サイエンス

教育水準の低い地域でAIライティングツールの導入が進んでいることが明らかに


2022年後半にChatGPTがリリースされて以来、専門家はAIモデルが世界にどれだけの影響を与えているのかについて議論してきました。スタンフォード大学の主導により3億以上のテキストサンプルを分析した最新の研究によると、AIモデルはさまざまな分野の専門的なコミュニケーションにおいて最大4分の1のライティング作業を支援しているそうです。特に、アメリカの教育水準の低い地域では、他の地域よりも大きな影響をおよぼしていることも明らかになりました。

[2502.09747] The Widespread Adoption of Large Language Model-Assisted Writing Across Society
https://arxiv.org/abs/2502.09747


Researchers surprised to find less-educated areas adopting AI writing tools faster - Ars Technica
https://arstechnica.com/ai/2025/03/researchers-surprised-to-find-less-educated-areas-adopting-ai-writing-tools-faster/

スタンフォード大学、ワシントン大学、エモリー大学の研究者が、「大規模言語モデル(LLM)の支援を受けるライティング作業が社会全体に普及」と題する研究論文を発表しました。論文ではスタンフォード大学のウェイシン・リャン氏とヤオホイ・チャン氏が共同筆頭著者を務めています。

研究ではアメリカ消費者金融保護局に消費者から提出された苦情(68万7241件)、企業によるプレスリリース(53万7413件)、求人情報(3億430万件)、国際機関によるプレスリリース(1万5919件)を含むデータセットと、言葉の使用パターンを追跡する統計的検出システムを使用することで、2022年1月から2024年9月までに各業界でLLMを用いたライティングツール(AIライティングツール)がどのように採用されてきたのかを調査しました。


研究チームはChatGPTのリリース前後でみられる「単語の使用頻度および言語パターンの変化」を分析することで、統計的にAIライティングツールを使用しているか否かを特定する統計的検出システムを採用しています。これは2024年3月に発表されたアプローチで、AIライティングツールには「典型的な人間の文章とは微妙に異なる特定の単語の選択、文の構造、言語パターンを好む傾向」があるとのこと。

研究チームはAIライティングツールが生成したコンテンツの割合(0~25%)が明らかになっているデータセットを用いて、統計的検出システムの精度を検証。その結果、統計的検出システムは3.3%未満のエラー率でAIライティングツールの採用率を予測することに成功しています。

この統計的検出システムを用いてデータセットを分析した結果、金融消費者苦情の約18%(アーカンソー州からの全苦情の30%を含む)、企業によるプレスリリースの24%、求人情報の最大15%、国連プレスリリースの14%でAIライティングツールを使用した兆候がみられたそうです。


また、都市部と農村部でAIライティングツールの採用率を比べると、農村部は10.9%であるのに対して都市部は18.2%と非常に高くなりました。AIライティングツールの採用率を教育水準で比較すると、教育水準が高い地域では17.4%であったのに対して、教育水準の低い地域では19.9%となっています。なお、教育水準の高さは地域ごとの学士号取得率で判断されました。なお、特にAIライティングツールの採用率が高いのが「都市部で教育水準の低い地域」(21.4%)です。

研究チームは「消費者の苦情において、AIライティングツールの採用に関する地理的および人口統計的パターンは、『技術の採用が一般的に都市部、高所得者層、高学歴層に集中している』という従来の技術普及傾向から逸脱するという、興味深い傾向を示しています」と指摘しました。


また、アメリカ消費者金融保護局に寄せられた苦情の地域別AIライティングツールの採用率を比較すると、アーカンソー州が29.2%、ミズーリ州が26.9%、ノースダコタ州が24.8%と非常に高いのに対して、ウェストバージニア州が2.6%、アイダホ州が3.8%、バーモント州が4.8%と著しく低くなりました。なお、人口密集地であるカリフォルニア州が17.4%で、ニューヨーク州が16.6%でした。

都市部と農村部の格差は予想通りですが、農村部通勤圏(RUCA)コードを使用することで、2023年初頭に都市部と農村部が同様の割合でAIライティングツールを採用し始めたことも明らかになっています。しかし、採用率は2023年半ばまでに大きく開きが出ており、都市部では採用率が18.2%に達したのに対して、農村部では10.9%と鈍化しました


研究チームは分析したすべての分野(消費者の苦情、企業プレスリリース、求人情報など)で同様の採用率の変更パターンが見られたとしています。特に、「ChatGPTが2022年11月にサービスを開始してから3~4カ月で採用率が急激に上昇し、2023年後半に安定する」という変更パターンが広く見られた模様です。

さらに、求人情報では歴史の古い企業ほどAIライティングツールの採用率が低かったそうです。1980年以前に設立された企業はAIライティングツールの採用率が5%未満だったのに対して、1980年以降に設立された企業の採用率は最大3倍も高かった模様。特定の職業の場合、AIライティングツールの採用率は10~15%も高かったそうです。また、従業員数が少ない企業の方が、多い企業よりもAIライティングツールを積極的に利用していることも明らかになっています。

企業プレスリリースでのAIライティングツールの採用率を業種別で比較すると、科学技術系企業が16.8%で最も採用率が高く、ビジネスおよび金融関連ニュースは14~15.6%、人材および文化トピックは13.6~14.3%でした。

国際機関によるプレスリリースでは、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国でのAIライティングツールの採用率が約20%と最も高く、アフリカ諸国、アジア太平洋諸国、東ヨーロッパ諸国では11~14%と比較的低い採用率だったそうです。


これを受け、研究チームは「都市部と農村部のデジタル格差は依然として残っているようですが、教育水準の低い地域ほど消費者からの苦情におけるAIライティングツールの採用率が高いという我々の発見は、これらのツールが消費者擁護活動における平等化ツールとしての役割を果たしている可能性を示唆しています」と記しました。

また、研究チームは今回の調査結果について、AIの進化によりAI生成コンテンツの検出はより困難になっているため、今回出た採用率は実際の生成AIの使用率を過小評価したものである可能性が高いと指摘しています。

研究チームは「我々の研究は、企業・消費者・国際機関がコミュニケーションのために生成AIに大きく依存しているという新たな事実を示しています」と主張。同時に、「センシティブな分野では、AIに過度に依存すると、懸念に対処できないメッセージになったり、全体的に信頼性の低い情報を外部に公開したりする可能性があります。AIに過度に依存すると、企業が送信するメッセージの信憑(ぴょう)性に対する国民の不信感も生まれる可能性があります」と述べ、AIライティングツールの普及がもたらす弊害についても言及しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「ChatGPTを使った学生向け文章作成のガイド」をOpenAIが公式に作成 - GIGAZINE

チャットAIユーザーの21%がクリエイティブなライティングやロールプレイにAIを使用していることが判明 - GIGAZINE

ChatGPTなどのAIで科学論文を書くことが国際会議で禁止に、ただし自分の文章の編集・推敲はOK - GIGAZINE

AIの力で「手書き文字」を生成できる無料ウェブアプリ「Calligrapher.ai」レビュー - GIGAZINE

AIトレーニング会社は作家や詩人を雇いトレーニング素材となるオリジナル短編を書かせている - GIGAZINE

in ソフトウェア,   サイエンス, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article It is clear that the adoption of AI writ….