産業革命の時代にどうやって精度の高い「ねじ」を作り出したのか?

現代の工作機械は非常に精密でほとんど誤差がない部品を作ることができますが、初めから現代のような精度があったわけではありません。18世紀中頃~19世紀の産業革命の時代に、どのようにして精度の高い「ねじ」を生み出したのかについて、エンジニアで起業家のゲイリー・リンスコット氏が解説しています。
How Machines Learned Precision
https://glinscott.github.io/how-machines-learned-precision/
以下は17~18世紀に活躍した発明家のヘンリー・モーズリーが1800年に生み出したねじ切り旋盤です。労働者が左側のハンドルを回すと、工具をのせた台車が真っすぐなレールの上を少しずつ移動し、ねじ山を切削できる仕組みになっています。

モーズリーのねじ切り旋盤は、ねじ山を一定の大きさに統一して量産できる初めてのねじ切り旋盤でした。これ以前は、特定のボルトとナットのペアでないとピッタリかみ合わさりませんでしたが、モーズリーの発明によって規格化されたボルトとナットが量産できるようになりました。
しかし、モーズリーのねじ切り旋盤を生み出すには、そもそも旋盤部品の精度が正確でなくてはいけません。そもそもレールが曲がっていると工具もズレてしまい、切削されるねじ山が不均一なものになってしまいます。そこでリンスコット氏は、さまざまな部品を作る工作機械の精度がどのように向上したのかについて、例を挙げて説明しています。
◆シリンダー
産業革命において重要なのは蒸気機関の実用化であり、これには高温・高圧の蒸気を送り込む円筒形のシリンダーが必要です。しかし、円筒の鋳造品に片側から回転する工具を差し込んで内部を切削する従来のやり方では、工具を支えるバーが自重でたわんだり、でこぼこの壁によって刃物が揺れたりして、真っすぐにきれいな穴を空けることは困難でした。

そこで1775年頃に鉄工所経営者のジョン・ウィルキンソンが開発したのが、「重いバーを円筒形に貫通させて固定し、バーに沿って回転する工具をスライドさせる」という仕組みです。両端を固定したことで途中でのブレが大幅に軽減され、蒸気機関のエンジンに利用できる非常に高い精度のシリンダーを製造可能となりました。

◆工具送り台
かつての旋盤では、回転する部品に対して旋盤工が自らの腕で工具を支え、工具を部品に接触させて切削していました。しかし、鉄を切削する際には強い力が発生するため、どうしても旋盤工の腕が揺れて工具の位置もずれてしまうという問題がありました。この状態では、きれいな円を作り出すことはできません。

そこで技術者たちは、工具を鋳鉄製の送り台に取り付けて、ねじで少しずつ送り出すという方式を生み出しました。これにより切削の際の力が旋盤工の腕ではなく鉄によって支えられ、よりきれいな切削作業が可能となりました。

◆平らな面
正確な作業を行うには機械の部品が真っすぐで平らな必要がありますが、鉄などの表面に「平らな面」を生み出すことは非常に難しい課題です。一般的には手作業によるヤスリがけで平らな面を作っていましたが、手が少しでもズレるとでこぼこや傾斜が残ってしまいます。

そこでヤスリがけ職人たちが考案したのが、「平らな基準板の上に塗料を塗って対象の金属板に重ね、色が付いた部分だけを削り取っていく」という仕組みです。たとえば以下の図で青色の塗料が付いた部分だけを削ります。

これを何度も繰り返せば次第に平らになっていき、最終的には「重ねると面全体にぴったり塗料が付く状態=平らな面」になるというわけです。

しかし、これには「基準板が平らであるということをどうやって保証すればいいのか」という問題があります。たとえば以下の図を見ると、基準面となる「A」の表面がでこぼこなため、対象の金属板「B」もでこぼこなのに塗料がうまく付着してしまっています。

そこでヤスリがけ職人たちは、「3つの板を使って平らな面を作り出す」という方法を編み出しました。以下のように「A」「B」「C」の3枚を用意し、「AとB」「BとC」「CとA」という異なる組み合わせで何度もヤスリをかけていけば、どれか1つのペアだけがかみ合うことが起きないため、かなり平らな面が生み出せるというわけです。リンスコット氏は、「これは工学における最も美しいアイデアのひとつです」と述べました。

◆ねじ
モーズリーがねじ切り旋盤を開発する前は、各工房が手作業またはダイスという工具を使ってねじを製造していました。これらのねじに存在するねじ山は不均一でしたが、モーズリーのねじ切り旋盤にも「リードスクリュー」と呼ばれる長いねじがあり、これが工具をのせた台車を動かしてねじ山を切削していました。リードスクリューが不均一だと切削されるねじ山も不均一になってしまうため、モーズリーは「ねじ切り旋盤を作る前に正確なねじを作る」という課題に取り組む必要がありました。
ねじ山の間隔(ピッチ)はねじの直径と直線の傾きによって決まります。そこでモーズリーは木やスズといった柔らかい素材で円筒を作り、この間に角度を正確に固定したナイフを押し当てて円筒を回転させました。円筒を回転させるとナイフが浅い溝を刻み、この溝に沿って滑る形でナイフが移動し、ねじ山が作られました。リンスコット氏は、「モーズレーは既存のネジを模倣することなく、独自のネジを作り出したのです」と述べています。

さらにモーズリーは2つのねじを作り、それぞれのねじに1つの工具を取り付けて同時ねじを回転させることで、「2つのねじに生じた誤差の半分」の誤差で新しいねじを作る装置も考案。これにより、どんどん作られるねじの誤差を少なくして正確なねじを作り出しました。

また、モーズリーは1つのねじから複数のピッチを持つねじを生み出すため、歯車を組み合わせてピッチを変える機構も考案しました。

このような工学的発明と改良の積み重ねにより、モーズリーはねじ切り旋盤を開発することができたとリンスコット氏はまとめました。

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