サイエンス

人はなぜ恐怖や不安を感じると心臓がドキドキしたり胃腸に不快感を覚えたりするのか?


人間の感情や思考を処理しているのは脳ですが、恐怖や不安などを感じると心臓がドキドキしたり胃がキリキリしたり、頭ではなく体に変化が生じることがよくあります。一体なぜ恐怖や不安が体に変化をもたらすのかについて、アメリカのウェイン州立大学で精神医学の准教授を務めるアラシュ・ジャバンバク氏が解説しています。

If anxiety is in my brain, why is my heart pounding? A psychiatrist explains the neuroscience and physiology of fear
https://theconversation.com/if-anxiety-is-in-my-brain-why-is-my-heart-pounding-a-psychiatrist-explains-the-neuroscience-and-physiology-of-fear-210871


「喉から心臓が飛び出そう」「胃がキリキリする」など、恐怖や不安を心臓や内臓に結びつける言葉は多くの文化で使われています。一方、科学においては伝統的に脳が恐怖や不安を処理する場所だと見なしており、一見するとこれらの言葉は正しくないように思えます。しかし、ジャバンバク氏は「研究によると、感情はあなたの脳に由来しますが、命令を実行するのはあなたの体であることがわかっています」と述べ、恐怖や不安は実際に身体的な反応を引き起こすと説明しています。

人間の脳は落石や捕食者の襲撃といった脅威から体を守るために進化してきましたが、現代社会における恐怖や不安は進化が起こっていた時代よりはるかに複雑です。たとえば、5万年前の社会では「部族から拒絶されること」はそのまま死を意味する可能性がありましたが、現代では職場や学校で大きなミスを犯したとしても、そのまま死んでしまう可能性はかなり低いといえます。しかし、脳はそれらの違いを認識するのが難しく、結果として精神的な恐怖や不安が身体的な反応を引き起こす可能性があるとのこと。


恐怖の処理に関与している脳領域にはいくつかありますが、中でも重要なのが感覚入力を中継する扁桃体です。扁桃体は耳の近くにある小さなアーモンド型の領域であり、「ライオンが迫ってきている」「自分に銃が向けられている」「集団に敵意を向けられている」といった脅威を検出する役割を持っています。

「ライオンがこちらに走ってくる」といった脅威に直面した際は、あれこれ考える個体よりも迅速に行動できる個体の方が生き残れる可能性が増します。そのため、扁桃体は論理的思考に関する脳領域をバイパスするように進化しており、身体的な反応を直接引き起こせるとのこと。実際に、コンピューター画面に「怒った人の顔」が映し出されると、それを見た人は対象をしっかり認識していなくても扁桃体が反応するとジャバンバク氏は述べています。


しかし、脅威に対して常に身体的反応が起きると大変であるため、扁桃体の近くにあり密接に接続されている海馬が「何が安全で何が危険か」について記憶しており、扁桃体の反応に介入する仕組みになっています。たとえば、動物園またはサバンナでライオンを見ると、どちらの状況でも扁桃体に恐怖反応が引き起こされます。しかし、動物園にいる時は海馬が「これは安全だ」と判断し、扁桃体の反応をブロックするそうです。

また、目の上にある前頭前野は恐怖の処理に関する社会的・認知的側面に関与しています。たとえば、ヘビを見かけた時に恐怖を覚えても、誰かに「あのヘビに毒はないよ」と教えられたり、そのヘビが誰かのおとなしいペットだとわかったりすれば恐怖が和らぎます。一方、これまで上司とニュートラルな感情で話せていたのに、同僚から「大規模なリストラがあるらしい」というウワサを聞くと上司と話す時に身構えてしまうことがあります。これらの反応は、前頭前野が認知や社会環境について恐怖を調節しているためだとのこと。


脳が恐怖反応を正当化した場合、ニューロンとホルモンの経路が活性化されて、戦うか逃げるか反応によって体が即時の行動に備えます。中には注意力の向上や脅威の検出など脳内で発生する反応もありますが、反応のほとんどは脳以外の器官で生じます。

いくつかの反応は激しい身体活動に備えるためのものであり、脳の運動野は筋肉に信号を送って素早く力強い動きに備えさせます。信号が送られる筋肉には重要な臓器を保護する胸や腹の部位も含まれており、これらの筋肉が普段と異なる反応をするため、恐怖や不安を感じた時に心臓や胃腸が圧迫されたような気分になる可能性があるとのこと。

また、交感神経系は戦うか逃げるか反応をスピードアップするアクセルペダルようなもので、体の反応に重要な役割を果たしています。交感神経系は心臓や肺、腸といった場所に密集しており、アドレナリンなどのホルモン分泌をトリガーします。

交感神経系の働きによって、心臓では筋肉に十分な血液を送るために心拍数と収縮強度が増し、「心臓がドキドキする」といった感覚を引き起こします。また、肺では酸素を確保するために気道を拡張したり呼吸数を増加させたりするため、時に息切れのような感覚をもたらすとのこと。そして、脅威から逃げる際には優先順位が下がる食物の消化は後回しにされるため、胃腸の不快感をもたらします。

これらの恐怖や不安に伴う身体的反応は最終的に脳へ伝えられるため、時に身体的感覚がより恐怖や不安を増幅させるループを作成してしまうケースもあるそうです。ジャバンバク氏は、「恐怖や不安の感情は脳から始まりますが、脳が身体機能を変化させるため体でも感じられます」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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