高齢化が進むインドやアメリカは日本の高齢者ケアをお手本にすべしと専門家
高齢化する社会にどのように対処していくかという問題は、高齢化率が比較的高い日本のみならず世界的に注目されています。科学ジャーナルのNatureが日本とインドという高齢化率の高い国を参考に、高齢化社会の問題点などを論じています。
Tackling the crisis of care for older people: lessons from India and Japan
https://www.nature.com/articles/d41586-022-00074-x
急速に高齢化する社会でどのように予算を組み、支援を提供するのかということは、政治的に困難な問題です。例えば、2017年にテリーザ・メイ元首相が率いたイギリスの与党・保守党が過半数割れとなった原因について、イギリスのアナリストは「メイ元首相が提案した『認知症税』と呼ばれる社会的ケアの改革が原因」と分析しているほか、2021年9月に後継者であるボリス・ジョンソン首相が示した国民保険の税率を引き上げるという政策も批判を受けているとのこと。
さらに、世界中の介護施設で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による高齢者の死亡が増えていることから、社会的な介護システムが持つ1つの欠陥が浮き彫りになったとNatureは指摘。イギリスでは2050年までに人口の4分の1が65歳以上になり、アメリカでは今後40年で65歳以上の人口が1.8倍に。日本では今後20年足らずで人口の3分の1が65歳以上になるという予測を示し、高齢化していく社会にどのように対応すべきかを以下のように論じています。
高齢者への支援は政府によるものはもちろん、家族間でも行われてきたのがこれまでの通例でした。インドの人口統計学者で国際人口科学研究所(IIPS)の所長を務めるKuriath James氏は、「インドでの高齢者支援は家族間で行われており、老人ホームはまだ非常にまれです」と話します。インドの拡大家族は通常、互いに近くに住んでおり、同じスペースを共有したり、異なる階で住み分けていたりすることが多く、自宅で高齢者の世話をしやすくなっているとのこと。
しかし、世界最大の移民送り出し国であるインドでは、伝統的な家族間介護の担い手が急激に減少しつつあります。アメリカのPew Research Centerによると、海外で仕事を求めるインド人の数は1990年代初頭から2倍以上になり、2015年には1560万人に達しました。また、インド国内での移動も多くなっており、2001年の国勢調査では人口の30%が生まれた場所に住んでいないことが記録され、これは2011年には37%に増加。移住を行う人々は通常若い世代で、両親を生家に残すという選択を採っています。
2020年にIIPSなどによって作成されたインドの高齢者に関する報告では、若者の移住の問題が表面化しつつあることが示唆されています。この報告によると、インドの60歳以上の約26%は独居、もしくは配偶者のみと暮らしています。ただし、2022年時点では依然としてインドでは家族生活が比較的一般的であり、60歳以上の41%が配偶者と成人した子供たちの両方と一緒に暮らし、28%が配偶者なしで成人した子供たちと一緒に住んでいるとのこと。
このような在宅でのケアが多いことが示されているインドですが、在宅ケアにはコストがかかることも事実。James氏は「介護者は主に女性であり、女性は家の外で働くことができず、女性の勤労に関してインドでは深刻な問題があります」と話します。2020年後半、インドの都市部での性別雇用率は、男性が57%であったのに対して、女性はわずか16%でした。
国の労働力の多くが自宅で高齢者のケアに従事していることについて、Natureは「経済の深刻な足かせである」と指摘。James氏は「在宅ケアの満足度に関するデータはありませんが、社会が期待していることなので、在宅ケアの方が介護施設よりはるかに高く評価されると思います」と述べていますが、Natureは「男女平等の問題にもつながる」と指摘し、女性がキャリアの追求を犠牲にして在宅ケアを行う現状は成功しているとは言えないと述べています。その上でNatureは、女性が家庭にとどまって介護をする仕組みは、移住して働く人の増加やCOVID-19の影響の慢性化により変化を余儀なくされると結論しました。
Natureはさらに、65歳以上の人々が人口に占める割合が世界で最も高い日本についても言及しています。
日本はインドよりも国内移住率が低く、生まれた都道府県に住み続けない人は多くても20%。かつてはインド同様正規雇用で働く女性が比較的少ないという問題を抱えていましたが、「2000年には25歳から54歳までの日本の女性の67%が正規雇用に就いている」というデータもあるとのこと。
イギリスの健康シンクタンク・The Nuffield Trustの副局長を務めるナターシャ・カリー氏は「高齢者の支援について、イギリスは日本より20年は遅れています。女性の雇用率は確かにイギリスの方が多いですが、2000年の日本と今のイギリスにいくつかの類似点が見られます」と述べています。
日本では2000年に介護保険制度が開始されています。介護保険では、何らかの理由で介護が必要な65歳以上のすべての人にサポートが提供されます。その資格は最初に調査によって決定され、続いて医師と委員会・審査会からの決定が行われた後、その内容に沿ったデイサービスや介護サービスが提供されます。何らかの支援が必要な65歳以上の人々を社会全体で支援するというこの制度に対し、カリー氏は「その設計のうまさは称賛に値します」と述べています。
日本が介護保険制度の導入で相殺しようとした問題の多くはまだ残っていますが、システムが導入されて以来、それらは減少しているとNatureは指摘。日本の生産年齢人口は2000年から2018年の間に1100万人以上減少しましたが、女性の勤労人口が増えたことで、労働力は60万人増加しました。これについて、カリー氏は「おそらく介護保険制度が家族の介護に関する懸念を減らし、競争の場を平準化したためです。労働人口の減少に伴い、政府は多くの女性が在宅ケアに縛られていることに気づきました」と指摘します。
しかし、高齢化率は依然として高く、日本の労働市場にかかる苦境は終わっていません。より多くの女性を雇用することで労働力を確保したにもかかわらず、全国の労働者人口の予測は2040年までに、2017年から20%減の5300万人になると予測されています。その結果、介護保険の費用を誰がどのように負担するのかといった新たな課題が出てくるとNatureは指摘しました。
アメリカにおいて、介護施設での死亡率は2020年時点で前年度比17%にまで増加しました。これはCOVID-19の影響が大きかったと考えられており、人々の間にも「介護施設に預けるより自宅で一緒に過ごした方がいいのではないか」という考えが再び湧き上がっていると、ラヴァル大学のフランス・レガーレ氏は指摘。COVID-19の流行以降どちらが良いのかというはっきりとしたモデルはたてられていないものの、介護保険のようなハイブリッドモデルへ進むべきだとのこと。
レガーレ氏は「当然のことながら、1つの策だけで全てを解決できるわけではありません。在宅であろうと施設であろうと、1人1人に合ったケアを行う必要があります」と述べました。
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in Posted by log1p_kr
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