運動には病気を予防する効果があるが治療する効果はない、一体なぜ?
「運動は健康に良い」というのはもはや常識で、運動を勧めるテレビ番組やキャッチコピーなどが世の中にあふれています。しかし、運動の「健康に良い」という効果はあくまで病気を未然に防ぐもので、ひとたび病気にかかってしまってから運動するとむしろ逆効果になるという点について、イギリスのノッティンガム・トレント大学で運動生理学を教えるジョン・ハフ氏が解説しています。
Exercising while sick won't help you get over a cold faster – but it may prevent your next one
https://theconversation.com/exercising-while-sick-wont-help-you-get-over-a-cold-faster-but-it-may-prevent-your-next-one-179803
運動は健康に良いことを示す研究結果は枚挙にいとまがないほど報告されており、特に目立った効能だけでも総死亡・虚血性心疾患・高血圧・糖尿病・肥満・骨粗鬆症・結腸がんなどの罹患(りかん)率・死亡率を低下させる効果やメンタルヘルス・生活の質(QOL)の改善効果が挙げられます。
健康面からみた 身体活動・運動の効用とその活用 - 2r9852000002q9k7.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002q9dz-att/2r9852000002q9k7.pdf
ハフ氏によると、運動には免疫システムを強化するという効能があり、それには複数のメカニズムが関係しているとのこと。例えば、運動時にはノルアドレナリンやアドレナリンなどのカテコールアミンというホルモンの分泌量が増加し、このカテコールアミンは体内のウイルスや病原体を検出する免疫細胞の産生を誘発します。そのほかにも、運動時には血流が増えるため、血流に乗って体内を循環する免疫細胞の移動速度が向上して免疫機能が効率化されたり、血流速度の増加によってストレスを受けた血管壁からナチュラルキラー細胞やT細胞という免疫細胞が放出されたりします。そのため、ハフ氏は「運動の免疫システム強化効果はこうしたメカニズムが同時に発揮された結果生まれると考えられます」と説明します。
運動の免疫システム強化効果がどの程度役立つのかというと、2000年に発表された研究では、運動習慣がなかった人が40~45分間のウォーキングを週5回のペースで続けたところ、風邪やインフルエンザなどの上気道感染症の症状が出ていると判定された日数が40~50%減少するという結果が得られています。
このように運動には病気を予防してくれる効果があるわけですが、病気にかかっている間に運動しても病気が早く治るわけではありません。ハフ氏によると、その原因は「運動が肉体にストレスをかけるせい」とのこと。運動が免疫細胞に必要な酸素やグルコースなどを使い果たしてしまった結果、免疫細胞の動きが鈍くなってしまうことから、ハフ氏は「運動が風邪を早く治してくれるという証拠は今のところ見つかっていません」とコメントしました。
ハフ氏は風邪にかかっているにもかかわらずどうしても運動したいという人に対して、風邪をうつさないようにスポーツジムを避けて自宅や屋外で運動するようすべきだとアドバイス。また、発熱・筋肉痛・嘔吐などの症状がある場合は運動を控えるよう勧めた上で、「風邪の治療には休息・水分補給・医薬品などが最適な場合もあります」とコメントしています。
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