約80億円にも上るアメリカ史上最大級の横領事件を起こした財務官が逮捕された結果とは?
1990年から22年以上にわたりイリノイ州ディクソン市の予算を約5370万ドル(約80億円)横領した罪で2012年に逮捕された、当時ディクソン市の財務官を務めていたリタ・クルンドウェル氏の裁判の様子と、その後のディクソン市について海外メディアのPOLITICOが解説しています。
She Stole $54 Million From Her Town. Then Something Unexpected Happened. - POLITICO
https://www.politico.com/news/magazine/2023/05/12/dixon-illinois-city-fraud-betrayal-00075869
クルンドウェル氏は1990年に市の口座に見せかけた秘密の銀行口座を開設し、偽の請求書を作成することで自身の口座に市の予算を振り込む手口の横領を、行為が発覚し逮捕される2012年まで続けていました。
ディクソン市の財務状況は、クルンドウェル氏が横領を始めた1990年から2011年後半まで、毎年の独立監査やイリノイ州による監査審査を合格していただけでなく、市の口座を取り扱う銀行も何らおかしい点がないことを認めていました。
しかし、クルンドウェル氏が横領を行っていた最中のディクソン市の財政状況はひっ迫しており、救急車の故障や歩道の崩壊、施設の損傷などが発生していたにもかかわらず、設備投資への予算が不足していました。また、市のサービスへの厳しい予算制限や職員の解雇も続いていたとのこと。
クルンドウェル氏は2012年から行われた裁判で自身の罪を認め、2013年2月に裁判官はクルンドウェル氏に対し懲役19年7カ月の有罪判決を言い渡しました。
クルンドウェル氏の逮捕と有罪判決に伴って、ディクソン市の連邦保安官は、クルンドウェル氏が横領した市の予算で購入した5つの不動産や数十個のカウボーイハット、25万ドル(約3760万円)相当の宝石、約400頭の競走馬、9万8500ドル(約1480万円)相当の競走馬の遺伝子などを競売にかけ、その結果約1000万ドル(約15億円)を取り戻すことに成功。また、関係する監査官と銀行から約3000万ドル(約45億円)もの訴訟和解金を入手しています。以下はクルンドウェル氏が市の予算で購入したとされる資産の一例です。
クルンドウェル氏が横領した額に対し、市が取り戻せた額は一部ですが、ディクソン市では、取り戻した予算を用いて公共図書館や配管設備、道路の改修などが行われ、市民の信頼を取り戻すことに努めています。
ディクソン市の商工会議所で働くマシュー・レノックス氏は「クルンドウェル氏の逮捕に伴って、ディクソン市ではルネサンスのような運動が始まりました」と語っています。
クルンドウェル氏による約22年間の横領が発覚しなかった要因として、POLITICOは、ディクソン市が行政と立法の機能を市政委員会に統合し、条例の可決や市の各部門の運営を行わせる「委員会型の政府」であったことを挙げています。
この構造には、委員会型政府を採用していない他の都市では一般的に制度化されている「チェック・アンド・バランス」が欠けていたことなど、問題が発生していました。
クルンドウェル氏はこの構造を悪用し、ディクソン市における小切手や預金、財務諸表、資金の流れを掌握。他の職員には理解できないような市の簿記システムを設計していました。
作家で会計学教授のケリー・リッチモンド・ポープ氏は、クルンドウェル氏による横領の発覚が遅れた要因について「監査は不正を見つけるためのものではなく、市の経営陣が提供する財務諸表が、経営陣の申告する行為を正確に反映しているかどうかを調査するものです。今回の『経営陣』とは、他ならぬクルンドウェル氏であったため、監査に合格するための特別な調整をおこなっていた可能性があります」と指摘しています。
記事作成時点でディクソン市のダニー・ラングロス市長は「クルンドウェル氏による横領で、ディクソン市は大きな傷を負いました。しかし、ディクソン市のコミュニティはこれを乗り越えつつあります」と語りました。実際にクルンドウェル氏の逮捕以降、ディクソン市では旧来の政治形態を撤廃し、市議会の解体や、市長が適切に権力を握る形式を取っています。
なお、クルンドウェル氏は2021年に新型コロナウイルス感染症の流行に伴う特別法に基づき、釈放され、ディクソン市に戻ったとされています。
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