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物語に登場する「狼男」の歴史とは?


ファンタジー作品やゲームなどで知られる「狼(オオカミ)男」ないし「人狼」がどのように描かれてきたかという歴史について、アニメーションによる解説動画を投稿するYouTubeチャンネルのTED-Edが解説しています。

The dark history of werewolves - Craig Thomson - YouTube


1589年にドイツのベッドブルクという町で、殺人や暴行、そして人肉を食べた罪など、複数の重い罪状でピーター・スタッブという男性の大々的な裁判が行われました。裁判の中で、男性は悪魔が魔法で自分を「狼男」に変えたために、オオカミに変身して恐ろしい行為をしてしまったのだと主張しました。


この裁判は実際に起きた「ベッドブルクの狼男」として伝えられていますが、狼男が登場する物語はこれよりずっと前から存在しています。狼男の物語はヨーロッパの文学や民間伝承によく見られるほか、とりわけ家畜や農作物の被害でオオカミが天敵である文化で多く語られます。


狼男のイメージは変化し続け、大抵の場合は当時の恐怖や偏見を反映しています。初期の物語では、思いがけず狼男に変身してしまい、元の姿に戻ろうと切望する呪いの犠牲者として同情的に描かれることが多かったそうです。


世界最古の物語作品として知られるギルガメシュ叙事詩にも狼男が登場します。愛の女神であるイシュタルに恋をした羊飼いは、イシュタルが羊飼いの愛に飽きたためにオオカミに変えられてしまいます。同様に、初期の物語では、狼男は魅惑的だがあくどい性格をした女性の餌食になった男性であることが多くなっていました。


また、12世紀に書かれた「ビスクラブレット」という狼男の物語は、妻の悪巧みによってオオカミの姿になってしまった騎士が、それでも高潔な精神で王に仕えながらも妻や妻と駆け落ちした別の騎士に強い憎しみを抱く姿が描かれています。


初期の狼男の物語にあった他の傾向としては、人食いや殺人などのタブーを含む、人間の本性の暗い側面に対する恐怖の象徴として狼男が用いられています。古代ギリシャ神話では、アルカディアの王様であるリュカオンは神をダマして人肉を食べさせようとした結果、ゼウスによってオオカミに変えられてしまいます。


キリスト教がヨーロッパ全土に広がるにつれて、狼男のイメージは魔法や魔術、異教信仰とより強く結び付いていきました。中世末期のヨーロッパではキリスト教社会の破壊を企てる「魔女」の概念が広まり、大規模な魔女狩りが横行しました。主なターゲットとなったのは女性でしたが、「ベッドブルクの狼男」のように、狼男とされる人物も魔女裁判にかけられて何人も処刑されています。一部の歴史家は、魔女裁判は部外者への恐怖と、残忍な犯罪を理解するための解釈として引き起こされた社会的通念だと考えています。


医学と心理学の発展に伴い、狼男に対する信仰は17世紀までに消え去りました。


しかし、狼男の実在を信じなくなっても、狼男の物語は消えませんでした。19世紀のヴィクトリア朝時代には、狼男のイメージはある程度変質し、道徳的ないし心理的な崩壊や恐怖を体現するものとして描かれることが多くなりました。


20世紀になって、狼男は文学の中だけではなく、新たな舞台として映画にも出現するようになりました。映画への登場に伴い、「狼男にかまれると呪いが伝染する」「満月を見るとオオカミもしくは狼男になる」といった現代的な特徴が描かれるようになりました。


「満月を見ると狼男に変身する」というイメージは、1935年の映画「倫敦の人狼」で広まったと知られています。この映画の中では、狼男の感染が現在の中国や中東エリアから発生したとなっており、これは「東アジアから北米やヨーロッパへの移民が、西側諸国の安定と権力を脅かす」という当時の排他主義的な恐怖を反映したものと考えられています。


狼男は「銀の弾丸」が弱点であるとされることが多くなっています。このイメージは、1941年の映画「狼男」で一般的に広がりました。この映画の脚本を担当したカート・シオドマク氏はユダヤ系の両親を持つドイツ生まれの作家であるため、「狼男」の物語はナチスの残虐行為のメタファーであると多くの学者は考察しています。


1950年以降の映画では、狼男は10代の若者が発症するものとして描かれるようになりました。ここでの狼男は若い男性の攻撃性や、思春期の不安の象徴として用いられています。


哀れな獣としてのオオカミから原初的な恐怖のイメージ、宗教的な象徴、社会的な差別や排斥の意識、思春期のメタファー、時にはフェミニズムの視点も取り入れるなど、さまざまに変化しながら狼男は生き続けています。

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in 動画, Posted by log1e_dh

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