案内標識の情報不足を勝手に書き足して補っていたアート「ゲリラ公共サービス」

道路にはいろいろな情報を表示する標識が設置されていますが、「もうちょっと情報を書いてくれていれば道を間違えなかったのに」という事態に遭遇することもあります。実際に、道を間違えてしまった経験のあるアーティストは、その道間違えの原因が高速道路の案内標識の情報不足だったことに気づいて、「ゲリラ公共サービス」として看板に情報を書き足してしまいました。

freeway signs
http://ankrom.org/freeway_signs.html

Guerrilla Public Service Redux - 99% Invisible
https://99percentinvisible.org/episode/guerrilla-public-service/

1980年ごろ、カリフォルニア州南部のオレンジ郡に住んでいたリチャード・アンクロムさんは、ロサンゼルスを東西に分ける110フリーウェイ(アローヨ・セコ・パークウェイ)を車で走っていて、州間高速道路5号線の北行きに入ろうと思っていました。しかし出口を見逃して、道に迷ってしまいました。

それから数年後、ロサンゼルスのダウンタウンに引っ越したアンクロムさんは、110フリーウェイを走行中、以前道に迷ったのがなぜだったのか、案内標識を見上げてその理由が「州間高速5号北行きへの表示がなかったから」ということに気付きました。アーティストのアンクロムさんは「それなら、自分が情報不足を補おう」と考えて、標識の不足情報を自分で作って貼り付けることにしました。これが「ゲリラ公共サービス」というわけです。

計画の一部始終は、YouTubeでムービーとして公開されています。

Guerrilla Public Service 2011 - YouTube

アンクロムさんが走っていた110フリーウェイは、ロサンゼルスの海岸地区にあるサンペドロとロサンゼルス北東のパサデナを結ぶフリーウェイです。

一方、アンクロムさんが入りたかった州間高速道路5号線は北はカナダ国境からワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州と通過して、南はメキシコ国境までつながっている道路。

当時、110フリーウェイをサンペドロ方面から走っていたアンクロムさんは、州間高速道路5号線の北行きに入りたかったのですが、110フリーウェイに取り付けられた案内標識にはパサデナ行きの表示はあっても「州間高速道路5号線北行き」の表示はありませんでした。

「ここに5号線北行きのマークが必要だ」と考えたアンクロムさん。交通局に任せることなく、自分で情報を書き足すことにしました。

そうなってくるとまず必要なのは、標識のデザイン情報。アンクロムさんはインターネットでどういった規格なのかを事前調査。

そして、実際の看板のところへ足を運び……

カラーチャートで色をチェック。

5号線のマークが描かれているほかの標識のところへ行って、実寸を計測中。

まずはデザインの原本を作成したアンクロムさん。

OHPを使って……

実寸大の型を作ります。

看板のもとになるアルミ板をカット。

レタリングして……

着色。

マスキングテープを剥がします。

反射板を取り付けたら完成。

仕上げとして、ヘルメットなどを購入。

車には工事会社を装ったステッカーを貼り付けます。

これで、あくまで「交通局の仕事をしているだけ」という姿を装います。

作業中のアンクロムさん。どうみても、本物の作業員にしか見えません。

標識に追加された「NORTH INTERSTATE 5」の表示。

取り付け作業はわずか30分以内で完了。

この「5号線」表示がアンクロムさんらの作ったものであることは、しばらくは仲間内のみで伏せられてきましたが、9カ月後に仲間の1人が地元紙に話をしたことで、カリフォルニア州交通局の耳に入ることになります。アンクロムさんは表示部分は交通局によって取り外されて送り返されてくるかもしれないと考えましたが、厳密な計測と作業のおかげで、アンクロムさんの仕事は交通局の基準を満たしたものだったため、8年以上にわたってそのまま使い続けられました。

その後、定期メンテナンスによってアンクロムさんが表示を付け足した案内標識は取り外され、改めて、5号線北行きの情報が追加された新しい案内標識が取り付けられたとのことです。

新しい案内標識はこんな感じで、「NORTH INTERSTATE 5」の表記が大きくなっています。


なお、Googleストリートビューのタイムマシン機能で2009年2月に遡ると、交換前の案内標識が確認できます。まさに、アンクロムさんが追加したものと思われる標識がコレです。


上記地点よりちょっと北側の同時期(2009年2月)のストリートビューだと、アンクロムさんが作業をしなかったのか、それとも場所によっては取り外されたのか、5号線表記なしで「パサデナ行き」のみの標識も見られます。