妊娠中の離婚や中絶に厳しい法律があると妊産婦が殺される可能性が高くなる

アメリカでは人工中絶を禁止している州がいくつか存在し、2024年4月時点ではテキサス州やインディアナ州などの14州で人工妊娠中絶を全面禁止しているほか、フロリダ州やジョージア州では「人工妊娠中絶は妊娠6週目まで」という厳しい制限が設けられています。また、一部の州では妊娠中の女性が離婚することに法的障壁が存在します。このような離婚や中絶に厳しい法律がある州では、妊婦や出産後間もない母親が殺される可能性が高くなるという研究結果が報告されました。
State Divorce Laws, Reproductive Care Policies, and Pregnancy-Associated Homicide Rates, 2018-2021 | Public Health | JAMA Network Open | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2825998
Barriers to divorce linked to pregnancy-associated homicide
https://www.psypost.org/study-links-barriers-to-divorce-and-reproductive-healthcare-to-higher-pregnancy-associated-homicide-rates/
「他殺」はアメリカの妊婦の主要な死因のひとつとなっており、妊婦に占める死亡率は妊娠高血圧腎症や失血死といった妊娠・出産に伴う医学的合併症を上回っています。犯人のほとんどは妊婦の最も親密なパートナーであり、特に若い女性や黒人女性が殺害されやすい傾向がみられています。
サウスカロライナ大学の犯罪学者であるケイトリン・ボイル准教授は、ミズーリ州では「妻が妊娠している場合、裁判官が出産するまで離婚を確定させない」という規則があることを知り、このような離婚や中絶に厳しい法律が妊婦の他殺率に及ぼす影響に興味を持ちました。
ボイル氏は、「私は何年も前から女性に対する暴力を研究しており、殺人が妊婦の主な死因であることを知っていました」「私は、生殖医療へのアクセスを制限する法律や離婚に対する法的障壁のパターンがどうなっているのかが気になりました。そして、女性は法律に関係なく妊娠中に殺される可能性が高いのか、それとも法的制限が厳しい州でよりパートナーに殺される可能性が高いのか、疑問に思い始めました」と述べています。

ボイル氏らの研究チームは、殺人を含む暴力的な死に関する情報をまとめた全米暴力死報告システムのデータベースを使用し、2018年~2021年にかけたアメリカの49州とワシントンD.C.の妊娠関連殺人率を分析しました。データには妊娠中または出産後1年以内に死亡した妊産婦が含まれ、生殖年齢にあるすべての女性(15~49歳)と、特に若い女性(10~24歳)の各グループについて殺人率を算出しました。
また、研究チームは生殖医療や離婚に関する州の政策についても調査しました。生殖医療における妊産婦の法的障壁については、中絶へのアクセスを妨げる公的資金の制限や親の同意要件などに基づいて各州ごとにスコアを算出しました。また、妊娠中の離婚を禁じる規則や法律についてはアーカンソー州、ミズーリ州、テキサス州などの州で施行されているそうです。
分析の結果、妊娠中の離婚が困難な州では、妊産婦が殺される割合が著しく高いことが判明。また、中絶へのアクセスを妨げる法的障壁がある州でも、親密なパートナーおよびパートナーでない人物に妊産婦が殺される割合が高いという関連性がみられました。
妊産婦の殺害には人種的な差もみられ、特に殺される割合が高かったのは黒人女性で、その次にヒスパニック系、そして白人女性の順で殺害されやすかったとのことです。ボイル氏は心理学系メディアのPsyPostに対し、「この研究では、中絶医療にアクセスしやすい州では黒人女性とヒスパニック系女性の殺害率が低いことがわかり、これらの政策が持つ保護効果が浮き彫りになりました」と述べています。

今回の研究結果は、妊娠中の離婚が難しかったり、中絶医療へのアクセスが妨げられていたりすると、パートナーから虐待的な扱いを受けている妊産婦が危険な場所から逃げにくくなることを示唆しています。
ボイル氏は、「人々は妊娠と産後の期間について、これまで以上に女性を保護するべき脆弱(ぜいじゃく)な時期だと考えています。そのため、暴力の結果として妊娠することがあり、妊娠のせいで暴力が増加する可能性があると話すと、人々は驚きがちです。残念ながら、私は自分の発見に驚きませんでした」と語りました。
妊産婦はパートナーに経済的に依存していたり、妊娠していたり、小さな子どもがいたりすると、たとえパートナーが暴力的であっても逃げ出しにくくなります。ただでさえ虐待犯は被害者を孤立させ、重要な社会的・経済的・感情的なサポートシステムから切り離すことで逃亡を防ごうとするため、そこに離婚や中絶を妨げる法的障壁があればさらに暴力から逃げるのが困難になります。
ボイル氏は、「虐待的な結婚生活を送っている人々は、たとえ妊娠中の離婚に障壁がある州でも離婚手続きを開始したり、暴力的なパートナーからの保護命令を受けたりできると知っておく必要があります。私たちは社会の一員として、医療や家庭内暴力サービスへのアクセスを支援し、生活の中で助けを必要としている人々を助ける必要があります」と述べました。

なお、今回の研究で用いられたデータは2018~2021年のものでしたが、2022年6月には女性の人工妊娠中絶を規制する法律を違憲とする「ロー対ウェイド判決」を覆す判決を、アメリカの最高裁判所が下しました。これを受けて、すでに中絶へのアクセスを制限していた多くの州で中絶の全面禁止が実施されたため、記事作成時点ではさらに妊産婦への危険が高まっている可能性があるとのことです。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article Strict laws on divorce and abortion duri….