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超ニッチな製品を適切な価格で売るには「ヴィックリー・オークション」が有効だという主張

by succo

超ニッチな製品には熱烈なファンがついていることがあるものの、市場の小ささから適切な販売価格を見極めるのは難しいものです。そんな超ニッチな製品の適正価格を発見するには「オークションが有効である」と、ソフトウェア開発者でありデザイナーでもあるKevin Lynagh氏が述べています。

Pricing niche products: Why sell a mechanical keyboard kit for $1,668?
https://kevinlynagh.com/notes/pricing-niche-products/

Lynagh氏はある日、「キーボード製作キット」の設計・販売を行うKeycultという企業を運営する友人のもとを尋ねました。キーボード製作キットとはその名の通りキーボードの部品を集めたキットで、ユーザーはキットを購入して自分でキーボードを組み立てます。キットで作ることができるキーボードは、機械式スイッチと金属製バネなどの部品から作られるメカニカルキーボードと同様、高いカスタマイズ性があります。

メカニカルキーボードはゲーマーやソフトウェア開発者向けに人気があり、小売店で50ドル(約5400円)~200ドル(約2万1500円)の完成品が購入可能ですが、ニッチなマニア市場として、前述した「キーボード製作キットを購入して自分で組み立てる」という需要が存在するそうです。この分野のユーザーらはr/MechanicalKeyboardsGeekHackといったネットフォーラム上で、写真やムービーの共有やレアなアイテムの交換、キーの感触を改善する方法についての議論などを行っているとのこと。

Lynagh氏はこのニッチな分野についてほとんど知りませんでしたが、友人はLynagh氏の訪問中にKeycultのキーボード製作キットをリストアップし、ネット上で販売を開始しました。リストには全部で60のキーボード製作キットがあったそうですが、1個あたり500ドル(約5万4000円)で販売した各キットは、わずか数分で売り切れたそうです。この様子を見て、「500ドルという価格は需要に対して明らかに安すぎる」と感じたLynagh氏は、より適切な価格を発見する方法について考え始めました。

by A. TSF

主にキーボード製作キットのコミュニティでは一部の作成者が新作のキーボード製作キットをデザインし、フォーラムに3DCGモデルを投稿します。そしてフォーラム中で一定数以上の出資者が集まった場合、中国の契約工場に対して製作を依頼するとのこと。

この過程では、作成者のPayPalアカウントにいきなり大量の入金があったことで詐欺と疑われてアカウントが停止されたり、工場から出荷された製品が要求と違ったりと、さまざまな困難が発生するケースも多く存在します。その間、フォーラム上では数カ月にわたって出資者の苛立った書き込みなどが投稿されるとのこと。一方で、Keycultはキーボード製作キットの販売についてのノウハウがあり、実績と信頼を得ている点を考えても、より高い価格設定が可能だとLynagh氏は判断しました。

価格設定のアプローチとしては、「設計および製造コスト」「企業としてのリスク管理に必要なコスト」「美的観点やブランド価値」を考慮して、企業側が価格を設定する方法が一般的です。しかし、Lynagh氏はブランド価値が主観的なものである点や、Keycult側が一気にキーボード製作キットの価格を上げると反発を招く可能性、適切案価格を見誤って大量の在庫を残してしまう危険性などから、このアプローチを採用しませんでした。

by Bru-nO

Lynagh氏は「販売者が価格を決定するのではなく、ユーザーに価格を決定してもらうことにより、市場におけるキーボード製作キットの価値をより正確につかむことができる」という考えから、オークションの一種である「ヴィックリー・オークション」を使って価格を決定することを提案しました。ヴィックリー・オークションとは、他の人の入札価格を知らされない状況で参加者らが入札価格を決定し、最も高い価格で入札した人が、「2番目に高い入札価格」で商品を購入するという方式です。この方法は「参加者各自が思う真の価値で入札する動機づけが強い」と考えられています。

今回Keycultが実施したヴィックリー・オークションでは、10個のキーボード製作キットが対象となりました。ユーザーはオークション開始から24時間以内に入札価格を決定してKeycultにメールで送信し、Keycultが入札価格を確認。入札価格が高額だった上位10人の入札者がキーボード製作キットを落札し、10人全員が「11番目に高かった落札価格」で購入するという仕組みでした。


ヴィックリー・オークションを用いることにより、Keycultではなく市場が価格を設定できるほか、全ての購入者が入札価格よりも低い価格で購入可能で、「結果的に得した気分」を味わえるとLynagh氏は述べています。

実際にKeycultが実施したオークションの結果がこれ。10個のキーボード製作キットに対して入札者は198人、平均入札額は892.43ドル(約9万5000円)となっており、実際の販売価格となった11番目の落札額はなんと1668ドル(約17万8000円)という結果になりました。左の表が上位入札者の設定した価格を表しており、右のグラフは入札結果から作成された需要曲線です。


結果的に、以前の販売価格であった500ドルの3倍以上の価格が付いたことになり、確かにLynagh氏の推測どおり、Keycultの販売価格は需要に対して安すぎたことがわかります。また、中でも最高額の入札者は2684ドル(約28万7000円)もの価格を付けています。今回の結果を受けて、Keycultはキーボード製作キットが当初の価格よりはるかに高額で販売可能であると気づけただけでなく、入札者数や需要曲線を見ることで市場の大きさを実感できたとLynagh氏は述べています。Keycultは、この市場規模であればより大規模な生産が可能だと考えているとのこと。

Lynagh氏は今回の実験から見ても、販売者側にとってヴィックリー・オークションを実施することの利点が非常に大きいと指摘。販売者側の信頼が必要であったり、入札価格の確認とユーザーに向けた発表などの手間がかかったりするものの、ヴィックリー・オークションを行わないことを正当化できはしないだろうと述べています。

また、ヴィックリー・オークションを用いた販売価格の決定は、キーボード製作キットだけでなく他のニッチな分野や、小規模なアーティストが作品を販売する場合にも適用できるとLynagh氏は主張しています。たとえば超ニッチな製品では、「200ドルの出資者を70人集める」ことはできないかもしれませんが、一部の熱烈な愛好家が存在する可能性があるため、「2000ドル(約21万円)の出資者を10人集める」ことができるかもしれません。オークション結果から得られた需要曲線も後の価格設定などに生かすことができ、ヴィックリー・オークションはニッチ分野の販売者にとって大きなメリットがあるとLynagh氏は主張しました。

by TPHeinz

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in メモ, Posted by log1h_ik

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