インタビュー

電動三輪車「ノスリス」開発者の東條憲一郎&牧村和樹さんインタビュー、ノスリスの誕生秘話や今後の展開について聞いてみた


2021年5月12日にクラウドファンディングを開始し、1日で100台全て完売した3輪電動ビークルが「noslisu(ノスリス)」です。GIGAZINEでも、実際にノスリスに乗って走行安定性や細部へのこだわりを確認した試乗記事を公開しています。そんなノスリスの開発者である東條憲一郎さんと牧村和樹さんから、ノスリスの開発動機や今後の展開を伺ってきました。

noslisu | ノスリス
https://noslisu.jp/


GIGAZINE(以下、G):
よろしくお願いします。

東條憲一郎さん(以下、東條):
よろしくお願いします。今日、実際にノスリスに乗ってみて、何か気になることはありましたか?

G:
まず、ノスリスには、ブレーキロック機構が搭載されており、乗り降りが非常に簡単だと感じました。このようなロック機構が付いたブレーキに触るのは初めてだったのですが、この機構は、どんな切っ掛けでノスリスに搭載されることになったんですか?

東條:
ノスリスを開発していく中で、社内で何度か意見調査をしていまして、その中で「子どもを安全に乗せられる機能が欲しいな」という意見が多かったんです。そこから、「子どもを前後に乗せるよなうな自転車の需要が絶対あるだろうな」という話をしていて。77~78人くらいの人に意見を聞いているんですけど、子どもを自転車に乗せるときに100%何かやらかしているんですよ。子どもを1人自転車に乗せて、もう1人乗せる際にバランス崩してバターンって倒れるとか。でも、「現実的に子どもを乗せられる自動車以外の乗り物が、自転車しかない」という話を多く聞きました。

G:
自転車しかないから、危険でも使うしかないと。

東條:
そうですそうです。

G:
確かに、子どもを2人乗せたいとなると、自動車以外の乗り物だとママチャリのような自転車しかないですね。

東條:
ですよね。それと、普通の道路は真っ平らな所ばかりじゃなくて、例えば上り坂とか古い道とかだと、台形になってるような道がかなり多いんですよ。自転車で道路を走行する際は、車が走るド真ん中じゃなくて、左右どちらかに寄りますよね。だから、停車する位置も角度が付いてる場所になってしまって、センタースタンド方式だと安定しないんですよね。そういう場合でも安定して停車できる方法を求めて、ロック機構にたどり着きました。ノスリスに搭載したロック機構なら、3つの車輪がうまいことバランスを保っている状態で停車することが可能です。

G:
なるほど。試乗の際に、段差にまたがせてみたのも、高低差がある場所でも安定するということを示すためだったんですね。


牧村和樹さん(以下、牧村):
そうです。

東條:
このような路面状況でも、車体を水平な状態に保ったまま子どもを乗せたり降ろしたりできるというのが、ロック機構のメリットです。そういった安定性を確保した上で、「荷物を乗せやすいか否か」「カゴは高い位置と低い位置のどちらがいいのか」という話になるかなと。まずは、安定して停車しなければいけない。

G:
今回ノスリスに試乗した時に、「車体にまたがって安定した姿勢を確保した後でロックを解除できる」というのが新鮮でした。さらに、ロックを解除した後も3輪で自立しているから、「これはかなり安定感にこだわっているな」と感じました。

東條:
そうですね。安定感があるので、高齢者も比較的取っつきやすいと思います。僕らは、ずっと二輪を開発しきましたが、何年か前に集計してみたら、日本で二輪免許を持っている人は四輪免許持っている人の10分の1~7分の1くらいしかいないことが分かりました。つまり、四輪免許を持っている人たちは、僕らがこれまで相手にしてきた人たちの7倍~10倍くらいいるということです。そこで、いまさらですけど「普通の人をあんまり相手してなかったな」ということに気づいたんです(笑)

G:
(笑)

東條:
「普通の人を相手にしていない商売ってかなりすごいよな」と(笑)。そこで、僕らもオートバイがすごく好きでやってきたんだけど、「そろそろ普通の人を相手にしてもいいんじゃないかな」と考えました。

G:
そうしてできたのが、ノスリスなんですね。ノスリスは、「3輪の乗り物」を作ろうとしてできたのか、「自転車」を作ろとしてのできたのか、どちらですか?

東條:
「3輪」が先ですね。

G:
では、最初は、3輪タイプのバイクを開発するつもりだったということですか?

