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地図アプリやカーナビなどに欠かせない衛星測位システム「GPS」はいかにして誕生したのか?

by DragonImages

スマートフォンの位置情報を使ったさまざまな機能や、カーナビゲーションの根幹であるGPSは、いまや人々の生活に欠かせない技術です。そんなGPSに関する情報を専門に扱うニュースサイトGPS Worldが、GPSがいかに誕生したかを解説しています。

The Origins of GPS, and the Pioneers Who Launched the System - GPS World : GPS World
https://www.gpsworld.com/origins-gps-part-1/

GPSはアメリカが運用している衛星測位システムですが、その発端となったのは1957年10月4日にソビエト連邦が打ち上げた人類初の人工衛星であるスプートニク1号でした。宇宙開発でソ連に先を越されたアメリカは、多数の研究者を動員してスプートニク1号の分析に当たりました。その中に、GPSの誕生に非常に大きな役割を果たしたジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所(APL)の物理学者であるWilliam Guier氏とGeorge Weiffenbach氏もいました。

by NASA-Imagery

スプートニク1号が一定間隔で信号を発信していることに着目したGuier氏とWeiffenbach氏は、この信号と地表との相対速度により生じるドップラー効果を利用すれば、スプートニク1号の軌道を正確に特定できることを発見します。さらに、同じくAPLの物理学者であるFrank McClure氏が、「既に軌道が分かっている人工衛星の信号を使えば、自分が地球上のどこにいるか分かるはずだ」と提案。この逆転の発想が、GPSの出発点となりました。

当時ソ連との冷戦下にあったアメリカは、核抑止の中心を担うミサイル潜水艦の開発と配備を進めていましたが、潜水艦が広大な海の一体どこに存在しているかを把握するには正確な位置情報が必要不可欠でした。そこで、APLの宇宙局長であるDick Kershner氏が主導して、人工衛星「トランシット」の開発がスタートしました。1959年9月に打ち上げられた「トランシット1A」は軌道への到達に失敗したものの、続く「トランシット1B」は成功を収め、1964年から本格的な運用が開始されました。

トランシットの位置測定誤差は25メートルほどで、利用者が移動していた場合は速度を正確に把握する必要があり、速度が1ノット(時速1.852km)ずれただけで測定結果が0.2カイリ(370.4m)もずれてしまうことがありました。また、3次元的に位置情報を把握できるGPSとは違い、トランシットは2次元の座標を特定できるのみです。


トランシットの利用中は海抜0mの海面にアンテナを出していた潜水艦とは違い、起伏のある地上に展開する部隊や空を飛ぶ航空機が正確に現在地を把握するには、高さも加味した3次元的な位置情報が必要です。1962年に、3次元での位置情報の重要性に最初に気づいたのは、航空宇宙技術の開発を目的とした非営利団体The Aerospace CorporationのCEOであるIvan Getting氏でした。元軍人だったGetting氏が、人脈を駆使してアメリカ国防総省(ペンタゴン)に猛烈な働きかけを行った結果、アメリカ空軍が新しい衛星航法技術開発プロジェクト「Program 621B」をスタートさせます。この「Program 621B」が、後のGPSの原型となりました。Getting氏はこの功績により、後にGPSの開発で重要な役割を果たすBradford Parkinson氏とともに2003年のチャールズ・スターク・ドレイパー賞を受賞しています。

「Program 621B」で中心的な役割を果たしたのが、The Aerospace Corporationの研究者であるJames Woodford氏とHideyoshi Nakamura氏です。両氏は1966年に軍事機密として極秘裏にペンタゴンに提出された「Woodford/Nakamuraレポート」で、4つの人工衛星により3次元の座標と時間を測定する「3Δρ(トリプル・デルタ・ロー)」という手法を提唱しました。この手法により、3次元の位置情報を入手する理論が確立されましたが、その実現には技術的な課題が山積していました。というのも、この手法を実現させようとすると、人工衛星に原子時計を搭載させる必要がありましたが、当時は宇宙で使用可能な原子時計は存在していませんでした。

左からIvan Getting氏・Hideyoshi Nakamura氏・James Woodford氏。


アメリカ空軍が「Program 621B」を進めている一方で、アメリカ海軍研究所(NRL)も独自のプロジェクトを展開していました。それが、NRLの研究者であるロジャー・イーストン氏の指揮の下でスタートした「Timation project」です。イーストン氏は、「Timation」で重要な中心的な役割を担った功績により、2010年に全米発明家殿堂入りを果たしました。

「Timation project」では合計4つの人工衛星が打ち上げられました。1967年5月27日に最初に打ち上げられた「Timation 1」は非常に安定性の高いクォーツ時計を搭載していましたが、太陽嵐により周波数が変わってしまうという問題に直面しました。また、「Timation 1」の失敗により、衛星が発射した信号は電離層の影響を受けて遅延を起こすということも明らかになりました。このため、1969年9月30日に打ち上げられた「Timation 2」には2つの異なる周波数信号を発する水晶振動子を搭載し、電離層で信号が遅延する問題の解決を図りましたが、太陽嵐の影響は免れませんでした。

NRLはその後、2基の軽量ルビジウム発振器を搭載した「Timation NTS-1」を1974年7月に、セシウム原子時計を搭載した「Timation NTS-2」を1977年6月に打ち上げて、宇宙における原子時計の運用実績を蓄積していきました。


空軍主導の「Program 621B」が理論面で、海軍主導の「Timation project」が技術面で成果を挙げる一方で、2つの異なるプロジェクトが多大な予算を要求するということは、ペンタゴンにとって頭の痛い問題でした。そんな中、行き詰まりを迎えつつあった「Program 621B」のトップに就任したParkinson氏は、1973年9月にペンタゴンに直接出向いて、「『Program 621B』により、利用者が原子時計を持たなくても使える3次元の位置情報機能が実現する」「NRLの『Timation project』が衛星に搭載した原子時計は比較的安定しており、『Program 621B』が進めている地上で信号をリレーする方式に替わるものである」と報告し、2つのプロジェクトを統合した新プロジェクトを提案しました。この新プロジェクトこそが、GPS開発プロジェクトです。Parkinson氏の提案は、1973年12月14日に正式に承認され、海空軍のプロジェクトを統合する「GPS統合プログラム局(GPS Joint Program Office/JPO)」が発足。JPOの元にはアメリカ全土からえりすぐりの頭脳が集められ、GPSの開発にまい進していくことになります。

JPOは1978年2月22日に第1世代のGPS衛星「Navstar 1」を打ち上げたのを皮切りに、1985年までに10基の衛星を打ち上げて初期のGPSを完成させました。その後、退役した人工衛星を含めると、2019年8月22日までに合計74基の人工衛星が打ち上げられており、これらの人工衛星により構築されたGPSは、JPOを前身としたグローバル・ポジショニング・システム航空団により、記事作成時点も運用が続けられています。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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