ビル・ゲイツが「AI規制はサイバー攻撃やバイオテロを防ぐために必要」「AIは人間の仕事を奪う」とインタビューで語る

by Bill Gates
Microsoftの創業者であり億万長者のビル・ゲイツ氏は近年、さまざまな場面でAIに対する懸念を表明しています。日刊紙のニューヨーク・タイムズに掲載されたジャーナリストのエズラ・クライン氏とのインタビューでも、ゲイツ氏はAIのさまざまなリスクや必要な対策、そしてAIが人類にもたらす利益について語っています。
Bill Gates’s Blunt Warning on A.I.
https://www.nytimes.com/2026/09/29/opinion/ezra-klein-podcast-bill-gates.html
Bill Gates tells Ezra Klein AI crossed bio and cyber thresholds this year
https://thenextweb.com/news/bill-gates-ezra-klein-ai-bio-cyber-thresholds
◆AIに受けた衝撃
ゲイツ氏は1970年代にハーバード大学を中退した際、Microsoftの共同創業者であるポール・アレン氏に、自分たちが基本的な通訳ソフトやワープロソフトを売っている間にAIで画期的な進歩があったら、きっと後悔するだろうと語ったそうです。1970年代には少数の研究者が今日のAIにつながるニューラルネットワークの研究を続けていたものの、結局のところAIが大きく進歩したのは20世紀に入ってからでした。
ゲイツ氏はMicrosoftに在籍していた頃から、定期的にOpenAIを訪れてその研究内容を見ていたとのこと。ある日、OpenAIのサム・アルトマンCEOらがゲイツ氏のもとを訪れ、一般公開される前のGPTが非常に複雑な生物学の問題を解くのを見て衝撃を受けたと語っています。そして、2025年末にAnthropicが開発するClaudeのコーディング性能が発達し、自分と同じくらい優秀だと気付いた時、ゲイツ氏は再び衝撃を受けたと語っています。
そこでクライン氏が、「高度な戦略立案はAIにとってまだ未熟だと思いますか?」と尋ねました。すると、ゲイツ氏は自らが設立した慈善団体・ゲイツ財団の資金運用における会議で、2025年10月の時点では「AIにどう思うか聞いてみよう」という発言は単なるジョークだったと回答。しかし2026年の会議では、資金運用についてChatGPTやClaudeに対話させたり、いくつかのレビューでAIを同席させたりすることを検討するまでになっているそうです。
ゲイツ氏は「つまり、当初は冗談のような存在だったものが、今では対等な存在になったということです。AIが最終的な決定を下すわけではありませんが、深く複雑な戦略的議論において対等な立場となり、重要な貢献を果たすでしょう」とAIの性能を高く評価しました。

◆サイバー攻撃や生物兵器開発でAIが危険な閾値(いきち)に達した
ゲイツ氏はAIの性能向上は著しいとした上で、AIは非常に危険な存在でもあると指摘。主要なAI開発企業は利益最大化だけを追求するのではなく、AIが危険な閾値に達したら開発を止めるなど、時には利益最大化に反する決断を下すことも必要だとしています。
ゲイツ氏は、「AIほどその能力が理解されていない製品はこれまでにありませんでした。AIは生物テロリストが何億人もの命を奪う能力を持つという限界を超えてしまっています。すべての銀行口座を混乱させ、電力網を停止させるサイバー攻撃を行う能力もすでに存在しており、私たちはそれが事実であることを知っています。このような事態が起きるのは、悪意のある人物がAIを悪用してそのような行動を取らせる可能性があるからです。AI自体がそうするわけではありません」と述べました。
クライン氏が「具体的には何が転換点だったのですか?」と尋ねると、ゲイツ氏はAnthropicが開発したAIモデル「Mythos」を挙げています。Mythosはサイバーセキュリティ分野で高い能力を持っており、人間が長らく見過ごしてきたコードの中にもバグを見つけることが可能。この能力がサイバー攻撃に応用され、この世のさまざまなシステムに関連する膨大なコードが攻撃対象となれば、人間社会は大きな混乱に陥るというわけです。
また、ゲイツ氏はAIを用いて新しい分子を生み出す技術が進展したことで、人体にとって有益な分子を作り出す動きが加速している一方、生物兵器開発に悪用されるリスクも増していると指摘。「たとえば、天然痘よりも悪質で症状が出るまでにより長い時間がかかるもの、つまり健康被害が出る前に多くの人に感染させるものが欲しい場合、かつては国家だけがこうした作業を行うのに十分な資源と能力を持っていました。今やその権力は、最新のAIツールを駆使する少数のグループの手に渡ってしまったのです」と述べています。
これに対しクライン氏は、AIが悪用されたと知れ渡ればAI開発企業の評判に傷が付くため、資本主義におけるインセンティブで十分にAIのガードレールを設けられるのではないかと質問しています。するとゲイツ氏は、薬や航空機には厳格な規制が設けられているのに、人類がこれまでに生み出した中で最も危険かもしれないAIに規制がないのは問題だと主張。「フィルタリングがあると言いますが、フィルタリングなど存在していません。生物兵器を作成し、あらゆる種類の監視を無効化できるオープンソースのモデルは、すでに存在しています」「1億人が殺された後、訴訟に意味があると思いますか?」と答えました。