東條:
バイクの3輪というか、車の3輪ですね。バカでっかい3輪型の車を最初に作りました。

牧村:
ノスリスとはまったく違う車から始まりましたね。ノスリスの形が出てきたのは、最後の最後です。

G:
最初は、「四輪免許を持っている人向けのものを作る」というところから始まって、大きな車が作られたんですね。

東條:
当然、カワサキはオートバイを作っている会社なので、オートバイ好きが多いんです。それで、でっかい3輪の車を作った時に、「うおー!なんやこれ!めっちゃかっこいいやん!」っていう人は、大体2輪バカみたいな(笑)

G:
なるほど(笑)

東條:
「これ、同じだな」と(笑)。「あんまり変わらないな、3輪にした意味ないな」と感じて。それで、作った車をオートバイ型に落とし込んでいって、どんどん小さくしていくと、今度はお姉さんたちが寄ってきてくれたんですよ。「これぐらいだったら、私も乗れるかも」って。


G:
いままでバイクに乗っていなかった人も反応し始めたんですね。

東條:
そうですそうです。バイクに乗っていなかった人たちが、「これなら、私たちも乗れるかもしれない」みたいな感じで話してくれて、「おっ、食いついてきたな」「やっぱり小さくしないとなあ」ということで、最終的に行きついたのが、自転車風の形状のノスリスだったんです。ああいう形状にしたら、仰々しさがとれるというか、「2輪バカとは違う世界に行ける」という感じです(笑)

G:
確かに、実際にノスリスを見るとフレームが細くて、武骨感とは無縁だと感じたんですけど、そういった経緯があったんですね。

東條:
そうですね。カワサキは「Z」とか「Ninja」とか作っているじゃないですか。それらから違うところに手をつけるとなると、武骨感からは離れていきますね。最初は、「モーターサイクルとのつながりも必要」という意識でやっていたんですけれど、そこからどんどん離れていった結果、「これはちょっと、『カワサキ』を出したら逆効果だな」と感じるようになったんです。

G:
なるほど。確かに「カワサキのノスリス」と聞くと、「どんなゴツい3輪なんだ?」と考えてしまいますね。

東條:
さらに、高齢者から聞いた「オートバイでも、どんな乗り物はでもいいんだけど、もっと気軽に乗れる乗り物が欲しい」という話もヒントにして、「ああ、それじゃあ、そういう人が使えるような乗り物にしたいなあ」と考えました。

G:
ノスリスは、高齢者でも気軽に使える乗り物を目指して開発されたんですね。

東條:
そうです。メインターゲットとしては、高齢者を対象にしています。でも、高齢者と言っても、僕らが小さい頃のおじいちゃん・おばあちゃんみたいな感じでは全然なくなっているんですよ。みんな若々しくて。そういう人らに話を聞くと、「免許返納した人向けのシニアカーは絶対やだ、死んでも乗りたくない」という話が出てきたりするんです。そこで、若者が乗っていてもおかしくない、なおかつ、高齢者に「オレでも、乗れるんちゃうかな」と思わせられるようなシルエットとなると、ノスリスのようなシルエットになってくるんです。

G:
安全そうに見えて、かつ、スタイリッシュなシルエットというわけですね。

東條:
そうですそうです。それで、ああいう形にしたということなんです。だから、僕ら的には自転車を作ったとかじゃなくて、高齢者が食いついてくれるようなシルエットに落とし込んでいったら、ノスリスのシルエットができあがったということなんです。


G:
なるほど。ノスリスには、電動アシストタイプとフル電動タイプの2タイプがありますが、今の話を聞くと、フル電動タイプの方がメインということですか?

東條:
「フル電動タイプの方がメインだ」という気持ちはあります。でも、EV車両って日本であまり走ってないですよね。それに対して、街中には多くの電動アシスト自転車が走っています。だから、最初に脚光を浴びるというか、実際に自転車と同じように走り回す用途で受け入れられるのは、電動アシストタイプだと思っています。免許もいらないですしね。

G:
ということは、電動アシストタイプのノスリスは、これまでのカワサキのターゲットとは異なる、「四輪免許を持っている層」に向けた製品を展開していくための布石といった位置付けなんですか?

東條:
そうですね。そういう位置付けなんです。乗るために免許がいらないので、「何もなくても、誰でも乗れます」というのがアシスト自転車の特徴なので。だけど、「できれば、EVという乗り物を普及させたいな」という気持ちもあります。僕は今、フル電動タイプのノスリスで通勤してますけど、やっぱり運転していると「うわ!なんやあれ!」というように、すごく注目されるんですよ。交差点で普通に一番右側の車線をビューって入っていって、交差点のド真ん中で止まるじゃないですか。そうしたら、隣の車から「お前。何やっとんねん」みたいなことも言われます。で、「ようみたら、ナンバー付いとるな」って(笑)

G:
確かに。ノスリスの自転車風の見た目で交差点の真ん中にいたら、「なんで自転車がここにいるんだ」と思いますね(笑)

