サイエンス

音楽には脳細胞を修復し認知症の進行を遅らせる力がある


音楽には気分を高めたり、穏やかな睡眠へといざなったりする効果があるため、日常生活の中でよく音楽を聴くという人は多いはず。医療現場でも、音楽を通じて認知症や記憶障害のある高齢者の認知機能を改善させる音楽療法が行われているとのことで、そのメカニズムや効果について専門家が論じました。

Music and dementia: researchers are still making discoveries about how songs can help sufferers
https://theconversation.com/music-and-dementia-researchers-are-still-making-discoveries-about-how-songs-can-help-sufferers-239446

2012年に行われたフィンランドの研究では、感情や記憶を処理する「大脳辺縁系」、知覚や学習などに関与する「認知領域」、随意運動をつかさどる「運動領域」など、脳のさまざまな領域が音楽の処理を担っていることが判明しました。これは、音楽は脳の狭い領域で処理されているという当時の先入観を変え、音楽がなぜこれほどユニークな神経学的影響をもたらすのかを解明する助けとなりました。

それから行われた多くの研究により、音楽は脳とその接続の再生を助けることがわかってきています。脳の細胞と神経接続を修復したり強化したりする音楽のはたらきは、特に脳の細胞死を主な原因とする認知症の人にとって重要です。


イギリスのアングリア・ラスキン大学で音楽療法を研究しているミン・フン・シュー氏とレベッカ・アトキンソン氏によると、どんな音楽でも脳を再生させてくれるわけではないとのこと。

聴く人の気分に最も大きな影響を与えるのは、なじみのあるお気に入りの曲で、これは好きな音楽を聴くと快感を与えるホルモンが分泌されることに由来しています。


このメカニズムは、アルツハイマー病やその他の認知症にも関係があります。アルツハイマー型認知症の患者に好みの音楽を聴かせた2018年の研究では、音楽の記憶に関係する脳の部分は、他の脳の領域よりも認知症の影響を受けにくいことが突き止められました。多くの記憶を失った認知症の人でも、好きだった曲だけは覚えていることがよくあるのが、この研究結果を裏付けています。

音楽がもたらす効果は、夕方から夜にかけて認知症の高齢者の不安や混乱、攻撃的行動などが悪化する「夕暮れ症候群」への対処にも役立てられています。


さらに、ミン氏とケンブリッジ音楽療法研究所の研究者らが行った2024年の研究により、認知症の人が自分の好きな音楽を繰り返し聴くと、心拍数や動作が直接反応して変化することがわかりました。これにより、リズムや編曲といった音楽の要素が、人の身体的反応に影響を与えることが示されました。

また、音楽に合わせて歌ったり、曲を聴きながら思い出や物語に思いをはせたり、音楽について考えたりしたときにも、心拍数が変化しました。これらの変化は、音楽が運動や感情、記憶を想起させる上でどのような影響を与えるかを示すものとして重要だと、ミン氏らは指摘しています。


認知症患者をサポートするための音楽トレーニングプログラムに関する試験も始まっており、運動をするだけの人より問題解決や感情調節、注意力といった「実行機能」の改善が見られるなど、有望な結果が得られています。

こうした知見について、ミン氏らは「今後も、音楽が認知症患者にとって有用な医療行為であり続ける可能性は高いでしょう。その際には、患者自身が聴く音楽を選ぶことや、認知症の進行を遅らせたり症状をコントロールしたりするセルフケアや、健康をサポートする薬の服用など、他の療法と併用することが重要です」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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