見た目が人間に近づくと嫌悪感が高まる「不気味の谷現象」を引き起こす脳の領域が明らかに
by Franck V.
絵画やロボットなどの人間ではないものを人間に似せて作る際、その再現度が高くなればなるほど人間は高い好感度を感じるようになります。しかし、人間に似過ぎてくると、ある一定のラインから違和感や恐怖感、薄気味悪さのようなものを感じるようになることが調査により明らかになっており、これを「不気味の谷現象」と呼びます。この不気味の谷を越えることが人間に似せたロボットなどにおける大きな課題だったのですが、最新の研究により「なぜ不気味の谷現象が起こるのか?」ということについての新しい知見が明らかになっています。
Neural Mechanisms for Accepting and Rejecting Artificial Social Partners in the Uncanny Valley | Journal of Neuroscience
http://www.jneurosci.org/content/early/2019/07/01/JNEUROSCI.2956-18.2019
'Uncanny Valley': Brain network evaluates robot likeability
https://medicalxpress.com/news/2019-07-brain-network-robot-likeability.html
技術が向上するにつれ、本物の人間そっくりのロボットや3DCGによるモデルなどが作成されるようになっています。しかし、作成された人間そっくりなものが不気味の谷を越えることができなければ、人々に嫌悪感や薄気味悪さを感じさせることとなります。アーヘン工科大学のAstrid Rosenthal-von der Putten教授は、「人間の形や行動に似ているということは、長所と短所の両方になり得ます」と語り、人間によく似たものは不気味の谷というリスクを抱えることになると指摘しています。
不気味の谷現象を提唱したのは、ロボット工学者の森政弘博士です。1970年に提唱されたこの現象は、日本語の「不気味の谷」から「Uncanny Valley」と翻訳されるようになったとのこと。
by Andy Kelly
そんな不気味の谷現象に関する最新の研究論文が、科学誌のJournal of Neuroscienceに掲載されました。研究はイギリスとドイツの神経科学者や心理学者が行ったもので、不気味の谷現象が起こる際に脳内で起こるメカニズムを識別したとしており、リアルな人間に似せたロボットやCGに対する人々の反応を改善する第一歩となる可能性を秘めています。
「神経科学者にとって、『不気味の谷現象』は興味深い現象です。これは最初に与えられた感覚入力(視覚情報など)、例えばロボットの写真のようなものを人間と感じるのか、それとも非人間と感じるかを判断する神経メカニズムの存在を暗示しています。この情報は好みを決めるための別の評価システムにも使用されていると考えられます」と語るのは、ケンブリッジ大学の生理・発達・神経科学部門の講師であるファビアン・グラベンホルスト博士。
by Erhan Astam
不気味の谷現象が生まれる際に働く神経メカニズムを調査するために、研究チームはfMRIを用いて2つの異なるテストを行うことで、21人の被験者の脳パターンを調べています。
最初のテストでは被験者に人間やロボットなどの写真を多数見せ、それらに対する好感度および「どの程度人間らしく感じるか?」を評価してもらいました。2つ目のテストでは、被験者に対して写真で見た人間やロボットの中で、「どれなら自分用の贈り物を選んでもらっても許容できるか?」を判断してもらったそうです。2つのテストの間に被験者の脳活動を測定することで、研究者たちはどの脳の領域が不気味の谷現象のような感覚を生み出すのかを識別したわけ。
研究によると、視覚情報を処理する視覚野に近い一部の脳領域が、「人間らしさ」に関する脳の信号を生み出していることが明らかになっています。
by Markus Spiske
さらに、脳の前頭前皮質と呼ばれる領域の一部で、不気味の谷現象につながる別の活動が観測されています。なお、これまでの研究では、前頭前皮質はあらゆる種類の刺激を判断するシステムを持った領域であるとされており、例えば「心地よい感触」のような社会的刺激の報酬価値を示す領域とされてきました。
研究によると、内側前頭前皮質の2つの異なる箇所が不気味の谷現象にとって重要な働きを担っているとのこと。2つのうち1カ所は、「人間らしさ」に関する脳の信号を「人間を検出した(人間と判断した)」という信号に変換するそうで、もうひとつの箇所(前頭前皮質腹内側部)は「人間らしさ」に関する信号を好感度評価と統合するそうです。この2つの働きにより、人間に似たものを見た際に人間を見たのかそれとも非人間を見たのかを識別し、それがそのまま好感度評価にも直結するというわけ。
前頭前皮質腹内側部は被験者がロボットなどの写真から、「自分用の贈り物を選んでもらっても許容できる」対象を選ぶ際に活発だったそうです。それに対して、ロボットなどの人工的に作られた「人間に似たもの」からの贈り物を拒絶する際には、感情的な反応を司る扁桃体が特に活発となった模様。ロボットに対する許容や拒絶の反応には、個人差があったとのこと。
これらの研究結果は、より好感を持てる「人間のような見た目のロボット」を設計するうえで大きな影響を与える可能性があります。グラベンホルスト博士は「これらの脳領域で発生する評価信号は、社会的経験によって変化する可能性があることを我々は知っています」と語りました。
Putten教授は「この研究は不気味の谷現象の効果の強さが個人差を持つことを示す最初の研究です。つまり、ある人は過敏に反応し、他の人はあまり敏感に反応しないかもしれないことを意味します。これはすべてのユーザーに好かれる、あるいはすべてのユーザーに怖がられるような単一のロボット設計が存在しないことを意味します」と語っています。
・関連記事
デザイナーではない人がデザインする上で大切な4つの基本原則 - GIGAZINE
VRがさまざまな恐怖症を克服するための治療法として役立つ可能性 - GIGAZINE
3Dプリンターで不気味なほどリアルな等身大フィギュアを作りだす「美峰」 - GIGAZINE
リアルタイムでCGを作り出すレイトレーシングの驚異的な画質がわかるUnreal Engineのデモムービー - GIGAZINE
・関連コンテンツ