音で周囲を知覚する盲目の人は「音で見る」ように脳が変化しているという研究結果
By Ryoji Iwata
盲目の人の中には、イルカやコウモリのようにエコーロケーション(反響定位)で周囲を知覚している人もいます。そんな盲目の人の脳が音を聞くときには視覚に関する脳の部位である視覚野が稼働しているという研究結果が発表されています。
Retinotopic-like maps of spatial sound in primary ‘visual’ cortex of blind human echolocators | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2019.1910
Neuroscientists See Unique Brain Changes in Blind People Who Learn to 'See' With Sound
https://www.sciencealert.com/blind-people-who-echolocate-can-see-with-sound-using-an-adapted-visual-cortex
エコーロケーションは、音の反響を使って周囲の物体の位置を知覚するという行為で、特にイルカやコウモリがエコーロケーションを使用する生き物として知られています。そんなエコーロケーションは、盲目の人が訓練によって習得することが可能です。
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人間のエコーロケーションについて、脳をスキャンして画像化するニューロイメージングの研究が始まったのは2011年のこと。2011年の研究ですでに、エコーロケーションによって脳が刺激されると、視覚野と聴覚野が連動することと、エコーロケーションが視覚野のみを活性化させることが示されていました。
今回発表されたイギリスのダラム大学心理学部リアム・ノーマンさんとロア・セイラーさんの研究は、舌を鳴らすことでエコーロケーションを行う盲目の人の脳に関するものです。実験では、エコーロケーションを習得した盲目の5人と、エコーロケーションを使えない盲目の5人、そして目の見える5人に、それぞれ「部屋の中にある物体からの反響音」を聞いてもらい、「反響音がどの方向から来たか」を考えてもらいました。
ニューロイメージングで脳の活動を画像化した結果、エコーロケーションのエキスパートである盲目の人が音を聞いたときの脳の活動は、目が見える人が物を見たときの脳の活動に匹敵し、エコーロケーションを使えない盲目の人とは全く異なる脳の活動をしているとわかりました。エコーロケーションが熟練した人ほど、脳の活動は物を見ているときの活動に近かったそうです。
研究グループは「エコーロケーションを使える盲目の人と使えない盲目の人を比較することによって、この脳の変化が『目が見えない』ことが原因ではないということが示されました」と述べており、「人間の脳機能の解釈において極めて重要です」とコメントしています。
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