1990年代のゲームで多用された「ジャングル」とはどんな音楽ジャンルなのか?
初代PlayStationやNINTENDO64などのゲーム機が流行した1990年代のゲーム音楽に大きな影響をおよぼした「ジャングルミュージック」について、ゲーム開発者のグスタボ・ペッツィさんが解説しています。
Pikuma: The Impact of Jungle Music in 90s Video Game Development
https://pikuma.com/blog/jungle-music-video-game-drum-bass
1994年11月にセガがセガサターン、同年12月にソニーがPlayStation、1996年6月に任天堂がNINTENDO64をリリースしたことで、1990年代後半に家庭用ゲーム機では3Dゲームが席巻するようになりました。この世代のゲーム機はゲームグラフィックスを再定義しただけでなく、「新しいスタイルの音楽を世界中に広めるきっかけにもなった」とペッツィさんは主張しています。
「ジャングル」は1980年代後半にイギリスで生まれた音楽ジャンルで、「エネルギッシュなドラムパターン」「味わい深いベースライン」「ハイテンポ」といった要素を併せ持ちます。ジャングルが持つこれらの要素が、1990年代に漂っていた「未来への期待感」とマッチしたため、3Dゲームが続々と登場した1990年代のゲームにおいてジャングルが多用されるようになったとペッツィさんは推測しています。
そもそも、1950年代から1960年代にかけてはドラムやベース、アコースティックピアノ、トランペット、サックスなどを使用したジャズの全盛期で、1970年代から1980年代までは、レコーディングやライブコンサートで使用される楽器の大半がオーガニックなものでした。
その後、ロックンロールやシカゴブルースといったジャンルの音楽が流行したことで、音を出したり増幅したりゆがませたりするのに電気を使用するエレクトロニックミュージックが注目を集めるようになります。
エレキギターやトーンホイールオルガン、電子ピアノなど、今では当たり前となった電子楽器を使用するのがエレクトロニックミュージックです。
1980年代になり、音楽制作に使用されるデジタル機器は爆発的に増加。シンセサイザーは1980年代の音楽の代表的な楽器となり、シーケンサーやドラムマシンなどのソフトウェアベースの楽器も世界中で使用されるようになり、コンピューターは音楽の作成・録音・編集に広く使用されるようになります。これがエレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)の誕生にもつながります。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、マルチメディア機能を備えた家庭用コンピューターが登場。これにより、コンピューターを持っていれば誰でも音楽を作成できるようになりました。大手音楽レーベルが高品質のアルバムを製作できるようになったというだけでなく、独立系のアーティストが、即席のデジタルホームスタジオで音楽を作成できるようになったという意味で、音楽業界にとっては大きな革命でした。
エレクトロニックミュージックは特にアメリカ・イギリス・ドイツといったテクノロジーへのアクセスが容易な国で流行。さまざまなジャンルが人気を集めるようになり、世界中の様々な地域へと波及していきました。
当時の音楽プロデューサーの中には、さまざまなブレイクパターンとトラックに取り入れることに挑戦する人もいました。人気のテクニックのひとつがサンプラーを使用して既存の曲の一部を分離して録音し、それを使って新しい楽曲を作成するという行為でした。
これを応用して、既存の曲からドラムだけを分離し、新しいブレイクパターンを作りはじめたのが「ジャングル」という音楽ジャンルの起こりだと言われており、創始者としてはイギリスのミュージシャンであるFabioとGrooveriderの名前が挙げられるそうです。
なお、この音楽ジャンルを説明するために初めて「ジャングル」という言葉を使ったのは、アーティストのGoldieです。FabioとGrooveriderは、どちらもR&Bやファンクの楽曲を、テクノやハウスといったトラックテンポの速いビートとミックスすることで、ジャングルの楽曲を生み出しています。
ジャングルという音楽ジャンルの歴史上、恐らく最も人気のあるサンプル楽曲が「Amen Brother」です。Amen Brotherからサンプリングしたドラムブレイクは「Amen break」と呼ばれています。
Amen Brother - YouTube
