なぜ若者の収入は減り続けているのか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、世界各地で多くの人が収入が減少する事態に直面しています。しかし、オーストラリアでは、COVID-19流行以前から若者の収入が減少していたとして、その原因を政府生産性委員会が調査しています。
Why Did Young People’s Incomes Decline? - Productivity Commission
https://www.pc.gov.au/research/completed/youth-income-decline
Why young people are earning less
https://theconversation.com/why-young-people-are-earning-less-143549
新型コロナウイルスの流行によって多くの若者が金銭的な危機に面していることが懸念されていますが、新型コロナウイルスの流行以前に既に若者の所得減少という問題は発生していたと、メルボルン大学の経済学者であるジェフ・ボーランド氏は指摘します。
以下は左が2001年から2008年、右が2008年から2018年の各世代の所得の成長率を示します。縦軸は毎年の可処分所得の平均成長率をパーセンテージで示し、青いグラフが15~24歳、緑のグラフが25~34歳、黄色いグラフが35~44歳、茶色のグラフが45~54歳、オレンジのグラフが55~64歳、赤いグラフが65歳以上を示します。2001年から2008年は全ての年齢層で可処分所得の増加がみられましたが、2008年から2018年は35歳以上が増加しているにも関わらず、15~34歳は減少傾向にあります。
基本的に所得は「労働所得」「移転所得」、そして親からの支払いや投資による収入といった「雑所得」にわけられます。オーストラリア政府が2020年7月に発表した報告書によると、若者の収入減少の原因の4分の3は、上記のうち労働所得によるものとのこと。なお、残り4分の1は移転所得の減少にあると報告されています。
若者の所得が減少した原因の1つは2007年のリーマン・ショックに端を発する世界金融危機にあると、オーストラリア政府生産性委員会のキャサリン・デ・フォンタネイ氏は述べています。世界金融危機によって労働市場が激化し、企業が設定する初任給が低くなり、人々はフルタイムではなくパートタイムで働くことを余儀なくされるようになりました。
「時給の伸びの鈍化」、そしてパートタイムによる「労働時間の減少」という、2つが重なることによって若者はフルタイムの職につくのが難しくなりました。1990年代初頭以降、働きたい人口の割合は増加していますが、金融危機によって仕事の数は減少傾向に転じたため、労働市場に入ったばかりの若者が不利な立場に立たされることになったわけです。そして、キャリアの初期に賃金の低い仕事を余儀なくされた若者は、その後、よりよい仕事を得られる可能性が少なくなりました。
一方、近年はテクノロジー系のスタートアップが増加していることから、雇われることが難しくても、若者は自分で事業を興していると考える人がいるかもしれません。しかし、生産性委員会によると、2001年~2008年は若者の事業所得は増加傾向にあったものの、2008年~2018年は、45歳以上の事業所得は増加している一方で、45歳未満の事業所得の成長率は大きく減少しているとのこと。以下のグラフは縦軸が事業所得の成長率、グラフは左から20~24歳、25~34歳、35~44歳、45~54歳、55~64歳、65歳以上を示します。水色が2001~2008年、青色が2008~2018年です。2008~2018年において、特に20~24歳はマイナス11%と大きな減少率を経験しています。
研究者は、金融危機以降は若者が事業収入を得ても、多くは低賃金産業による収入であったことからこのような変化が起こったとみています。
労働市場が弱体化すると若者にしわ寄せが来るという世界金融危機の経験から学び、新型コロナウイルス流行が経済に打撃を与えた際にも、若者を経済的に支援し、事業をより起こしやすいよう政策を行っていくべきだと研究者らは考えています。
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