハイキング」と研究者たちは表現しています。いわば伴奏のタダ乗りですが、そのデュエットの鳴き声は以下のリンクから聞くことができます。

Butcherbird and Male by robmitchum on SoundCloud - Create, record and share your sounds for free


ではなぜ、「捕食者の声を聞くと鳴く」というリスキーな行動を取るのでしょうか?「周囲にいる仲間へ警告している」「捕食者に見つかることを恐れない度胸と、見つかっても逃げ切れる身体能力の持ち主であるとメスにアピールしている」などと、さまざまな理由が考えられます。

そこで、研究者たちは鳥の鳴き声のオーディオファイルを入れたiPodを使って、南オーストラリア州のBrookfield Conservation Parkで、Butcherbirdの声・オスの鳴き声タイプ1(縄張りをマーキングする際の声)・タイプ2(天敵などの脅威に接した際の声)をさまざまなパターンで組合せ、メスに聞かせる実験を行いました。その結果、メスはButcherbirdが鳴き始めたところへオスの声タイプ2が重なるパターンに最も強く反応し、鳴き声が聞こえる方向を向き返答するように鳴くという反応を見せたとのこと。


これは、Butcherbirdの声を聞くとメスは非常に注意深い状態になり、その時にオスがすかさず「タイプ2」の鳴き声を出すと、ソロで歌ったときよりも注意深く聞いてもらえるというような仕組みと考えられるそうです。人間の男性が女性に声をかける際にも、用件を言う前に「ねえねえ」と大声で注意をひきつけてから話すということがあると思いますが、ムラサキオーストラリアムシクイのオスはButcherbirdの鳴き声をこの「ねえねえ」のかわりに使っているというわけです。また、「捕食者が近くにいる」という危機感により、メスは本能的に近くにいるオスとつがいやすくなっているとも考えられます。

Pruett-Jones准教授のもとで研究に携わり現在はコーネル大学に勤務するEmma Greig博士は、「タイプ2の歌は性的なアピールで、メスは捕食者の声を聞いた後に特に性的なアピールに反応しやすい状態になっているため、同じ歌でも魅力的に聞こえる、という実にエキサイティングな理論も考えられます」と語っています。

また、「オスがあえて危険に身をさらすことで強さをアピールしてメスをひきつけようとしている」というハンディキャップ理論も考えられたのですが、捕食者の声を聞いて鳴くオスと鳴かないオスに年齢や地位、健康状態や体色(羽根の青色の鮮やかさ)などに違いは見られなかったため、捕食者の声に合わせて鳴くという行為に実はそれほど危険はないのではないかとGreig博士は推測しています。「捕食者の場所がわかっていて、かつその捕食者は狩りをしているわけでなく歌っている最中だとわかっているのですから」とGreig博士。高齢のオスや体が弱っているオスにとっても、鳴くことによって捕食者に居場所を知られることが危険でないとすれば、「あえて危険に身をそらしアピール」という説は除外できそうです。


捕食者の鳴き声を聞いて鳴く「デュエット」をよく歌うオスは、そうでないオスと比べ実際に繁殖のチャンスが多くなるのでしょうか?今後ヒナたちの遺伝的な父親を特定し父系をたどっていくことで、答が出るだろうとPruett-Jones准教授は語っています。また、捕食者の声に重ねて鳴く「ボーカル・ヒッチハイキング」がムラサキオーストラリアムシクイだけでなく、多数の種にオスにより繁殖のための戦略として広く用いられている可能性もあるとのことで、Greig博士は洪水の中、現在もオーストラリアで研究を続けているそうです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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