サイエンス

なぜ人間は笑うのか?笑うことにどのようなメリットがあるのか?


日常生活のふとした瞬間に生まれる「笑い」は非常に心地よいものであり、人生をより素晴らしいものにしてくれます。人間が笑う理由やその進化論的なメリットについてはさまざまな説が提唱されており、その中の1つについて科学系メディアのNautilusが解説しています。

Laughter and its role in the evolution of human social bonding | Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences
https://doi.org/10.1098/rstb.2021.0176

Why Is That Funny? - Nautilus
https://nautil.us/why-is-that-funny-243350/

Nautilusのライターであるブライアン・ギャラガー氏は小学生の頃、学校に遅刻してクラス全員の前で「今回はなぜ遅刻したのですか?」と先生に聞かれました。その際、とっさに笑顔を浮かべて「僕のワッフルが焼けるのが遅かったんですよ!」と言ったところ、先生を除くクラスメイトたちを笑わせることができたそうです。そして数十年後、エディンバラ大学で進化生態学教授を務めるジョナサン・シルバータウン氏の著書「The Comedy of Error: Why Evolution Made Us Laugh(なぜあの人のジョークは面白いのか?: 進化論で読み解くユーモアの科学)」を読んで、あの時はなぜクラスメイトを笑わせられたのかを改めて考えたとのこと。

笑いは呼吸のように自然で意図せず引き起こされる反応ですが、人間は数千年にわたり笑いとは何なのか、どうすれば他人を笑わせられるのかを追求してきました。シルバータウン氏は著書の中で、「ユーモアの本質の探究は、錬金術師による賢者の石の探求よりも古くから存在します」と述べています。

また、シルバータウン氏は「ユーモアを感じられる気分でなければ、何もあなたを笑わせることはできません。一方で、笑っている群衆の中にいると、ジョークを聞かなくても自分が笑っていることに気づくかもしれません」と述べ、笑いが自らの意思のみで引き起こされるものではないと主張しています。


ギャラガー氏本人は、小学生時代の自身が口にした「ワッフルが焼けるのが遅かったから」という言い訳が特に面白いものだとは思っておらず、他の人ならもっと面白い言い訳が思いつくだろうと考えています。しかし、シルバータウン氏が提唱する「人間が笑うのは反応の不調和と解消が理由である」という説に当てはめると、先生に叱られている時に意外な言い訳を口にするという状況が、クラスメイトを笑わせたのだと解釈できるとのこと。

シルバータウン氏が提唱する笑いの不調和仮説は、さまざまな種類の不調和や間違いが人々を笑わせるというものです。たとえば、かつてスウェーデンの心理学者であるGöran Nerhardt氏は以下のような実験を行いました。

・被験者に対し、「非常に軽い(0.74kg)」~「非常に思い(2.7kg)」まで6段階の重りを持たせて、それぞれの重量を覚えておくように指示する。
・次に持たせる重りがどの重量か当てるように指示する。
・これまでに持ったどの重りよりも圧倒的に軽い重りを持たせる。

この実験では、被験者は予想もしなかったほど軽い重りを持たされたことで、つい笑い出してしまうことが確認されました。このように、体験した出来事の不調和が笑いを引き起こすのだとシルバータウン氏は主張しています。

シルバータウン氏は、「ユーモアが進化する第一歩は、視覚・聴覚・触覚など、さまざまな感覚入力と予想を比較する一般的な精神能力から始まったのでしょう」と指摘。脳には生きていく上で欠かせない「予想との不調和」を見つけることに特化した領域があり、何か危険なものを予期したもののそれが安全であると判明した際、別の領域が「オチ」としてこの不調和を処理しているという仮説を提唱しています。


また、笑いの特徴として「多くの人々がよりたくさん笑うことを望んでおり、自分を笑わせてくれる人間を好む」という点が挙げられます。笑いを好む傾向があるということは、人間の進化において笑いが大きな影響を与えたことを示唆しています。この点についてオックスフォード大学の進化生物学者であるロビン・ダンバー氏が提唱しているのが、「笑いは動物のグルーミング(毛繕い)を音声に拡張したものではないか」という仮説です。

霊長類などの動物はお互いの体をグルーミングする手の動きによって脳のエンドルフィン系が刺激され、エンドルフィンの放出による緊張緩和が個体間の友情を生み出すとのこと。しかし、グルーミングはお互いの体に長時間触れるという物理的・時間的な制約があり、社会集団が大きくなるにつれてお互いをグルーミングする労力が膨大なものとなります。そこで、グルーミングの代替としてより効率的に機能するものが求められ、音声を用いた「笑い」が発達したのではないかというのがダンバー氏の主張です。

ダンバー氏はギャラガー氏とのインタビューで、「複数の個体を同時にグルーミングできるように、遠距離でグルーミングできるものが必要でした」と述べています。人間は集団で笑うことでエンドルフィン系がトリガーされ、集団内で同じ温かみとリラックス感が得られるとのこと。ダンバー氏は笑いの特徴の1つとして「社会的自発性」を挙げており、「他の誰かが笑っている時、自分も笑わないようにすることは非常に困難です」と述べています。なお、大型類人猿でも笑いは見られますが、類人猿の笑いは呼気と吸気の繰り返しである一方、人間の笑いは吸気せずに呼気を続けるという違いがあります。

ギャラガー氏は、小学生の頃に先生を笑わせたエピソードが数カ月経っても何度か友人間で話題に上り、そのたびに笑うことができたと述べています。このような笑いはシルバータウン氏の不調和仮説に反しているようにも思えますが、シルバータウン氏は「このような場合のジョークは絆を深め、楽しかった思い出の瞬間を再認識するための手段になっているのではないでしょうか。笑いは面白いことを聞いた時だけでなく、うれしいことがあった時にも起こるのです」と述べています。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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