東條:
だから、みんなにノスリスのような車を認識してもらわないといけないんですよ。乗り始めの頃は、「なにそれ」って何度も止められていたんです。それこそ道行く歩いている人もそうですし、車に乗っている人からも、窓開けて「なにそれ」みたいな感じで聞かれるんですよ。だから、ずっとノスリスの名刺を携帯していて、それを配り歩いています。


東條:
それで、ようやくここ最近は、止められることが少なくなりました。だけどやっぱり、そう言われているうちは、絶対に普及しないと思うんですよ。だから、退勤時とかの時間がある時に止められたら一通り説明してあげて、「一回乗ってみる?」と言ってます。それで、一度乗っちゃうと「なにこれ!どこで買えるの?」って言ってくれるんですね。

G:
なるほど、声をかける時点でちょっと興味を持ってるわけですからね。

東條:
そうですね。だから、ノスリスが売れる売れないっていうのも、「あ、こういう乗り物が世の中にあるんや」っていうのを世間に認識してもらってからだと思うんですよ。

G:
では、今通勤時に乗っているのも、テストライドだけじゃなくて、広報活動も兼ねていると。

東條:
そうですそうです。広報活動も兼ねて、今年(2021年)に入ってからずっと乗っています。

G:
なるほど。今日は、きれいな平地で試乗させていただいたのですが、通勤する際はガタガタした道もありますよね。そういう道でも、ノスリスは安定しているんですか?

東條:
そうですね。僕もずっと20数年オートバイの開発やってきてるんですけども、お尻が滑る分には結構人間ってどうにかできるんですよ。オートバイの転倒って、フロントブレーキをかけたりだとか、マンホールの上でフロントが滑ったりとかいったことが原因の場合がほとんどなんです。だけど、ノスリスだと前輪が片方滑っても怖くないし、不安定な挙動にならないというのがすごくメリットだと感じています。実際に、雪道とかでも安定していました。

G:
えっ、雪道でもですか?

東條:
雪とか氷の上とか走ったりしても、やっぱりフロント2輪の安定感というのはありますね。

牧村:
だいぶ頑張ってましたよね(笑)。チェーンをまき付けて。

東條:
そうですね(笑)。本当は、太いバルーンタイヤみたいなモノをはかせてチェーンを巻こうかなと思っていたんです。だけど、今、世界的に部品が全然なくて、タイヤもそのうちの1つなんです。だから、バルーンタイヤが手に入らなかったんですよ。それで、自分の手持ちの中で一番太いタイヤをはかせて、それにチェーンを巻いて走りました。「あ、これだけでも全然いけるな」「氷道でも全然行けるな」と感じましたね(笑)

G:
なるほど(笑)。ノスリスはサドル・ぺダル・ブレーキなど、多くの部品に自転車用の部品を使っていて、交換可能と聞きました。多くの部品が交換可能なことには、どのようなメリットがありますか?


東條:
やっぱり、僕も含めてオートバイを好きな人って、「部品を交換して自分の都合のいいポジションにしたい」という考えが強いんです。そのために、いちいち部品を買いそろえるんですけど、自転車用の部品はオートバイに比べて10分の1くらいの価格なんですよ。

牧村:
めちゃくちゃ安いですね。自転車用のパーツは。

東條:
だから、「いろんなパーツを交換できたら面白いだろうな」と思って、交換可能にしています。

G:
なるほど。ノスリスは自動車免許を持った一般ユーザー向けに作ってあるんだけれど、オートバイファンのカスタマイズ欲も満たせるということですね。

東條:
そうです。好き勝手しちゃってください(笑)

G:
ノスリスのフレームには、神戸に本拠地のあるVIVALOのフレームが使われているとのことですが、どういった経緯でVIVALOのフレームを使うことになったんですか。自転車のフレームを作る会社は他にもたくさんあると思うんですけども。

東條:
カワサキの設計者には、自転車好きが結構多いんですけど、その人たちが「神戸といえばVIVALO」と言っているんですよね。VIVALOは、フレームのビルダーさんで、「あなたの好みのフレームに仕上げますよ」という感じのお店なんです。だから、こちらの都合も聞いてくれやすいし、なおかつネームバリューもあるという。

先ほど話したように、ノスリスでは「カワサキ」ブランドを使わないようにしていて、僕らとしては、ノスリスは「VIVALOのフレームを使ったカスタムの3輪自転車」というような感じでいくのがいいのかなと思っているんです。「よくよく調べたらカワサキが設計していたぞ」となることを狙ったという部分もありますね。

G:
なるほど。話を変えますが、2021年5月12日に始まったMakuakeでのクラウドファンディングで、目標金額が300万に設定されていたのですが、この目標金額はどうやって決まったんですか?

