ケチャップが容器の底に残るのは「非ニュートン流体」になるようにわざと設計されているため
by Steve Johnson
完熟トマトを加熱してからろ過し、低温で煮詰めてから砂糖・塩・酢などを加えてできる「ケチャップ」は、ホットドッグやソーセージ、オムレツ、フライドポテトなどと相性抜群の調味料ですが、「容器の底に残る」という悪名高い欠陥が存在します。そんなケチャップの欠陥は「非ニュートン流体」という物理現象によって引き起こされているとして、大衆系科学誌Scientific Americanが解説しています。
Ketchup Is Not Just a Condiment: It Is Also a Non-Newtonian Fluid - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/ketchup-is-not-just-a-condiment-it-is-also-a-non-newtonian-fluid/
例えばマーガリンは容器に入った状態では、逆さにしてもこぼれ落ちたりしません。その様子を見ると「固いのでは?」と思ってしまいますが、バターナイフを入れるとスッと刃が通り、ほとんど力を入れることなくすくい取れる柔らかい物質であることに気がつきます。
この現象は、マーガリンが「かける力によって粘度が変わる」という性質を有していることが原因です。マーガリンはかかる力が小さい場合には強力な粘度を持っていますが、かかる力が大きい場合には粘度が低くなります。流体力学では、与える力によって粘度のかわらない物を「ニュートン流体」、マーガリンのように加える力によって粘度が変わるものを「非ニュートン流体」と呼び、別個のものとして扱います。
ケチャップが容器の底に残るというのも、ケチャップに増粘剤と呼ばれるポリマーを添加して非ニュートン流体化していることが原因。ポリマーは複数の分子が結合して形成された高分子で、流体の中では絡み合って強い粘度を発揮しますが、強い力をかけると絡み合いがほどけて粘度が低下します。この性質が、非ニュートン流体状態を生み出しているとのこと。
ケチャップがわざわざ非ニュートン流体になるように設計されているのは、その用法と食感のため。力をかけていない状態で粘度が高いというのは、「食材にかけたときに溶けて落ちない」という用法を可能にし、力をかけた状態で粘度が低いというのは、「かむと口の中で溶け出す」という食感を生み出します。ケチャップは非ニュートン流体になるように設計されているため、ホットドッグなどにかけたときには手や衣服に溶けて流れ落ちず、口の中に入れて初めて溶け出すというわけです。
ケチャップ以外では、シャンプーも非ニュートン流体になるように設計されている日用品です。シャンプーが手のひらに落とした時点では粘度を保持し、髪にこすりつけると粘度を失って髪全体になじむというのは、非ニュートン流体の性質を利用しているため。このほかにも、歯磨き粉も同様です。
なお、現代のケチャップはプラスチック製の容器が主流ですが、かつてはガラス製の容器しか存在せず、よりたくさんの量が底にこびりついていました。現代のプラスチック製容器について、Scientific Americanは「取り扱いが便利になったものの、ソースをボトルから取り出す際のスポーツ性とキレイに取り出せたときの快感は失われてしまいました」とコメントしています。
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