北半球でよく見られるキノコが「1万7000以上の性別」を持っている可能性があると判明
by Urmas Ojango
人間を含む多くの動物は生物学的にオスとメスの2つの性別を持っているとされていますが、中には4つの性別を持つ鳥も存在するなど、自然界の性別は2つだけではありません。新たな研究では、北半球で一般的に生息しているキノコがなんと「1万7000以上の性別」を持っている可能性があると報告されています。
Large-scale fungal strain sequencing unravels the molecular diversity in mating loci maintained by long-term balancing selection | PLOS Genetics
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010097
This Fungus Has More Than 17,000 Sexes | The Scientist Magazine®
https://www.the-scientist.com/news-opinion/this-fungus-has-more-than-17-000-sexes-69930
自然界に存在する性別はオスとメスの2種類だけではなく、特にキノコやカビなどの真菌類には「数千~数万もの生物学的性別がある」という仮説もあったそうですが、非常に小さな真菌類の性別を調べることは非常に困難だったため真偽は明らかになっていませんでした。しかし近年では微生物のDNAシーケンシング技術が急速に進歩していることから、この種の研究が実行可能になりつつあるとのこと。
そこでノルウェー・オスロ大学の研究チームは、北半球の涼しい地域で一般的にみられるTrichaptum属(シハイタケ属)というキノコを対象に、どれほどの性別が存在するのかを確かめる実験を行いました。シハイタケ属は木や丸太に沿って板状に生えるキノコの一種であり、実験室で生育するのが比較的容易なため選ばれたそうです。オスロ大学の真菌生物学者であるInger Skrede氏は、「私はシハイタケ属はとてもきれいだと思いますが、あまり派手なキノコではありません」と述べています。
研究チームはシハイタケ属の3種のキノコについて、世界中から180個ものサンプルを収集し、各株から胞子を採取して寒天プレート上で培養。数週間ほど成長させた後にDNAを分析し、他の標本から成長した胞子とペアを作って交配できるかどうかを調べました。
by Urmas Ojango
過去の研究から、キノコの性別が「MATA」と「MATB」という2つのゲノム領域で制御されており、これらの領域に多くの対立遺伝子を有することが示唆されていたとのこと。研究チームは、MATAおよびMATBの中でもどの部分が性決定に重要であるかを正確に特定し、2つの領域における関連変異の数を調べました。その結果、シハイタケ属にはなんと1万7550もの対立遺伝子の組み合わせがあり、同じ数だけ性別も存在する可能性があると判明しました。
一体なぜキノコにこれほど多くの性別が存在するのかは不明ですが、論文の共著者であるオスロ大学の遺伝学者・David Peris氏は、キノコの「特定の場所にとどまって繁殖する」というライフスタイルと関係があるかもしれないと指摘しています。
たとえばキノコの性別がオスとメスだけだった場合、同じキノコが放出され、隣り合った胞子が同じ性別である可能性が高くなり、交配できない可能性が高まります。そのため、性別がたくさんあることにより隣り合った胞子と交配できる確率が高まり、種が生き残る上で有利になるとのこと。また、同じキノコから放出される胞子の遺伝的多様性があることにより、近親交配によるデメリットも避けやすくなるほか、多様な対立遺伝子があることで環境の変化に適合しやすくなります。
なお、今回の研究に関与していないオランダ・ワーゲニンゲン大学の進化生物学者であるDuur Aanen氏は、「これほど極端な多様性を持つメリットは何なのか?」という大きな疑問が残ると指摘。「対立遺伝子が100個あるだけでも、かなりの環境への適合性があります」「101個目の対立遺伝子を持つメリットは何なのでしょう?」と、Aanen氏は述べました。
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