Makuake|重さ20kg積んでも快適走行!Kawasaki設計のラクラク電動3輪|ノスリス|マクアケ - アタラシイものや体験の応援購入サービス
https://www.makuake.com/project/noslisu/


東條:
あれね。実は、僕らもよく知らないんですけれど、Makuakeから「金額は低く設定しておいた方がいいですよ」と言われて、すごく適当に設定したんです(笑)

牧村:
「300万円」というのは、それで何か開発したい金額というわけではないです。何となく決めた金額です。

東條:
そもそもMakuakeで販売した100台という台数は、僕ら今5人のチームで開発してるんですけど、「5人が一生懸命頑張ったら100台は作れるだろう」ということで決めています。200台だと無理かなって(笑)。だから、100台は絶対に売れると思っていたし、「それが売れないのだったら、チーム解散だ」という気持ちでした。ただ、1日で完売したというのは、すごいボーナスだなと。「需要あるんだろうな」ということは、うすらぼんやりと思ってましたけど、即日完売というのは、これは確実に需要あるんだなと感じましたね。

G:
自信はもちろんあったけど、やってみたらそれを上回るくらいの勢いだったと。

東條:
そうですね。売れてくれたので、「これは確実にイケるだろうな」と。まあ、もともと確信めいたものは持ってましたけど、なおさら自信がついたというのと、それまでは「はい、冗談でした」で済んだものを、もう冗談では済まないということに(笑)。「この100台は絶対作らないといけないな」という。

牧村:
そういう区切りではありますね。

東條:
そうそう。そういう決意じゃないですけど、「これはちゃんと真面目にやらなきゃな」という。

G:
「電動アシストタイプの方が先に売り切れた」と聞いていますが、電動アシストタイプの方が先に売り切れるということは、予想していたんですか。

東條:
僕は予想していました。「多分そうだろうな」「確実にアシストタイプの方が先に売り切れるだろうな」と。逆に言えば、その中でフル電動タイプを買ってくれる人というのは、新しいモノ好きだったり、目立ちたがりだったり、先鋭的な考えを持っている人だったりすると思います(笑)

G:
フル電動タイプを買う人は、これまでのカワサキファンに近い人たちということですか(笑)?

東條:
そうです(笑)。1つ心配なのが、「フル電動タイプのノスリスでも自転車と同じような使い方ができる」と思っている人がいる可能性があることですね。EVというモノがどういうモノか認識していないかもしれない。ミニカーという種別の乗り物が日本に多くあるわけではないので。「ちょっと勘違いしている人もいるのではないかな」と考えています。

G:
確かに。先ほどの試乗でも、電動アシストタイプは割と予想どおりの乗り味に感じましたが、フル電動タイプの方はスロットルを押し込むとグングン加速するので、「あれ、これ自転車とは全然違う乗り物だな」と思ったんですよね。


東條:
そういうのを経験したことがない人が過半数なんですよね。むしろ経験している人の方が少ないというくらいで。その辺あまりピンときてない人もいるかもしれないですね。

G:
それでは、ノスリスがどんな乗り物か知ってもらうために、試乗の機会を増やす予定はあるんですか?

東條:
そうですね。増やしていきたいというか、それはずーっとやっていかなければいけないと思います。僕らがこれまでに開催できた試乗会の回数はすごく限られているんですね。やっぱりコロナの影響で、イベントの大半が開催する機会を逃しているので。だから、ノスリスを知っている人が少ないので、クラウドファンディングは心配だったんですよ。

G:
なるほど。Makuakeのよくある質問ページに、「申し訳ございません、現時点では今回の販売仕様の追加販売の予定はありません」と記載されていますが、追加販売の予定はないけども開発は「どんどん進めていくぞ」という方向なんですか?


東條:
えっとね、「まずは100台は使ってもらって、そこからまずは開発かな」というイメージですね。

牧村:
そうですね。ユーザーがどんな使い方をしているのか知りたいので。

東條:
Makuakeで販売した100台というのは、「皆さんで開発の応援をしてください」という思いを込めています。

牧村:
サンプルみたいな感じですね。「レビューを教えてくれ」という。

東條:
実際の生活の中に組み込んでもらって、「こういうところはこうだったよ」という意見を僕らに聞かせてもらって、それを取捨選択していくつもりです。ノスリスは、金額もそんなに安いモノではないと思うんです。だから、それなりの金額がするモノは、「それくらいの価値があるな」と思われるようなモノに最終的にしていかなければならないと考えています。

G:
その価値というのは、デザインだったり、乗り心地だったりという部分のことですか?

東條:
そうですそうです。現時点のノスリスは、あくまで僕らが良かろうと思って作っているだけなので。

G:
100台分のフィードバックを得た結果、「こういうのが求められているんだ」ということで、ノスリスがまったく違う形になる可能性もあるということですか?

