Google DeepMindが「EVE Online」でAI研究、20年以上続く仮想宇宙を「知能を映す鏡」として活用へ

Google DeepMindが宇宙MMORPG「EVE Online」の開発元であるFenris Creationsと進めている研究提携について、EVEシリーズをAI研究に活用する具体的な取り組みを明らかにしました。20年以上にわたってプレイヤーが経済や戦争、外交を作り上げてきたEVE Onlineの世界を使い、AIが長期間にわたって学習・記憶・計画しながら人間と関わるための技術を研究するとのことです。
Exploring new frontiers of AI and games research — Google DeepMind
https://deepmind.google/blog/from-atari-to-eve-online-building-on-15-years-of-ai-research-in-games/
DeepMindは画面上のピクセルだけを見ながら「Pong」「Breakout」「Space Invaders」など49種類のAtari 2600向けゲームを学習するDeep Q-Network(DQN)を開発するなど、2010年の設立以来ゲームをAI研究に利用してきました。その後も囲碁で世界トップクラスの棋士を破ったAlphaGoや、チェス・将棋・囲碁を同じ仕組みで学習したAlphaZero、リアルタイム戦略ゲーム「StarCraft II」でグランドマスターレベルに到達したAlphaStarなど、ゲームをプレイできるAIを多数開発しています。
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従来のゲームAI研究では「試合に勝つ」「スコアを高くする」といった明確な目標を設定しやすい一方、現実世界には分かりやすい得点やリセットボタンが存在しません。そこでGoogle DeepMindは、決められたゲームを攻略するだけではなく、人間と同じように周囲の状況を理解しながら行動できるAIの研究を進めています。
研究成果の1つが「Scalable Instructable Multiworld Agent(SIMA)」です。SIMAはゲーム専用のAPIやソースコードにアクセスするのではなく、人間のプレイヤーと同じように画面を見て自然言語による指示を理解し、キーボードやマウスを操作します。Geminiを利用した「SIMA 2」ではリアルタイムの推論や会話にも対応し、「No Man's Sky」「Valheim」「Hydroneer」など複数の3Dゲーム環境で研究が進められています。
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ただしAI研究で利用されてきた多くのゲームには、1回の試合が終われば状況がリセットされ、勝敗などの目標も比較的明確という特徴があります。一方で2003年にサービスが始まったEVE Onlineでは多数のプレイヤーが共有する単一の宇宙が長期間にわたって維持されており、プレイヤー同士の取引による経済や資源の不足、企業や同盟による協力と対立、外交などが絶えず変化しています。ゲーム世界そのものが簡単にはリセットされない点がAI研究にとって大きな違いになるというわけです。
EVE Onlineのゲームプレイでは宇宙船同士の戦闘で勝つだけではなく、限られた情報から他のプレイヤーの意図を推測し、裏切りや市場変動まで考えながら判断する必要があります。Google DeepMindはEVE Onlineで特に研究したい能力として、環境が変化しても以前の知識を失わずに学び続ける「継続学習」、長期間にわたって情報を蓄積して必要な場面で取り出す「記憶」、数週間から数年単位で先を考える「長期的な計画」、さらに多数の相手との協力・競争・交渉を扱う能力を挙げています。
開発元のFenris Creationsによると、最初はローカルサーバー上で動作するオフライン版EVE Onlineを使い、過去の情報やシミュレーションを利用した制御された環境で研究を進めるとのこと。Fenris Creationsはプレイヤーの代わりにゲームを進めたり、リスクや結果を取り除いたりするAIを作ることは目的ではないと説明しています。

研究提携ではEVE Onlineだけでなく、EVEシリーズのほかの作品も研究環境として活用することが検討されています。「EVE Vanguard」では一人称視点で素早い戦術判断が求められるため、短時間での意思決定を研究できます。一方、「EVE Frontier」にはプレイヤーがプログラムできる「Smart Assemblies」が用意されており、世界の仕組みそのものが変化する環境への適応を研究する場として活用できるとのこと。Google DeepMindは複数のEVE作品を使うことで、瞬間的な操作から銀河規模の長期戦略まで異なる時間軸の判断を扱えるとしています。
両社の協力は研究環境だけにとどまらず、プレイヤー向け機能にも一部反映されているとのこと。例えば初心者向け支援機能として、実際のRookie Helpで交わされた質問と回答などを基に新規プレイヤーがゲーム内で疑問を解決できるようにする仕組み「Aura Guidance」がプロトタイプとして試験提供されています。回答に十分な確信が持てない場合は人間が参加するRookie Helpへ誘導するなど、人間のコミュニティーを置き換えるのではなく補助する設計になっています。
Google DeepMindは「ゲームは常に知能を映し出す鏡だった」と表現しており、ゲームの世界が複雑で長期間持続するものになるほど、そこで行動するAIにも高度な能力が求められると説明しています。長期的にはゲームから得た研究成果を新しいゲーム体験やアクセシビリティー向上に役立てるだけでなく、ゲーム研究で培った技術や考え方がAlphaFoldにもつながった例を挙げ、現実世界の問題や科学研究へ応用することも目指しているとのことです。
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