ひとりごとを言ってしまうのは普通のことなのか、ひとりごとを言うことによる利点は?
考え事をしているときや退屈しているときなど、ついついひとりごとを発してしまう人は多いはず。ひとりごとが多い人は変な人だと思われたり、何らかの病気かもしれないと心配されたりすることもありますが、ひとりごとにはどういう意味があり、どういう利点があるのかということを、教育系YouTubeチャンネルのTED-Edがアニメーションで解説しています。
Is it normal to talk to yourself? - YouTube
うるさい目覚まし時計に文句を言うとき、朝の身だしなみを整えながら何かをつぶやくとき、出かける直前になって鍵が見つからず嘆くときなど、自分以外には誰も聞いていないのに何か言葉を発してしまうことが多くあります。
ひとりごとを言っているのを偶然誰かに聞かれてしまって、恥ずかしい思いをしたような経験は誰もがあるはず。
自分が恥ずかしい思いをするだけではなく、周りの人からは、「ひとりごとを言っている人」は「精神が不安定な人」のように見られてしまうことがあります。
しかし、数十年にわたる心理学の研究により、ひとりごとを言うのはまったく普通のことであるということが明らかになっています。ひとりごとはセルフトークもしくはインナースピーチとも呼ばれ、自分自身または人生のある側面に向けて思考を言語化しているものだと考えられています。
心理学者によると、子どもたちは遊びながら大声でひとりごとを言うことが多いため、ほとんどの人がひとりごとを初めて経験した記憶は、「子どもの頃に、考えていることを声に出していた」ものであると認識しているそうです。1930年代にロシアの心理学者であるレフ・ヴィゴツキー氏は、幼少期に考えていることを声に出すという経験は発達の鍵になり、そのひとりごとを踏まえて大人とコミュニケーションをとることで、子どもが自分の行動や感情を自分でコントロールできるようになると仮説を立てました。
また、成長するにつれて、このような「ひとりごととのコミュニケーション」という形式は内面化され、プライベートな「内なる対話」へと変化する傾向があるとヴィゴツキー氏は主張しています。
内なる対話としてのひとりごとは、計画を立てて困難な状況に対処したり、自分のモチベーションを上げたりといった活用をすることができます。しかし、ひとりごとは自発的かつ無意識的に行われるため、明確に追跡して研究することが難しくなっています。
そのため研究者たちは、ひとりごとに関する研究では「なぜ一部の人は他の人よりもひとりごとを多く言うのか?」「ひとりごとを言っている際には脳のどの部分が活性化しているのか?」「ひとりごとによる脳の活性化は、他人との会話で起きる活性化とどう違うのか?」などの研究を進めているそうです。
研究で明らかになっている部分は多くありませんが、私たちは感覚的に、「他人との会話では自身のモチベーションやパフォーマンスに大きな影響を与える可能性があるが、ひとりごとによって集中力や自尊心が高まる」ということを理解しています。
例えば、スポーツに取り組む際に、「集中、集中!」とひとりごとを唱えることで集中力を高めるようなケースがあります。実際に、大学のテニス選手を対象とした研究では、練習にスポーツの指導に合わせたひとりごとを組み込むことで、集中力やパフォーマンスの精度が高まることが示されています。
さらに、遠隔セルフトーク(非1人称セルフトーク)というテクニックがあります。遠隔セルフトークとはまるで他人と会話しているかのようにひとりごとを言うことを指し、例えば難しい試験に臨む際に、「この試験を倒してやる」ではなく「この試験の準備はできているよね」というように話しかけるようなものです。
研究によると、この種の遠隔セルフトークは、新しい人に会うときや人前で話すときなど、不安を引き起こす作業に取り組む際に、ストレスを軽減しやすいということが分かっています。
しかし、ポジティブなひとりごとが自身を助ける一方で、ネガティブなひとりごとは自身を傷つける可能性があります。ネガティブなひとりごとが多いと不安を誘発するほか、自分の問題について自分を責めたり、自分の失敗を繰り返し反省したりする人は、憂鬱(ゆううつ)感をより強く経験してしまいます。
認知行動療法(CBT)と呼ばれる心理療法では、ひとりごとの口調を調整することに焦点を当て、ネガティブな思考のサイクルを特定し、それらを中立的もしくはより思いやりのある考察に置き換える戦略を教えることが多くあるそうです。ひとりごとをじっくりと時間をかけて活用することで、人の精神的健康を改善できると考えられています。
そのため、無意識にひとりとごを言っていたり自分自身と会話していたりすることに気づいた場合には、自分自身に対してより親切にすることを忘れないことが重要です。
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