東條:
なるかもしれないですね。だからそういう意味では、「ここからノスリスがどう変わっていくか」というのは、僕らもまだ見えていないところです。

G:
なるほど。

東條:
今後もいろんなところで試乗会を開催して、試乗してもらう機会を増やしていくつもりです。その中で、例えば山間部であったりとか、すごいへき地であったりとか、いろんな場所で使ってもらった時に、全然違う話が出てくるかもしれません。ぼくらは神戸や明石といった都市部に住んでいるので、都市部での使い方は、何となく分かるんです。でも、ちょっと田舎になっちゃうと皆目見当がつかない。どういう使い方をしているのかも分からないし、どういう風な生活スタイルかというのもよく分かっていないんです。だから、「幅広い人が使っても、とりあえず及第点はくれる」というのをとりあえずベースに置かなければいけないと考えています。

G:
では、大きくてゴツい3輪の車から始まって、スタイリッシュなノスリスの形まで落とし込んできましたけど、ここからまた、いろんな使い方に合わせてデザインが変わっていく可能性があるんですね。

東條:
そうですね。もしかしたら種類を分ける必要があるかもしれないですし。「都市部はこれでいけるけど、山間部とかへき地になってくると、作り分けしないと1台ではこなせないぞ」という話になるかもしれない。今、ノスリスは1人乗りしかできないので、さっき話した「子乗せ自転車」みたいな仕様も考えていかなければダメですし。一応、今回Makuake向けの仕様を作って出しはしましたけど、「ここからかな」という風に考えています。

G:
なるほど、今後、ノスリスがどういう方向にい変化していくかは、フィードバック次第だと。

牧村:
まずは100台販売して、いろいろ声を聞かせてくださいということです。

G:
そして、1日で完売したわけですね。

牧村:
頑張って作らなきゃ(笑)

G:
(笑)

東條:
まだ全然これからですね。最低ラインをクリアしただけなんで。

G:
ということは、フィードバックによっては、もしかしたら「カワサキのノスリス」というモノも作られる可能性があると。

東條:
その可能性もありますね。

牧村:
そういった仕様が欲しいという声もあるので、荷物を載せたり子どもを乗せたりといったことを目的とした仕様とは別に、スポーツ向けの仕様を作る可能性はあります。

G:
なるほど、ライムグリーンのノスリスが出たりする可能性もあるんですね(笑)

東條:
(笑)。うちの従業員にノスリスに試乗させると、「これ、どれくらい走れるの?」って聞いてくるんですね。社内の場合はもう全員蹴散らして「お前乗らなくてもいいよ」って(笑)、「そういう人向けに作ってないから」って(笑)。僕は、若い人や色んな乗り物に乗れる人っていうのは、放っておいていいかなと思うんですよ。オートバイも乗れるし、自転車も乗れるわけじゃないですか。別に乗り物が自由に選べる人たちっていうのは、あんまりアプローチしなくても勝手にやるだろうなと思うんです。むしろ「勝手にやれよ」みたいな(笑)。そのために、いろいろカスタマイズできるように自転車と共通な部品を多く使っています。

G:
なるほど。全体的な操作方法は分かりやすくしつつ、「カスタマイズしたければできる」という部分もあるということですね。

東條:
そうですそうです。

牧村:
ハンドルもサドルも交換出来ますし、ギアも付け替えたければ好きなモノに交換してくれていいし。「じゃんじゃんやってくれ」と思っていますね(笑)


G:
ちょっと話が戻るんですけども、段差でも大丈夫、急な道でも安定しているというノスリスですが、サスペンションが搭載されていないのはなぜですか?

東條:
サスペンションはね、まずはコスト。そして、搭載すると重くなる。「サスペンションはそもそも必要なのか」というのが僕らの思いです。サスペンション付けると、確かに乗り心地はよくなると思うんですけど、それよりも他の部分に回した方が良くないかなと。

G:
他の部分というと?

東條:
例えば各部品を軽くするだとか、見栄えの方に振ったりだとか。「そっちの方が良くない?」という思いがすごく強いですね。確かにサスペンションを搭載することはできます。だけど、僕らがよく言うパターンで、「搭載は可能です。それで3万円高くなります。買いますか?」という、そういう話になっちゃうんですよ。そもそも、ノスリスは高齢者向けというか、交通弱者の人たちに向けて作っている乗り物なので、サスペンションを搭載するよりも、安心感だったり、操作の確実性だったり、そっちの方が重要だと考えています。それに、サスペンションを搭載すると、どうしてもボケちゃうんですよ。

G:
ボケちゃうとは?

