サイエンス

米粒サイズで不要になったら体内で溶ける極小ペースメーカーが開発される

by John A. Rogers/Northwestern University

厚さ1ミリと注射器の先端に収まるほど小さく、体を切開して埋め込んだり除去したりする必要がないので、先天性の疾患を抱えた小さな子どもなどの患者の負担を最小限にすることが可能な極小サイズのペースメーカーが開発されたことを、アメリカ・ノースウェスタン大学などの研究チームが報告しました。

Millimetre-scale bioresorbable optoelectronic systems for electrotherapy | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08726-4

World’s smallest pacemaker is activated by li | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1078512

World's tiniest pacemaker is smaller than grain of rice
https://techxplore.com/news/2025-04-world-tiniest-pacemaker-smaller-grain.html

世界中で多くの人が永久ペースメーカーを体内に埋め込んでいるほか、手術後の心臓の心拍が正常に戻るまで一時的なペースメーカーを使用する人もいます。現行の一時的なペースメーカーには、ワイヤー接続された電極を患者の心臓に縫いつけ、不要になった後にそれを除去する体外式のものが用いられていますが、これが心臓の損傷や感染症などの合併症につながるリスクがあります。


ノースウェスタン大学の心臓学者であるイゴール・エフィモフ氏は「一時的なペースメーカーのワイヤーは文字通り体外に突き出ており、それが体外のペースメーカーに取り付けられています。ペースメーカーが不要になったら医師がワイヤーを引き抜きますが、ワイヤーが傷跡と癒着することがあるので、除去の際に心筋が傷つく可能性があります」と話しました。

例えば、「これはひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である」という言葉で有名な宇宙飛行士のニール・アームストロングも、一時的なペースメーカーのワイヤーが除去された後の内出血で2012年に死亡しています。


こうした問題を解決するため、ノースウェスタン大学のジョン・A・ロジャース氏やエフィモフ氏らの研究チームは2021年に、不要になったら体内に吸収される硬貨サイズの「生体吸収性ペースメーカー」を開発しました。

一定期間動作した後は体内で分解されるバッテリー不要のペースメーカーを研究者が開発 - GIGAZINE


そして、このペースメーカーのさらなる小型化に取り組んでいた研究チームは、2025年4月2日にNatureに掲載された新しい論文で、幅1.8ミリメートル×長さ3.5ミリメートル×厚さ1ミリメートルの米粒大のペースメーカーを開発したことを発表しました。

by Northwestern University

ワイヤレス給電をしていた以前のものとは異なり、新しい小型ペースメーカーには化学エネルギーを電気エネルギーに変換するガルバニ電池の一種が採用されており、ペースメーカーに搭載された2種類の金属がバッテリーと心臓にパルスを送る電極を兼ねています。

ロジャーズ氏は「ペースメーカーが体内に埋め込まれると、周囲の体液が導電性電解質として機能し、2枚の金属パッドを電気的に結合してバッテリーを形成します。そして、皮膚に取り付けられたパッチから発せられた光が、患者の体を透過してペースメーカーの光作動スイッチに当たると、デバイスの電源をオフからオンにすることができます」と説明しました。

心臓に埋め込まれたペースメーカーは、患者の胸部に装着する柔軟なパッチと連動しており、パッチが不整脈を検出すると自動的にライトを点滅させて、ペースメーカーにどの心拍を刺激すべきかを知らせる仕組みです。

by John A. Rogers/Northwestern University

ペースメーカーは非常に小さいので、心臓に分散設置したり、異なる波長の光を使って心臓の別々の領域を異なるリズムでペーシングしたり、他の医療機器と併用したりできます。また、必要がなくなったら体内で溶解するので、侵襲的な手術を行って機器を取り外す必要もありません。また、素材の種類や大きさを変えることで、体内で消えてなくなるまでの日数も正確に制御できます。

エフィモフ氏は、「私たちの主な動機は子どもたちの役に立つことでした。約1%の子どもが先天性の心疾患を持って生まれます。いいニュースは、これらの子どもたちは一時的なペースメーカーがあればいいということで、ほとんどの患者は術後7日には自然に回復します。しかし、その7日の間は絶対にペースメーカーが必要です。そして今、私たちはこの小さなペースメーカーを子どもの心臓に設置し、柔らかくて付け心地がいいウェアラブルデバイスで制御できます。そして、それを取り除くための追加の手術はもう必要ありません」と語っています。


研究チームによると、新しい米粒大のペースメーカーはマウス・ラット・ブタ・イヌの心臓を用いた動物モデルや、亡くなった臓器提供者の心臓を用いたヒトでのテストで有効性が実証されているとのこと。そのため、記事作成時点から2~3年以内には実用化にこぎ着けられる可能性があると、研究者らは予想しています。

ロジャーズ氏は「私たちが知る限り、世界最小のペースメーカーが開発できました。特に小児の心臓手術では、一時的なペースメーカーが極めて重要であり、そのようなユースケースでは機器の小型化が重視されます。身体への負荷という点で、デバイスは小さければ小さいほどいいのです」と話しました。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1l_ks

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