ウイルスと生物の境界を揺るがす巨大ウイルス「Girus」とは何なのか?
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスやエボラウイルスなど、地球上にはさまざまな種類のウイルスが存在しています。一般的に知られているウイルスの大きさは数十~数百ナノメートルほどですが、その10倍以上の大きさの「Girus(ジャイラス)」と呼ばれる巨大ウイルスの存在が確認されており、その特徴について教育系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが通常のウイルスと比較しながら解説しています。
This Virus Shouldn't Exist (But it Does) - YouTube
地球上には、風邪の原因ウイルスであるアデノウイルス(Adenovirus)や、狂犬病の原因となる狂犬病ウイルス(Rabies lyssavirus)、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)など、多くの種類のウイルスが存在しています。
これらのウイルスは遺伝情報や脂質でできた膜などのシンプルな物質で構成されているのが特徴。
「ウイルスが生物なのか否か」という議論は活発に行われていますが、結論は出ていません。
ウイルスとウイルスに寄生された細胞をまとめて「Virocells(ヴァイロセル)」という生物と捉える科学者もいれば……
完全に生物ではないものとして扱う科学者もいます。
菌類や植物、動物は最終共通祖先から進化の過程で分化した考えられていますが、ウイルスはこの進化の過程に関わっていません。
ウイルスが地球上に登場した経緯には諸説あり、ウイルスは単なる遺伝情報から生物が段階的に発生する途中であるという説や…
細胞から逃げ出したDNAが自分自身のコピーを作成する能力を獲得したという説……
細胞に寄生する生物が極限までシンプルに進化したことでウイルスになったという説などが存在しています。
地球上には膨大な数のウイルスが存在しており……
その合計数は1000穣(10の31乗)個と見積もられています。
仮にウイルスを横一直線に並べると天の川銀河500個分の長さに到達します。
ほとんどのウイルスの大きさは、数十~数百ナノメートルであることが知られていますが……
近年、ジャイラスと呼ばれる他のウイルスに比べて巨大なウイルスの存在が確認されました。
このジャイラスは、海辺や給水塔、畜産施設、人間の口内などの多様な環境で発見されています。
ジャイラスと一般的なウイルスの大きさを比べるとこんな感じ。ジャイラスの1種であるTupanvirusは1200ナノメートル、Mamavirusは600nm、ピソウイルスは1500ナノメートルと、通常のウイルスと比べて10倍程度の大きさです。
最初に発見されたジャイラスは、1992年にアカントアメーバの内部で発見されたミミウイルスです。
ミミウイルスはアカントアメーバの内部に入り込み……
体内でウイルス生産工場の「バイロプラズム」を形成します。
そしてアカントアメーバの内部で数を増やしたミミウイルスは……
アカントアメーバに自己破壊命令を出し、体外へと飛び出します。
ジャイラスは、その大きさだけでなく、体内に数万個の遺伝子を持っているという点でも特殊です。
人間の細胞が持つ遺伝子は約2万個で、新型コロナウイルスは15個、HIVやインフルエンザウイルスは10個の遺伝子しか持っていないことからもジャイラスの特殊性が分かります。なお、トマトの細胞が3万5000個の遺伝子を持っているように、生物の複雑さと遺伝子の数が直結するわけではないことには、注意が必要です。
ジャイラスが持つ大量の遺伝子の一部は、宿主の内部に入り込む機能や、内部で増殖する機能に使われていることが判明しています。
しかし、ジャイラスの遺伝子の中には、なんの機能にも使われてない部分が非常に多く存在しており、科学者を困惑させています。
また、ジャイラスからは複数の奇妙な生態が確認されています。例えば宿主に自身の遺伝情報を組み込んでキメラを形成したり……
宿主の細胞から遺伝情報を抜き取って……
自分の遺伝子に組み込んだりといった生態が確認されています。
科学者は、これらの生態によってジャイラスが生物の進化の根底に深く関わってきた可能性があると指摘しています。
さらに、宿主の内部に侵入する能力を持たないにも関わらずジャイラスであるミミウイルスを利用することで宿主の体内に侵入するウイルス「ヴィロファージ」の存在も確認されています。
ヴィロファージがミミウイルスを利用する際、ヴィロファージとミミウイルスは共に自身の遺伝情報を放出しますが……
ヴィロファージがミミウイルスの複製を阻害し、ヴィロファージだけが増殖することもあるとのこと。
さらに、ミミウイルスが形成したバイロプラズムに別種のヴィロファージが入り込み……
ミミウイルスとヴィロファージのキメラが誕生することもあります。
真正細菌や古細菌は、遺伝子の中に外来遺伝子を記憶するCRISPRと呼ばれる部分を持っていることが知られています。
ミミウイルスなどのジャイラスも同様に、外来遺伝子を記憶する部分を持ち、ヴィロファージなどの侵入を防御していることが判明しています。この防御機構は「MIMIVIRE(Mimivirus Virophage Resistance Element)」と呼ばれています。
以上のようにジャイラスの発見から約20年で数々の特徴が明らかになっています。また、上記のようにジャイラスが生物に近い特徴をもっていることから、「ウイルスと生物の境界が曖昧になった」という指摘も存在しており、今後の研究に注目が集まっています。
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