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ピクサー映画「ウォーリー」で使用されているフォントから隠されたデザイン上のこだわりや時代背景を読み取る


2008年に公開されたピクサーの3DCG映画である「WALL·E(ウォーリー)」では、作中にさまざまなフォントが登場します。ウォーリーで使用されているフォントから、作中に隠されたデザインのこだわりや時代背景を、SF映画で使われているフォント情報をまとめるTypeset In The Futureが分析しています。

WALL·E | Typeset In The Future
https://typesetinthefuture.com/2018/12/04/walle/


ウォーリーの舞台となるのは、人間により汚染し尽くされた地球と、人類が地球を飛び出して暮らすようになった宇宙船・アクシオムです。地球でゴミ処理ロボットとして活躍する主人公のウォーリーは、アクシオムからやってきたロボットのEVE(イブ)を追いかけ、地球から飛び出して宇宙を冒険することとなります。

ウォーリー/予告編|ディズニープラス - YouTube


主人公・ウォーリーの名前は「WALL·E」です。名前に使われている記号は「-」(ハイフン)でも「・」(中黒)でもなく「·」(句読点)です。ウォーリーの名前は本体正面のプレート部分に以下のように記載されています。


この句読点はもともとラテン語や古代ギリシャ語で、単語と単語を区切るために使われていたものです。この句読点が登場してから何世紀も経ってから、スペース(空白)が発明された模様。句読点は記事作成時点でも使用されており、イギリスの通貨の公式小数点や、数学における2つのベクトルのドット積を表すのに使用されています。また、日本では役職名と名前を区切るために句読点が使用されるとTypeset In The Futureは紹介しています。(例:課長補佐·鈴木)

ウォーリーの正式名称は「Waste Allocation Load Lifter·Earth Class(WALL·E:廃棄物処理ロードリフター·地球クラス)」であるため、WALLとEを区切るために句読点を使用しているのは使用方法としては完璧であるとTypeset In The Futureは指摘しています。


ウォーリーの正面プレートに記されている「WALL·E」に使用されているのは、SF作品で使用されるフォントの数々を作成してきた、Dan Zadorozn氏がデザインした「Gunship」というフォントです。Zadorozn氏の個人サイトであるIconian Fonts上には、600種類を超える無料のフォントが掲載されており、多くのSF作品や書籍に使用されています。

以下はGunshipの小文字(上)と大文字(下)。


Gunshipはウォーリーの正面プレート以外にも、作中に登場する大企業「BNL」の所有する宇宙船・アクシオム内の看板や建物でも使用されています。

BNLのロゴはFutura Extra Bold Obliqueを過度にイタリック体にしたもの。映画の冒頭に登場するBNL「BUY N LARGE BANK」のロゴの、特徴的な大文字のGからこのフォントを利用していることがわかったそうです。


以下がFutura Extra Bold Oblique。


なお、Futura Extra Bold Obliqueを使って企業ロゴを作成している会社もあり、一例として、コストコ(Costco Wholesale)が挙げられています。BNLはコストコのロゴを模倣して赤と青の配色を採用しています。


作中、BNLの子会社である「Eggman Movers」のボロボロの看板が見られます。


Eggman Moversはウォーリーの制作デザイナーを務めたRalph Eggleston氏が仕込んだイースターエッグで、1995年に公開された映画「トイ・ストーリー」に登場する引っ越し業者と同じ名前です。


BNLが銀行を運営しているということは、BNLが発行する紙幣も存在します。BNLの紙幣は「1000万ドル」や「9900万ドル」など非常に高額な紙幣ばかり。「9900万ドル」という紙幣がある理由は、古典的な価格設定における心理的トリックをBNLが採用し続けており、そういったものを購入する際にわざわざおつりを受け取らなくて済むように「9900万ドル」という中途半端な紙幣が用意されていることを表しています。これについて、Typeset In The Futureは「これはBNLによる消費主義に対するアプローチをよく表している」と記しました。


現実世界においてもハイパーインフレにより1枚の紙幣が非常に高額になることがあります。ウォーリーがアメリカで公開されたのは2008年6月のことですが、その数か月後の2008年11月、インフレによりジンバブエでは1ドル当たり26億2198万4228ジンバブエドルを記録。その後、ジンバブエ準備銀行は100兆ドル紙幣を発行しているため、ウォーリーの世界よりも高額な紙幣が現実に存在したこととなります。


ウォーリーの世界ではBNLが運行するモノレールもあります。ウォーリーの世界に登場するモノレールはスウェーデンの起業家であるアクセル・ヴェナー=グレン氏が普及させた、ALWEGという形式のモノレールで、これはピクサーの親会社であるディズニーと非常にゆかりのある乗り物です。


ディズニーの創業者であるウォルト・ディズニーは、ALWEG式モノレールのプロトタイプを実際に見ており、1959年6月にはアメリカのカリフォルニア州にあるディズニーランドでモノレールを開設。その後も世界中のディズニーランドでモノレールを運行しており、東京ディズニーランドにもディズニーリゾートラインというモノレールが走っています。

【公式】夢に向かって出発進行|ディズニーリゾートライン/Disney Resort Line - YouTube


ウォーリーが地球のどこで暮らしていたのか、詳細は不明です。しかし、ウォーリーの生活圏にはモノレールが存在しており、その近くには以下のような円盤状の建物が見えます。


「これはワシントン州シアトルにあるスペースニードルを強く想起させる」とTypeset In The Futureは記しています。スペースニードルは、記事作成時点でも運行されているALWEG式のモノレールと共に1962年に建てられました。


モノレールの近くには「ウォーリー:あなたを掘り出すために働いています!」と書かれた看板を発見します。このポスターについて、Typeset In The Futureは「このポスターには明らかに共産主義のプロパガンダのニュアンスがあり、様式化されたウォーリーの軍隊が協力して明るい未来を築く様子が描かれています。共産主義の価値観が何十年にもわたる消費主義の蔓延(まんえん)に対する解決策であるという点は、映画のわずか4分までに示されるものとしてはかなり大胆な政治的声明です」と記しています。


これは社会主義リアリズムと呼ばれる表現方法で、共産主義のプロパガンダで頻繁に使用される表現です。

中国共産党が作成したプロパガンダポスター


ソビエト連邦が作成した共産主義のプロパガンダポスター


北朝鮮が作成したプロパガンダポスターなどでも採用されています。


2014年に公開が禁止されたコメディア映画「ザ・インタビュー」の宣伝ポスターでもこの表現が採用されました。ザ・インタビューは、北朝鮮を訪れ、同国の指導者である金正恩氏にインタビューするという内容です。


ウォーリーのプロパガンダポスターで使用されているフォントは1965年にDonald J. Handel氏が作成した「Handel Gothic」というフォントです。


Handel Gothicは他にもさまざまな場所に使用されています。


なお、Handel Gothicは1982年にオープンしたフロリダのウォルトディズニーワールドのEPCOTセンターのロゴにも採用されています。


他にも、Typeset In The Futureは映画ウォーリーで登場するフォントからさまざまなデザインや時代背景などを考察しています。

Typeset In The Futureはウォーリー以外にもさまざまなSF作品をフォントをベースに考察しており、考察の数々をまとめた書籍も出版しています。

SF映画のタイポグラフィとデザイン | デイヴ・アディ, 篠儀直子 |本 | 通販 | Amazon


なお、ウォーリーはAmazon.co.jpでBlu-ray版が税込4980円で販売されています。

Amazon.co.jp: ウォーリー [Blu-ray] : ディズニー: DVD

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in 動画,   映画,   デザイン, Posted by logu_ii

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