脂肪細胞が持つ「肥満だった頃の記憶」がリバウンドの原因になっている可能性
ダイエットをしてもしばらくするとリバウンドしてしまい、ダイエットのやる気を失ってしまった経験がある人も多いはず。新たな研究では、脂肪細胞は痩せた後も肥満だった頃の「記憶」を持っており、それがリバウンドの原因になっている可能性が示唆されました。
Adipose tissue retains an epigenetic memory of obesity after weight loss | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-024-08165-7
Fat cells have a 'memory' of obesity, study finds | Live Science
https://www.livescience.com/health/fat-cells-have-a-memory-of-obesity-study-finds
ダイエット後にリバウンドしてしまった人に対しては、「意志が足りない」「体重が減って油断した」などと言われることがありますが、近年の研究では本人の努力を超えた生物学的要因がリバウンドに絡んでいる可能性も示唆されています。
新たにチューリッヒ工科大学やライプツィヒ大学などの研究チームは、リバウンドを引き起こす分子レベルのメカニズムを理解するため、マウスとヒトのDNAにおけるエピジェネティクスについて研究しました。
エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列は変わらないまま、後からDNAに加わった修飾によって遺伝子の働きが制御される仕組みのことです。エピジェネティクスを制御する主なプロセスにはDNAメチル化やヒストン修飾があり、これらのプロセスによって同じDNAでありながら細胞の機能が変化します。
研究ではマウスに高脂肪食を与えて太らせた後、体重を標準まで戻しました。ダイエットしたこれらのマウスは、代謝的には高脂肪食が与えられたことがないマウスと変わりませんでしたが、脂肪細胞には体重増加中に生じたエピジェネティックな変化がまだ残っていたことがわかりました。
同様のエピジェネティックな変化は、減量手術を受けたヒトの肥満細胞でも確認されました。論文の筆頭著者でチューリッヒ工科大学の博士課程に在籍するローラ・ヒンテ氏は、「脂肪細胞は肥満になると一種のアイデンティティの危機に陥ることが知られています。自分が誰で、何をするべきなのか忘れてしまうのです」と述べ、その変化が体重減少後も継続することが示唆されたと指摘しています。
次に、かつて肥満だったマウスと太ったことがないマウスから採取した脂肪細胞をグルコースとパルミチン酸塩にさらすと、肥満だったマウスの方がより多くのグルコースとパルミチン酸塩を取り込むことが判明しました。
さらに、肥満だったことがあるマウスはもう一度高カロリー食を与えられた場合、太ったことがないマウスより早く体重が増えることも確認されました。ヒンテ氏は、「エピジェネティックな変化は、マウスが健康な環境にいる時は何の影響も及ぼしませんでした」と述べています。
今回の研究は、肥満細胞におけるエピジェネティックな変化が直接リバウンドを引き起こすことを証明したわけではありませんが、何らかのメカニズムでリバウンドを引き起こしていることを示唆するものです。また、脂肪細胞と同様にニューロンやその他の細胞にも肥満の「記憶」が残り、それが食欲などその他の肥満要因に影響している可能性もあるとのことです。
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