東條:
ノスリスでは、「操作したら操作した分ステアリングが切れる」というような、1対1の操作が可能なんです。それが、サスペンションが動くことによって、どんどん希薄になって、接地感も変わってくる。希薄になるよりも、ずっと接地させておいて3つの車輪が常に安定して地面をつかんでくれる方が、求められているんじゃないかと考えています。それに、サスペンションを搭載すると販売価格が上がってしまうというのもあります。僕らもできるだけ手の届きやすい価格にしたいので。

また、ユーザーが、「ノスリスは素の状態でもいい」と言ってくれるはずという思いもありました。新たな要素を入れたら、何か別の要素を捨てなければいけない。取捨選択になってくるので。ノスリスはみんなに乗って欲しいと思っている乗り物なので、その手が届きやすい所に販売価格を抑えたいという。だから、なるべくシンプルな構造で作りたいので、余計なモノは付けないということです。

G:
なるほど。価格を上げないとか、サスペンションを搭載しないとか、安定感を重視するといったところは、最初の「普通自動車免許を持っている人向けの乗り物を作る」というコンセプトを基に組み立てているんですね。

東條:
そうです。それがなぜかと言われたら、交通弱者の人たちが安心して操作してくれないと、「誰向けに作っているの」という話になって、コンセプトがボケちゃうんですよ。それと、何かいいモノを付けようと思ったときは、例えば、乗り心地のよさだったりとか路面追従性のよさの対価として、お金であったりとか、メンテナンス時間とか、そういうモノが出てくるので、それを極力なくしたいんです。高齢者に「メンテナンスしてください」と言っても無理じゃないですか(笑)。メンテナンスが必要だなんて、そもそも思ってもいないだろうし。それを突き詰めていくと、究極的にシンプルで壊れないというスタイルになっていかざるを得ない。それでも大丈夫っていうモノに最終的にはしたいんです。

G:
試乗した際に各部品を見てみたんですけど、左右に傾く機構のロック部分にも、自転車用のディスクブレーキが使われていました。専用部品ではなく、既存の部品で構成されているのは、その「整備のしやすさ」という所も関わっているんですね。


東條:
はい。

G:
そういったシンプルな部品で構成しつつ、傾きの機構とかには、カワサキの技術を惜しみなく投入しているというわけなんですね。

東條:
そうですね。ぶっちゃけて言うと、性能では、ヤマハさんがトリシティとかで使っているシステムの方が優れていると思います。ただ、あのシステムを使うと、あれだけの金額になっちゃうんですよ。

G:
なるほど。

東條:
「確かにすごいんだけど、こんなに性能必要?」という考えがあって、僕らは全然考え方が違うなと。確かに、トリシティの機構はすごいんだけど、あれは3輪を2輪みたいな動きにできる3輪なんですよね。だから、「3輪なのに、なんで自立しないの」という風に、3輪らしさを失っちゃってる部分もあるんです。トリシティに乗る人は、頭の中で「3輪なんだろう」と思っているわけでして、「これ、立つわ」と思って手を離したら、バタンって倒れちゃう。だから、ノスリスは「手を離してもらっても、どこかでは止まりますよ」という風に作っています。

G:
なるほど。「3輪にするなら、3輪にしかできないことやらなければ」ということですね。

東條:
ですね。3輪の特徴は欲しいですね。「3輪ってこんなに便利なんだよ」というのを出したかったかな。なおかつ、ぼくらはオートバイを作っている人たちなんで、擬似オートバイというか、「オートバイってこんな感じで乗れるんだよ」というような部分も取り入れています。

G:
それはどういった部分ですか?

東條:
えっとですね、セルフステアが効くというのは、自転車ではないと思うんですよね。自転車って自分でステアを操作しないといけないけど、ノスリスは体を傾けることで、ステアが勝手に付いてくるという。

あの乗り味は、普通の自転車では味わえないと思います。それで、試乗した人に「これ、めっちゃ面白い」と言われることが多いです。オートバイも、うまく乗れたらそういう感じになるんですよ。自分が思っていたように車が動いてくれるという。寝かしたときにセルフステアが効いてくれて、例えばスロットルだとかペダルだとかを踏んでいったときに、自分が思った通りにスーっと動いてくれるというような。


G:
なるほど。それがさっき言っていたサスペンションを導入しないという話につながっているんですね。人馬一体感というか、操作した通りに動かせるというのは、オートバイの精神から来ているんですね。

東條:
そうですね。基本的な考え方はオートバイから来ていますね。だから、オートバイと乗り味が似ているというのは、オートバイに乗っている人には分かると思います。

牧村:
便利ということだけではなくて、楽しんで乗ってもらえるように作っています。便利な乗り物だったら、他に選択肢ありますもんね(笑)

東條:
ただの「乗り物」にしたくはなかったというのもありますね。

G:
なるほど。話が変わってしまうのですが、「最初にゴツい3輪の車から始めた」と仰っていましたが、その路線は続いているんですか?

