光が光をさえぎって影を形成できることが実験で確かめられる
光は通常、お互いをすり抜けていきます。例えば、教室で2本の懐中電灯の光を交差させても、光は質量を持たないので、それぞれの光は影響を受けることなく進んでいきます。そのため、光に対して光は影を作りません。しかし、オタワ大学の研究チームは、特殊な条件下でレーザービームが影を作り出すことに成功したと発表しました。
Shadow of a laser beam
https://opg.optica.org/optica/fulltext.cfm?uri=optica-11-11-1549&id=563468
uOttawa physicists make laser cast a shadow | About us
https://www.uottawa.ca/about-us/news-all/uottawa-physicists-make-laser-cast-shadow
研究チームは、532nmの波長を持つ緑色のレーザービームを、12.0±0.5mmの辺長を持つルビー結晶に通しました。このビームは、光と物質の相互作用を最大化するため、断面が楕円形になるように設計されています。そして、研究チームはこの緑色のレーザービームに対して横から、450nmの青色光を照射しました。
その結果、肉眼で見える影が形成され、通常の物体が作る影と同じような振る舞いを示すことが確認されました。以下の写真を見ると分かる通り、青い光の中にレーザービームの影が黒い筋となって現れています。
緑色のレーザーが当たると、ルビー結晶に含まれるクロム原子は光のエネルギーを吸収して「励起状態」になります。この励起状態の原子はすぐにエネルギーを少し失い、「中間状態」と呼ばれる特別な状態に変化します。この中間状態にあるクロム原子は、通常の状態の原子と比べて青い光を吸収しやすい性質を持っています。そのため、緑色レーザーが通った場所では、クロム原子が中間状態となって青い光を吸収しやすくなり、その部分だけが暗く見える、つまり影として観察されるという仕組みです。
研究チームは影のコントラストを予測する理論モデルを開発し、実験データとおおむね一致することを確認しました。緑色レーザーの出力を上げると影の濃さは比例して増加し、最大で22%のコントラストを達成しました。これは晴れた日の木の影と同程度の濃さだとのこと。
研究チームは、この効果がアレクサンドライトなど他の材料でも観察される可能性を示唆しており、「この発見は、光スイッチング、光の透過率制御、リソグラフィーなどの応用分野での活用が期待されています。これは影の定義を再考させる画期的な発見であり、光と物質の相互作用に関する新たな理解をもたらします」と述べています。
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