サイエンス

水滴がほとんど摩擦なしで表面を滑り落ちる「超はっ水素材」が開発される


付着した水滴がまるで球のように表面で転がる現象である「はっ水」は、自動車のボディや傘などの雨具の防水性能の向上などに応用されています。フィンランド・アールト大学のサカリ・レピッコ氏らの研究チームが、従来のはっ水素材よりも水滴が付着しにくい、ほとんど摩擦なしで水滴が表面から滑り落ちる素材を開発しました。

Droplet slipperiness despite surface heterogeneity at molecular scale | Nature Chemistry
https://www.nature.com/articles/s41557-023-01346-3


Researchers create the most water-repellent s | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1005284


レピッコ氏らの研究チームは、特別に設計された装置を利用して、シリコン素材に対して「自己組織化単分子膜(SAM)」と呼ばれる、わずか分子1つ分という厚さの薄い層を共有結合させて表面に膜を形成しました。具体的には、「オクチルトリクロロシラン」という化学物質を蒸着装置を用いてシリコン素材に吹き付けることで、SAMの層を作り出すというものです。シリコン素材の表面に形成されたSAMの層は、シリコン表面と水滴の間で潤滑剤の役割を果たし、水滴をはじく性質を持つとのこと。

レピッコ氏は「私たちの研究は、分子的に不均一な表面をナノメートルレベルに作りだした初めての研究です」と主張しています。

研究チームはさらに、偏光解析装置を利用して膜の形成具合を詳細に観察しました。また、蒸着装置の温度や水分量、付着させる時間などの条件を調整して、形成される膜の被覆率を変化させました。その結果、付着させる時間を短くし、SAMの被覆率を低くすると、水滴が素材になじんで流れやすくなる親水性が高まることが判明しました。一方で長時間物質を付着させると、水滴が粒状になって転がり落ちやすくなることが明らかになりました。


レピッコ氏は「今回の実験結果は、SAMの被覆率が低いときでも高いときでも表面の水滴のすべりが強化されることを示しています。私たちは被覆率が低い場合、表面の摩擦があることで、水滴の滑りやすさにはそれほど変化が生まれないと考えていました。今回の実験結果はその直感に反するものでした」と述べています。

さらにレピッコ氏は今回の発見について「この技術はパイプ内の熱伝達や氷の除去、曇り止めに使われるだけでなく、小さな液滴をスムーズに動かす必要があるマイクロ流体工学や、付着した汚れを簡単に落とせるセルフクリーニング表面の作成にも役立つ可能性があります」と語り、「現状のSAMコーティングの主な問題点は、非常に薄く、物理的な接触ですぐにコーティングが剥がれてしまうことです。今後は耐久性を高めつつ実用化に向けた基礎的な研究を行っていく予定です」と報告しています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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