サイエンス

オックスフォード大が「有効性77%のマラリアワクチン」を開発、これまでで最も効果が高いマラリアワクチン

by Ryszard

イギリスのオックスフォード大学が2021年4月23日に、マラリアワクチンの候補として研究が進められていた「R21/Matrix-M」の臨床試験で、77%の有効性が確認されたと発表しました。このワクチンは、世界保健機関(WHO)がマラリアワクチンの有効性目標として設定した「最低75%」を満たす初めてのワクチンであることから、世界的なマラリア対策の取り組みが大きく前進すると期待されています。

Malaria vaccine becomes first to achieve WHO-specified 75% efficacy goal | University of Oxford
https://www.ox.ac.uk/news/2021-04-23-malaria-vaccine-becomes-first-achieve-who-specified-75-efficacy-goal

マラリアは、寄生虫であるマラリア原虫に感染することにより発熱や頭痛などの症状を呈し、最悪の場合は死に至る感染症です。2018年には、世界で40万5000人がマラリアにより死亡したと推定されています。

以下は、貧困や病気などについて世界規模で調査しているOur World in Dataが作成した、2017年における人口10万人当たりのマラリアの死亡者数を国ごとに色分けした地図です。マラリアは、熱帯性の蚊によって媒介されることから、死亡者数が多いことを示す色が濃い地域はアフリカや南アジアに集中しています。

by Our World in Data

なお、日本におけるマラリアでの年間死亡者数はゼロですが、環境省は「現在の社会・衛生状況が維持される限りにおいては、デング熱、マラリア等が現実に再流行する可能性は小さいと考えられる。しかしながら、生物学的観点からみて、媒介蚊の生息域拡大は確実であり、地球温暖化に伴う潜在リスクは大きいと考えられる」と(PDFファイル)述べています

また、以下は1990年~2017年までのマラリアの死亡者数を年齢層ごとにわけたグラフです。5歳未満を示す青色の層が最も多いことから、生後間もない子どもが犠牲になるケースが圧倒的に多いことが分かります。

by Our World in Data

こうしたマラリアの被害を食い止めるため、オックスフォード大学と製薬会社のNovavaxSerum Institute of India(SII)らは、マラリアワクチン「R21/Matrix-M」を開発・製造し、その有効性を確かめる臨床試験を実施しました。

臨床試験は、西アフリカに位置するブルキナファソで、生後5〜17カ月の子ども450人を対象に実施されました。参加者らは、「R21/Matrix-M」のアジュバントを高容量と低容量で投与されたグループと、対照群として狂犬病ワクチンを投与されたグループの3つに分けられました。

そして、投与から12カ月後に行われた追跡調査により、ワクチンが高容量で投与されたグループで77%、低容量で投与されたグループで71%の有効性が確認され、重篤な有害事象も確認されなかったとのことです。


論文の共著者である、オックスフォード大学ジェンナー研究所のエイドリアン・ヒル所長は「臨床試験により、我々のワクチンはWHOが目標としている最低75%の有効性に初めて到達したのではないかという期待を裏打ちする証拠が得られました。商業パートナーであるSIIが、今後数年間以内に少なくとも年間2億回分のワクチンを製造できるようにすると約束していることから、このワクチンが認可されれば公衆衛生に大きな影響を与える可能性があります」と述べました。

マラリアの年間症例数は、2018年の時点で2億2800万件であることから、「R21/Matrix-M」の生産と配布が本格的に行われれば、マラリアの危険性にさらされている人の大半が予防接種を受ける事ができるようになると考えられます。

オックスフォード大学らの研究チームは今後、アフリカ4カ国に住む生後5~36カ月の子ども4800人を対象としたより大規模な臨床試験を行い、ワクチンの安全性と有効性を調べる予定です。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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