ゲイツ氏は、AI業界の外にいる政治家や政策立案者はAIの危険性に対する認識が極めて低いと指摘。ロケットや核兵器などとAIが大きく異なる点は、AIが政府の研究資金によって開発されたのではなく、あくまで民間企業が自主的に開発したものであり、その主なユーザーは政府ではないという点です。そのため、軍事兵器などにおいては高度な技術を持っているアメリカ政府も、AIがどれほど危険なものなのか正確には把握していないとのこと。
もはやAI開発企業による自主規制に頼ることはできないため、ゲイツ氏はサイバー攻撃や生物兵器攻撃で甚大な被害が発生する前に、先んじて政府主導でAIの安全対策と監視体制を整え、それをすべてのAIモデルに義務づける必要があると主張しています。
また、「アメリカがAI開発を規制すれば中国が勝ってしまう」というロジックも使われますが、ゲイツ氏は「『勝つ』とはどういう意味なのか、私にはわかりません。アメリカは中国に勝つことはできないし、中国もアメリカに勝つことはできません。双方ともパンドラの箱を開けてしまったのです。AIは悪意のある人々が利用するためにそこにあるのです。こうした保護対策に取り組むにあたっては、国家主義的な視点から人間的な視点へと移行していくべきだと考えるのが自然でしょう。中国が人類のためにそのような行動を起こそうとしないという考えには、私は同意できません。それは検証されていない仮説です」と述べました。

◆AIは人間の仕事を奪う
ゲイツ氏は2026年8月に発表したブログで、このままではAIが人間の仕事を奪ってしまい、多くの仕事は永久に消滅するだろうと警鐘を鳴らしました。クライン氏は今回のインタビューでこの主張について深掘りし、かつて「AIによって奪われるだろう」と予測された放射線科医やプログラマーは依然として存在しており、多くの仕事は失われていないように見えると尋ねています。
これに対しゲイツ氏は、記事作成時点ではデータセンターの構築などの分野で新たな需要が生まれているため、AIが奪った仕事よりもAIが生み出した雇用の方が多いと認めています。その上で、多くの仕事は「極めて高い信頼性」が要求されているから存続しているのであり、AIが人間よりも優れた精度を発揮すると確認されれば、仕事はAIに奪われていくだろうと主張。「今後数年のうちに会計・法律業務・テレセールス・テレサポートといった分野では、24時間体制であらゆる言語に対応し、雑学に関する知識も豊富で焦ることもないサービスが実現するでしょう」と述べました。
続いてクライン氏は、このようなゲイツ氏の主張に対する反論として、「確かにAIは雇用を奪うが、それに伴って他の分野で雇用が生まれるため、過去の技術革命と同様に気にする必要はない」というものがあると問いかけます。ゲイツ氏はこのような主張について、経済の一部に需要弾力性があると事実を指摘しているに過ぎず、いずれ人間が行わなくてはいけないタスクがなくなった段階で、需要の弾力性は止まってしまうと説明しています。
アメリカでは20世紀に製造業の海外移転や自動化が進み、製造業で働く人々の雇用が失われました。しかし、人々はサービス業の仕事に移行したため経済全体の雇用構成が変化し、結果としてアメリカの総雇用者数は1960年当時から減少せずに済んでいます。ところが、人間がサービス業において持っている優位性は「複雑なタスクを処理できる認知能力」であり、AIはこれを代替できてしまうどころか、24時間休むことなくあらゆる言語で処理可能です。つまり、AIの発達に伴って人間の認知能力でさえ希少性を失えば、人間に残された仕事は限りなく少なくなるというわけです。
そこでゲイツ氏はAIによる雇用喪失への対策として、従業員を解雇してAIを採用する企業に対し、「AIの使用に対する課税」を行って税制や年金を負担させるべきだと主張しています。また、育児・高齢者介護・一部の医療処置・教育といった分野において、「人間専用の仕事」を維持することも提案しています。

◆AIは貧しい人々の助けにもなる
ゲイツ氏はAIに対する強い懸念を表明していますが、その一方でゲイツ財団はAI研究所や政府機関などと共同で、「30億人以上がAIを母語で使えるようにするための5カ年目標」を発表しています。クライン氏がこの点について尋ねたところ、ゲイツ氏は「AIには多くの良い点があります」と述べ、ゲイツ財団では世界で最も貧しい人々にAIを届け、教育・医療・農業の面で支援する活動を行っていると説明しました。
ゲイツ氏は例として、「ナイジェリアのへき地に住むヨルバ語を話す女性が、近所に医者がいないためAIにしか頼れない」というケースを挙げています。ヨルバ語は西アフリカで4500万人の話者を持つ言語ですが、AIモデルは依然としてヨルバ語を十分に認識できないため、女性が病状を話してもうまく対応できないとのこと。
つまり、AIをより多くの言語で使えるようにすれば、貧しかったり恵まれなかったりする人々が、健康や農作業の相談をAIにできるようになるわけです。「AIは最も基本的な人間的な問題を抱える、最も困窮している人々を助けるという点で善のためのツールなのです」と述べました。
◆ゲイツ氏オススメの本3冊
クライン氏がインタビューの最後に「オススメの本3冊」を尋ねたところ、ゲイツ氏は以下の3冊を挙げました。
『The Correspondent(特派員)』ヴァージニア・エヴァンス著

『Into the Wood Chipper』ニコラス・エンリク著

『The Infinity Machine』セバスチャン・マラビー著

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