東條:
えっとね……実は……やってはいないですね(笑)

牧村:
きれいになくなりましたね(笑)

G:
(笑)。なくなっちゃったんだ。その、なくなったというのは、「ノスリスで行けるじゃん」となったということですか?

東條:
えっとですね。まあ、簡単に言ったら会社の都合なんですよね。会社から「止めろバカ」みたいな(笑)

牧村:
デカい乗り物を作っているメーカーは、他にもいっぱいありますからね。遊園地のおもちゃじゃないですけど、たまに乗るだけだとスポーツカーみたいな使い方になっちゃって。そうなると、僕らが売っているバイクとかぶっているし、「これまで作ってきたモノと一緒やん、もうこっちあるからよくない?」みたいな考え方はありますね。だけど、ノスリスなら他のバイクとかぶらないし、全然違う話になります。市場も大きいですし。「スポーツカー作るよりも自転車作った方がたくさん売れるし、みんな振り向くからね」という流れです。

G:
なるほど。そういう話なんですね。

東條:
これまで、ノスリスの試乗会は数回しか開催できていないですけど、乗ってくれた人は、すごくいろいろなコメントをくれています。

G:
試乗会で言われたコメントを取り入れて、変わった部分というのはあるんですか?

東條:
結構ありますよ。今回はMakuake仕様に近い試乗車を用意したので、問題点は少なかったと思うんですけど。最初の頃の試乗会は試作車でやっていたので、「前輪をフルステアしたらカゴに当たっちゃう」とか、結構いろいろ変わっています。

G:
試乗会で乗ってもらわないと分からない部分も多いんですね。

東條:
そうですね。そういった意見に対応できる点は対応したけれど、実際に生活で使ってみると全然違う部分もあります。僕も耐久試験を兼ねてずっと通勤時に乗ってますけれど、シチュエーションの違いって絶対にあるじゃないですか。だから、どんな使い方にも対応できているわけじゃないので、「こういう問題が出てくるだろうな」と考えて対処しても、試乗会で新たな問題が出てくることもあります。そういう部分はずっとアップデートし続けています。最終的に、Makuakeで販売する仕様というのは、すでに分かっている問題点はすべて対処した上で出したいなと考えています。

G:
なるほど。他にも変更した部分はありますか?

東條:
ハンドルの切れ角もそうですね、あと、ハンドルのスイッチ周りの配置とか。

牧村:
泥よけも最初は付いていなかったんです。だけど、「これ、泥よけ付かないの?」という要望があったので、Makuake仕様では泥よけを搭載しています。


東條:
そうですね、あの辺は全部言われて対応した部分ですね。

G:
泥よけ。たしかに、使ってみないと分からない部分ですね。

東條:
泥よけ付いてないと、大変なことになりますよ。いま通勤に使っているノスリスには、泥よけ付いていないので(笑)

牧村:
雨の日は、ベチャベチャになってますね(笑)

東條:
ただ、「泥よけ付けない方が、カッコよくなるよね」という意見もあります。まあ、自転車と同じですね。マウンテンバイクでも、泥よけ付けない人がいるので。まあ、そこを分かっている人たちは、すぐ外してくれればいい(笑)

G:
なるほど(笑)。簡単に外せるんですか?

牧村:
ネジ2つ外せば、すぐに取り外せます。泥よけを外しても他の機能には影響しないので、「外したければどうぞ」と。

G:
なるほど、「分かっている人は、自由にどうぞ」ということですね。また話が変わりますが、最初にノスリスを見た時に、「タイヤの径が小さめだな」と感じたのですが、タイヤ径はどんな理由から決まったんですか?

東條:
ノスリスは、背を低くしたかったんです。背を低くしたいけど走破性もそこそこ欲しかったので、乗りやすくて万能なミニベロスタイルにしました。

G:
背を低くするのは、重心を低くするためですか?