ジャングル黎明期において、音楽プロデューサーはコモドールのAmigaやAtari STといったコンピューターを使用して楽曲を制作していました。また、トラッカーとしてはAmigaのOctaMEDが人気を博していたそうです。
Atari STユーザーはCubaseというMIDIシーケンサーを利用し、MIDI経由でサンプラーやシンセサイザーをコンピューターに接続して、Steinbergの高度な機能を使用してトラックをシーケンスしていました。
ジャングルの代表曲として挙げられるのが、Andy CとAnt Milesが1992年に制作した「Valley of the Shadows」。なお、「Valley of the Shadows」で使用されているドラム・ベース・キーボード・ボーカルは、1980年代後半に放送されたBBCの科学ドキュメンタリー「Q.E.D.」の臨死体験回をサンプリングしたものです。
Origin Unknown - Valley Of The Shadows ᴴᴰ - YouTube
ジャングルはジャマイカ文化と深く結びついています。第二次世界大戦後、カリブ海諸国から仕事を求めてイギリスに移住してくる移民が大量に発生しました。海を渡ってきたジャマイカ人たちは、自分たちが属するコミュニティにゆっくりとジャマイカ文化を浸透させていきます。このジャマイカ文化には食べ物、衣服、言語、音楽などが含まれます。
エレクトロニックミュージックが流行した当時のイギリスのレイブシーンは、ジャマイカのDJやMCがスカ、ダンスホール、レゲエなどの音楽を演奏する社交の場によく似ているそうです。ジャマイカライクなレイブシーンがイギリスで流行したことで、ジャマイカ文化はイギリスの音楽シーンにとっても重要なものとなり、イギリスで生まれたジャングルなどの音楽ジャンルに多大な影響を与えることとなります。特に、ジャングル黎明期には、ジャマイカ音楽のサンプルが非常に一般的だったそうです。
ジャングルやEDMといった音楽ジャンルは、1990年代に開発されたテンポの速いゲームにピッタリでした。ジャングルをサウンドトラックとして採用したタイトルのほとんどが1990年代後半に登場したゲームですが、2000年代半ばまでジャングルがゲーム音楽として使用されることがありました。
PlayStationやNINTENDO64のゲームでは、ジャングルのさまざまなサブジャンルが利用されており、アトモスフェリックな環境音楽は未来的または宇宙的なスタイルのゲームで多用され、メニュー画面ではジャジーな落ち着いたトラックが活用され、緊張感が求められるような場面ではよりカオスでハイテンポなトラックが採用されています。
PlayStationの場合、ジャングルが多用されるきっかけとなったのは、「イギリスのゲーム会社であるPsygnosisがソニーに買収された」ためです。ソニーはPlayStationの発売を前に、「使いやすいソフトウェア開発キット(SDK)」と「PlayStation向けのゲーム開発を支援するための有能な開発者集団」という2つの要素が必要であることを認識していました。そこで、ソニーはPsygnosisを買収し、PlayStation向けのSDKを開発させます。
さらに、Psygnosisは1995年に発売されたレースゲーム「ワイプアウト」の開発も担当。ワイプアウトは当時としてはユニークな「未来的な設定」を持っており、エレクトロニックミュージックやレイブシーンとの相性が非常に高かったそうです。ワイプアウトの開発時期にEDM人気が高まっていたこともあり、Psygnosisの開発陣はゲームのサウンドにジャングルを採用。これがジャングルという音楽ジャンルの流行にも一役買ったとペッツィさんは記しています。
他にも、1996年にナムコから発売されたレースゲーム「レイジレーサー」でも、ジャングルが採用されています。なお、レイジレーサーの楽曲を制作したのは、中西哲一さんです。
Rage Racer Soundtrack - #8 - Silver Stream - YouTube
この他、ジャングルに分類されるゲーム音楽を採用したタイトルとして、「風のクロノア door to phantomile」「グランツーリスモ」「エースコンバット」「F1 Racing Championship」「サムライスピリッツ」「サルゲッチュ」「ボンバーマン」「テン・エイティ スノーボーディング」「セガマリンフィッシング」「マジカルテトリスチャレンジ」などが挙げられています。
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