絶滅危惧種の鳥が「先祖代々受け継いできた歌」を失いつつあると判明
by Valentin
人間の子どもが大人から学ぶのと同様に、動物も同じ種の経験豊富な個体からさまざまな生存と繁殖に必要な行動を学びます。鳥の「歌」も世代から世代へと受け継がれる重要な行動の一つですが、生物多様性の損失に伴う個体数の減少により、オーストラリアに生息する絶滅危惧種のキガオミツスイが受け継いできた「歌」が失われつつあることを研究者が明らかにしました。
Loss of vocal culture and fitness costs in a critically endangered songbird | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.0225
Only the lonely: an endangered bird is forgetting its song as the species dies out
https://theconversation.com/only-the-lonely-an-endangered-bird-is-forgetting-its-song-as-the-species-dies-out-156950
キガオミツスイはユーカリやヤドリギの蜜、果物などを食べるオーストラリア固有種の鳥であり、かつてはオーストラリア東部の森林地帯で広く見られる種でした。ところが、近年では生息地の減少などによって急速に姿を消しつつあり、ニューサウスウェールズ州の一部と飼育下でのみ生息しているとのこと。
そんなキガオミツスイは、特徴的で柔らかい響きの歌で知られていましたが、野生に残された種の減少に伴って先祖代々受け継いできた歌が失われつつあるそうです。研究チームがキガオミツスイの歌について調査した内容は、以下のムービーを見るとよくわかります。
An endangered bird is forgetting its song as the species dies out | Video Abstract - YouTube
人間の言葉と同様に鳥は経験豊富な仲間の声を聞いて歌を学習しており、多くの種では約1年かかって習得するとのこと。
適切な歌を学ぶことは、営巣地とパートナーを獲得する上で重要な役割を果たしています。ところが、近年では開発や気候変動に伴って生物多様性が脅かされており、絶滅危惧種が大事な文化を失ってしまう可能性が懸念されているとのこと。
個体数の減少が野生動物の文化喪失につながるとの証拠を見つけるため、オーストラリア国立大学のロバート・ヘインソーン教授らの研究チームは個体数の減少が著しいキガオミツスイを対象にした調査を行いました。
今や絶滅危惧種となっているキガオミツスイは、1930年代ごろにはシドニーやメルボルンの郊外で一般的に見られる鳥だったとのこと。
ところが、人間によって生息地の森林が切り開かれた結果、過去50年間で個体数が激減してしまいました。
記事作成時点ではニューサウスウェールズ州の一部にしか生息しておらず、多く見積もっても野生の個体数は300羽未満だそうです。
研究チームは2015~2019年にかけて野生のキガオミツスイを追跡して、合計47羽の鳴き声を録音し……
飼育下の個体の鳴き声も含めて合計146羽の鳴き声を分析したとのこと。
その結果、同じ野生のキガオミツスイであっても、生息する範囲によって歌が違うことが判明。
ブルーマウンテンズと呼ばれる地域に生息するキガオミツスイの歌と……
ノーザンテーブルランズに生息するキガオミツスイの歌は、素人が聞いても明確に違いがわかります。
さらに、野生のキガオミツスイのうち18羽は、オーストラリアに生息するハイガシラミツスイやズグロハゲミツスイ、ヒメハゲミツスイ、フエガラス、ナナクサインコなど、別の鳥類の歌を学んでしまったことも判明。12%もの個体が別の鳥の歌を歌っているという事態は、野生の個体群において前例がないとのこと。
これらのキガオミツスイは個体数の密度が低い場所で発生しやすかったそうで、近くに手本となる個体がいないと歌の文化が失われてしまうことが示唆されました。
また、たとえ正しいキガオミツスイの歌を受け継いだ個体であっても、時間の経過と共に歌の複雑さが減っていることもわかったそうです。
研究チームが鳴き声を収集したキガオミツスイを調べたところ、通常とは違う歌を持つ個体は、正しい歌を持つ個体と比較してつがいになる可能性が低かったとのこと。そのため、正しい歌が失われてしまうことは絶滅の危機を加速させる要因にもなり得ます。
さらに、飼育下の個体は野生の個体と違う歌を持っていることも判明したことから、飼育下で繁殖したオスが野生のメスとうまく繁殖できるかどうかも課題となります。
研究チームは今回の結果を踏まえ、ブルーマウンテンズに生息するキガオミツスイから録音した「正しい歌」を飼育下の個体に聞かせることで、正しい文化を伝える試みを行っているとのことです。
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