ファンによる二次創作は18世紀頃から現代と同じく性的なものが多かった
日本ではアニメやマンガ、ゲームなどの二次創作が盛んですが、海外でも「ファン・フィクション」として、原作者ではなくファンによる二次創作が古くから行われてきました。海外ではハリー・ポッターの二次創作などが人気ですが、なんと1700年代頃から海外では二次創作が行われており、当時のものは現代のものと同じくらい「性的で下劣な物語」が多かったとThe Atlanticがまとめています。
The Surprising 18th-Century Origins of Fan Fiction - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/culture/archive/2020/02/surprising-18th-century-origins-fan-fiction/606532/
海外ではひと昔前まで、インターネット上で二次創作を共有することは、他人の作り出した作品やキャラクターを汚す行為とされてきたそうですが、今やそのようなことはなく、日本と同じように多数の二次創作作品がSNSや個人のブログなどさまざまな場所に溢れています。
運営から10年以上が経過した、ファンによる二次創作作品をまとめるArchive of Our Ownというサイト上には、500万件以上のファンによる二次創作作品が存在します。同サイトは2019年に、サイエンスフィクションやファンタジー作品への貢献が認められ、ヒューゴー賞を受賞するほどに世間から認められる存在となりました。また、「プリンセス・ダイアリー」シリーズのメグ・キャボットや、「テメレア戦記」シリーズのナオミ・ノヴィクといった著名作家も、二次創作出身の作家として知られており、海外で二次創作という分野が着実に普及していることがわかります。
インターネットやSNSの登場により爆発的に普及していった感のある二次創作ですが、その歴史は何世紀にもおよびます。偉大な古典文学のいくつかは二次創作作品のようなものであるとThe Atlanticは主張しており、例えば、トム・ストッパードの戯曲「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」はシェイクスピアの「ハムレット」の二次創作のようなものであるとしています。
また、少なくとも18世紀には英語圏で現代の二次創作のような作品が複数登場するようになっていたともThe Atlanticは記しています。学界以外では二次創作の歴史的背景はあまり議論されていませんが、「自分の好きなキャラクターの冒険を拡張するため、自身で物語の続きを書く」といった行為は古くから行われてきたことが確認されているとのこと。
特に、1726年に出版されたジョナサン・スウィフトによる風刺小説の「ガリヴァー旅行記」は、ファンによる二次創作の記録がしっかりと残っているそうです。ガリヴァー旅行記が出版されて間もなく、読者たちは主人公であるガリヴァーの冒険を妄想しており、実際にいくつかの「ファンアート」が残っています。
18世紀を代表するイギリスの国民的画家であるウィリアム・ホガースは、ガリヴァーがおしりに注射を刺された様子を描いています。
他にも、18世紀に活躍した詩人のアレキサンダー・ポープは、ガリヴァー夫人による詩を創作しています。当然ですが、ガリヴァー旅行記の二次創作を作ったのは著名な作家だけではありません。何百人ものファンがガリヴァーの冒険を妄想したり、その背景を想像したりして、二次創作作品を生み出しています。
1740年に出版されたサミュエル・リチャードソンの「パミラ、あるいは淑徳の報い」は、美しい小間使いが好色な若主人の性的誘惑をはねつけ、改心した若主人と結婚して地主夫人の地位に上り詰めるという作品。同作の二次創作では、パミラについて性的な妄想を膨らますような作品が多く存在しており、小説家であり治安判事でもあったヘンリー・フィールディングは、「パミラ、あるいは淑徳の報い」があまりに偽善的だと反発し、性的にふしだらなパミラを描いたパロディ作品の「シャミラ」と「ジョゼフ・アンドルーズ」を出版しています。初期の二次創作作品はお粗末なものもあったものの、いくつかは非常に大きな人気を得ており、The Atlanticは「フィールディングは現代のE. L. ジェームズ(フィフティ・シェイズ・オブ・グレイの原作者)であり、何千人もの読者に支持されていた」と指摘。
なお、日本語版のシャミラは1985年に朝日出版社からリリースされており、Amazon.co.jpでは中古のものが1万3115円で販売されています。
シャミラ | ヘンリー・フィールディング, 能口 盾彦 |本 | 通販 | Amazon
18世紀の二次創作界隈について、The Atlanticは「ヨーロッパ全土で起きた、扱いにくいものの熱狂的で自己選択的な読者コミュニティであり、本質的には現代のArchive of Our Ownのようなもの」と表現しています。当時の二次創作作品は、即座に共有したりコメントしたりするのは現在ほど簡単ではありませんでしたが、1900年代には中産階級の間でリテラシーが向上したことで、より広く親しまれるようになったそうです。
やがて、二次創作作品ではなく原作の著者側が二次創作コミュニティを活用し、商業的な可能性を模索し始めます。例えば、サミュエル・リチャードソンは熱心な読者と頻繁にやり取りし、時には読者の意見を作品の中に取り込むこともあったそうです。The Atlanticは「おそらくこれは、観客と彼らの空想を抑制する試みでした」と語り、他人が自身の著作物から利益を得ようとすることを防ごうという作者の試みであると指摘しています。
他にも、18世紀には産業革命が人々の結婚観に変化をもたらしたため、当時の作品には柔軟でありながら現実的なキャラクター性が求められました。サミュエル・リチャードソンの作品である「クラリッサ」で、リチャードソンは「誰と結婚するかは、複雑な社会的・経済的・道徳的な選択であり、生涯にわたり影響をもたらす」として、結婚に関する決定のあらゆる側面を長々と描写しています。それに対して、読者は作者の主張が間違ったものであると主張することに熱心で、クラリッサが別のパートナーを作り原作とは異なる結末を迎えるような二次創作作品を多数生み出しました。
現代でも作品の結末に不満を持ったファンが原作とは異なる結末を迎える二次創作作品を作り出すケースがあります。スター・ウォーズシリーズの続三部作の結末に不満を持ったファンがエンディングを書き直すなど、その事例は枚挙にいとまがありません。
作品としての良し悪しは個人個人が決めるべきものですが、二次創作作品のプラットフォームであるArchive of Our Ownがヒューゴー賞を受賞したことは、18世紀から続いてきた二次創作の重要性を示すものだとThe Atlanticは記しています。
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