サイエンス

計算できるウマ「賢馬ハンス」はどうやって正しい答えを出していたのか?


20世紀初頭のドイツに、人の言葉を理解し、計算問題にも答えられると評判のウマがいました。「クレバー・ハンス(賢馬ハンス)」と呼ばれたこのウマには心理学者も関心を寄せ、能力を確かめるための実験を行っています。クイーンズ大学ベルファストで哲学を教えるマティアーシュ・モラヴェツ氏が、ハンスの謎を解いた実験と、当時の研究が科学に与えた影響を論じています。

Clever Hans(The Horse of Mr. von Osten): A Contribution to Experimental Animal and Human Psychology by Oskar Pfungst
https://www.gutenberg.org/cache/epub/33936/pg33936-images.html

How a ‘psychic’ horse named Clever Hans changed the way we do science
https://theconversation.com/how-a-psychic-horse-named-clever-hans-changed-the-way-we-do-science-288745


ハンスの飼い主は、数学教師のヴィルヘルム・フォン・オーステン氏です。オーステン氏はハンスに数や文字を教え、ハンスが足し算・引き算・掛け算・割り算に加えて分数の計算までできると考えていました。以下は、ハンスに写真を見せるオーステン氏。


ハンスはひづめで地面をたたく回数で答えを表し、例えば「今月の8日が火曜日なら、その次の金曜日は何日?」と尋ねると、地面を11回たたいて答えました。口頭の質問にも文字で示された問題にも答えられ、飼い主以外の人が尋ねても正しい答えを返したとのこと。ハンスの能力を見ようと多くの見物客が集まったそうです。


1904年には心理学者のカール・シュトゥンプ氏ら13人の委員会がハンスを調べましたが、飼い主らが意図的な合図で答えを教えている証拠は見つかりませんでした。

シュトゥンプ氏のもとで研究していた心理学者のオスカー・プフングスト氏は、質問する人が正解を知らなくてもハンスが問題に答えられるかを確かめる実験を行いました。プフングスト氏とオーステン氏が互いに聞こえないようにハンスの耳元で1つずつ数をささやき、2つの数を足した答えを求めるという方法です。両方の数を聞いたのはハンスだけで、質問する2人は正解を知らないという条件でハンスが問題に正解したのは31回中3回だけでした。一方、人間も答えを知っている状態で同じ問題を出すと、31回中29回も正解したとのこと。


次にプフングスト氏は、質問者の姿が見えなくてもハンスが問題に正解できるかを調べるため、ハンスの目の横に覆いを付けて視界を狭め、質問者の立つ位置を変えました。その結果、質問者の姿が見える状態で56回試すと正答率は89%でしたが、声だけが聞こえる状態で35回試したところ、正答率が6%に下がりました。

プフングスト氏が突き止めたのは、質問者のごく小さな動きがハンスへの合図になっていたということです。質問者が頭や上半身を少し前に傾けるとハンスは地面をたたき始め、正解の数までたたいたところで質問者の頭がわずかに上がると、たたくのをやめていました。オーステン氏自身に合図を出している自覚はなく、ほかの質問者も無意識に同じような動きをしていたため、ハンスは飼い主がいなくても正解できたというわけです。プフングスト氏が意識して同じ動きをすると、言葉で質問しなくても狙った回数だけハンスに地面をたたかせることができました。

さらにプフングスト氏は、自らがハンス役になり、相手が思い浮かべた数を当てるという実験も行いました。相手を見ながら右手でたたく動作を繰り返し、相手の頭が動いたところで止めてその回数を答えるという練習を重ねた結果、回答が比較的簡単な小さい数だけではなく、58や96といった大きい数まで当てられるようになったとのこと。ハンスのように、実験者が無意識に出す合図によって実験を受ける人や動物の反応が変わってしまう現象は「クレバー・ハンス効果」と呼ばれています。

モラヴェツ氏によると、当時は人間や動物にテレパシーなどの能力があるかどうかを調べる研究も行われており、こうした研究は実験の順番や参加者のグループ分けをくじ引きのように偶然に任せて決める「無作為化」の発展にも貢献したとのことです。

ハンスが注目を集めた当時は電話で遠く離れた人と話し、X線で体の内部を見ることが可能になった時代でもありました。モラヴェツ氏は、科学によってそれまでできなかったことが実現していく中で、優れた科学者たちが動物のテレパシーを真剣に調べたのもそれほど不思議なことではないと論じています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1b_ok

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