そういえば格安の国産通信規格「iBurst」はどうなっているのか、不遇な現状を京セラに聞いてみた
モバイル向けの国産通信規格というと第2世代携帯電話などに広く用いられた「PDC方式」やウィルコムがサービスを行っている「PHS」などが挙げられます。そして、ウィルコムが総務省から次世代規格「XGP」のサービスを国内で開始する認可を与えられたのに対して、非常に低コストで展開できるため月額利用料金を2000円程度に抑えることができるにもかかわらず、不遇の立場に置かれているある国産の通信規格が存在しています。その名は「iBurst」、日本生まれなのになぜか日本以外の海外12カ国では既に商用サービスが開始されており、わけのわからない状態に陥っています。
今回はそんな不遇の立場に立たされている国産通信規格「iBurst」について、ワイヤレスジャパン2009の京セラブースでいろいろと話を聞くことができました。
というわけで、一体どうしてこんなことになってしまったのかという詳細は以下から。
これがワイヤレスジャパン2009の京セラブース。京セラは携帯電話会社各社に基地局を供給しており、2010年にNTTドコモが商用サービスを開始する予定の高速通信サービス「LTE」の基地局も手がけています。
京セラのLTE基地局の概要。広範囲をカバーするマクロ基地局とエリアを綿密に形成できるマイクロ基地局の2種類がラインナップされています。
マイクロ基地局を敷設することで電波が微弱な地域や圏外地域への対策に有効とのこと
続いては日本でもサービスが開始されたWiMAX
基地局から家庭用のレピータまで、幅広く手がけるのが京セラの構想
UQ WiMAX向けにも関連製品を提供
そしてウィルコムが商用サービスを予定している次世代高速通信サービス「XGP」
下りとほぼ変わらない上がり速度を実現しているXGPにはマイクロセルネットワークやMIMOなど、さまざまな技術が用いられています
周波数利用効率が高いのもXGPの特長
そして京セラが開発したワイヤレスブロードバンド規格「iBurst」も展示されていました
iBurstはすでに世界12ヵ国で商用サービスが開始されています
対応製品
こちらはUSBタイプのモデム
デスクトップ向けのモデムも提供されています
ところで、iBurst自体は2004年には既にスタート可能な状態になっていたにもかかわらず、なぜいまだに日本では開始されていないのでしょう?話を聞いてみたところ、以下の画像で示されているような経緯になっているそうです。
・2007年10月:アイ・ピー・モバイルが破綻したため、2GHz帯周波数免許(2.010~2.025GHz)を返上申請
・2007年12月:日本は買い取り方式ではないので、総務省が認定取り消しを決定
・2008年01月:「携帯電話等周波数利用方策委員会」にて、2GHz帯TDOバンドに対する技術条件を再度審議することが決定。1月以降4回の作業班会議及び7回のアドホック会議を実施。技術条件の審議を実施。
・2008年05月:5月29日、携帯電話等周波数利用方策委員会報告(案)がまとめられる。最終的に5システムにつき、技術条件の審議が終了。
・2008年06月:6月9日~7月9日までの期間、報告案に対し意見募集を実施
・2008年07月:意見募集の結果を踏まえ7月29日に報告完了
・2008年11月:1.5GHz帯への割当と合わせて、合同カンファレンスを実施。事業者による意見陳述。
・2009年1月~2月:免許割当方針公開。
・2009年4月~5月:事業者を募集、5月7日に締め切ったものの、応募者なし。
で、なぜ応募者がなかったのかというと、実際には応募候補の企業はあったらしいのですが、この不景気の最中、一気に数十億円も投資できる体力がなかったのに加え、日本は帯域を買い取る方式ではなく、あくまでも許可をもらってそれについて使用料を払う方式であり、その条件が大雑把に言えば「サービス開始から2年以内には日本全国の9割で通信可能なように整備すること」というもの。こんなことが可能なのは相当体力のある企業に限られてくるため、結果的に誰も応募してこなかったという結果につながったそうです。
このままだとダメだと思った京セラはこの帯域を利用して、iBurstを用いた地方でのブロードバンドゼロ地帯の解消に向けた提案を行う予定だそうです。すでにいくつかの自治体で話をしてみたところ、非常に好感触だったそうなのですが、やはり「サービス開始から2年以内には日本全国の9割で通信可能なように整備すること」というのがかなりのネックになっており、現在のこの帯域を3分割することを総務省に提案中だそうです。
つまり、3分割された帯域のうちの1つを総務省の要求している全国区の通信のために空けた上で、もう1つをiBurstに、残った最後の1つをさらに別の企業用にといった形での提案を行っているというわけです。
で、これがほかの通信方式と比較してiBurstの設備投資と運営費用が圧倒的に少ないことを示すグラフ。本来はこれぐらいの予算で運営可能であるため、割と参入しやすいようにできているとのこと。だからといって日本全国津々浦々まで行き渡らせようと思うとやはりかなりの金額が必要になってきてしまいます。そこで京セラとしては、放送免許は都道府県ごとに認可されているのだから、同じように都道府県ごとにiBurstの帯域も認可してもらい、小さく始めることを可能にしよう、と提案しているそうです。
iBurstの設備投資や運営費用が少なくて済む理由は、少ない基地局で広いエリアをカバーできるのがその理由。この地域ならiBurstだと6台の基地局と1カ所の接合点で済みます。
iBurstがカバーするのに6台の基地局が必要だったエリアをWiMAXでカバーしようとすると、必要な基地局はなんと25台となっており、コストの差は歴然です。すでにサービスインしている海外12ヵ国での最安利用料金は月額2000円ですが、日本でiBurstを開始しても月額2000円で十分に収まるとのこと。
なお、アイ・ピー・モバイルが返上した2GHz帯については、総務省の要求している2年以内に全国の9割をカバーするという条件さえ無ければiBurstを利用した通信サービスを展開する会社はあったとした上で、2.5GHz帯が割り当てられたWiMAXやXGPについて「なんでもかんでも東京から始めるのはおかしい」「いつになったら地方に来るのかわからない状態なのに、何が9割カバーなのか」とコメントしてくれました。
確かに、放送免許が各都道府県のエリアごとに出ているにもかかわらず、通信の帯域はあくまで全国オンリーでしか認可されないのはおかしいという京セラの問題提起はもっともな考えであり、地方レベルの小規模から始めることが可能であれば、初期投資として必要となる数十億円の費用をもっと安く済ませることができるため、地方のブロードバンドが来ていないようなところにこそ、iBurstの利用価値が出てくるのは自明の理のはずなのですが、さらにいろいろと問題が山積みでなかなか前に進まないのが現状のようです。
ちなみに、あまりにもiBurstが不遇であるため、京セラのスタッフがワイヤレスジャパン2009の会場に訪れた総務省の局長に対して、ちゃんと局長名まできちんと入った専用封筒に資料を入れて手渡ししておいたそうですが、はたして今後日本国内でiBurstが日の目を見ることはあるのでしょうか。
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