東條:
重心を低くするのもそうですし、背の高さは、乗り降りのしやすさに直結するんです。ユーザーの中には、脚を上げるのもおっくうというか、上げられない人もいると思うので。そういう人でも簡単にまたげるように、できるだけ背を低くしたいんです。

牧村:
フレームも、またがりやすいように真ん中を低くしています。


G:
なるほど。確かに、ロードバイクとかだと、脚を高く上げないと乗れないですね。だけど、ノスリスは簡単に乗れました。

東條:
そういったハードルを下げたいという考えです。

G:
文字通りハードルを下げたんですね(笑)

東條:
そうですね(笑)。だけど、背を低くしたことによるデメリットもあります。例えば、「左側のペダルが下の位置にある時に左に曲がると、ペダルが路面にこすりやすい」というのがあります。でも、「自転車に乗っている人は、左に曲がるときは左側のペダルが上にくるようにしているよ」という話も多く聞いたので、「それはどうなのか」とも思いつつ。なかなか難しい部分です。「ペダルを可動式にすればいいのかな」というアイデア自体はありますけど。

G:
では、いろいろなアイデアがあって、100台分のフィードバックを得た上で、どのアイデアを実現するか決めていくんですね。

東條:
そうです。チョイスしていきます。ノスリスは完成しているとは思っていないので(笑)。要望が多ければ、それがやりがいになってくるので。

牧村:
それが、開発の優位先順位とかにもつながってくるでしょうしね。

G:
意見の多い順に対応するということですか?

牧村:
困っている人が多い順に対応していきます。

東條:
「こういう風にすればいいよ」というネタは、いっぱい持っているんですけど。今のことろは、一番オーソドックな仕様でフィードバックを集めたいです。試乗会でありがちなのは、「困っている所」ではなく、「自分の好みじゃない」というような意見が来ることもあります。だけど。ノスリスを買ってくれている人は、気に入って買ってくれていると思うので、真剣な話をしてくれるかなと。「こうやったらもっとよくなるよ」という話をたくさん聞きたいです。

G:
なるほど。ノスリスのモーターの力加減は、どんな点を意識して調整していますか?

東條:
まだいじっている途中ですね。今回試乗してもらったのは、最終的な仕様ではないです。誰にでも乗れるような、マイルドな調整を目指しています。

牧村:
パワーの出し方とかの味付けというか、グッと踏んだときにダーンってならないようにするっていう調整をしています。モーターの調整に関しては、専門のメーカーさんがいらっしゃるので、そのメーカーさんと打ち合わせをしながらセッティングを詰めている状況です。

G:
なるほど。ノスリスは家庭用コンセントで充電できる点が魅力だと思いますが、充電にはどれくらいの時間がかかりますか?


東條:
電池残量が0になる状況は通常の走行ではあり得ないと思いますが、テストのために電池を空にすると満充電までに7~8時間かかります。ただ、電池残量を示す表示ランプが残り1個になって、点滅して、点滅も消えたら空なんですけど、点滅しだすと大体みんな充電するんじゃないかなと思うんですね。そのくらいで充電すると、5時間くらいで満充電になります。試乗会では「本当に空になったら7時間くらいかかります」と説明してますけど、実際に空にする人ってなかなかいないと思いますね。

G:
牧村さんがノスリスのロゴが付いたジャンパーを着ていますが、それは試乗会などでも着ているんですか?


東條:
そうです。これで試乗会とか行ってますね。

牧村:
ノスリスを紹介する際は、「カワサキが設計した」というのは、あえて出さないようにしています。「カワサキじゃないよ、ノスリスだよ」というブランドを広げていきたいですね。

G:
なるほど、今日はありがとうございました。

東條&牧村:
ありがとうございました。


なお、ノスリスの最新情報は、TwitterInstagramなどの公式SNSでチェックできます。また、実際に電動アシストタイプとフル電動タイプのノスリスに乗って、その機能や安定性を確かめた試乗レビューを、以下からチェック出来ます。

抜群の安定感でスイスイ走れる3輪電動ビークル「ノスリス」試乗レビュー、幅広い二ーズに対応しつつカワサキの職人技が光る仕上がり - GIGAZINE

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
電動バイクにも電動アシスト自転車にもなるハイブリッドバイク「GFR-02」試乗レビュー - GIGAZINE

スマホと連携する電動バイク「テラモーターズ A4000i」に試乗してきました - GIGAZINE

奇抜な見た目を裏切る異次元の乗り心地の自転車サドル「Infinity Seat」試乗レビュー - GIGAZINE

折りたたんでどこでも持ち運べる公道走行OKの電動スクーター「ScootMan」に乗ってみました - GIGAZINE

テスラ「モデルS」に試乗ができる期間限定のショールーム「大阪 Temporary Store」に行ってきました - GIGAZINE

わずか3秒で0-100km/h加速が可能というテスラ「モデルS」「モデルX」試乗レポート、その驚異的な加速ぶりを体験してきました - GIGAZINE

栃木で開発中の世界最高加速のモンスターEV「アウル(Owl)」の実走行試験に行ってきました - GIGAZINE

ニュル最速をたたき出した世界最速スーパーカー「ランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテ」試乗レビュー、クルマ好きを虜にする魔の魅力とは? - GIGAZINE

in 取材,   インタビュー,   乗り物, Posted by log1o_hf

You can read the machine translated English article here.