サイエンス

コンピューターサイエンス分野のノーベル賞とも呼ばれるチューリング賞の2018年度受賞者が決定

by Joshua Sortino

コンピューターサイエンス分野において革新的な功績を残した人物に贈られる「チューリング賞」の2018年の受賞者が決定しました。2018年のチューリング賞受賞者は、昨今の人工知能(AI)ブームの基礎を築いた3人の研究者に贈られています。

2018 Turing Award
https://awards.acm.org/about/2018-turing


Turing Award 2018: Nobel Prize of computing given to ‘godfathers of AI’ - The Verge
https://www.theverge.com/2019/3/27/18280665/ai-godfathers-turing-award-2018-yoshua-bengio-geoffrey-hinton-yann-lecun

Turing Award Won by 3 Pioneers in Artificial Intelligence - The New York Times
https://www.nytimes.com/2019/03/27/technology/turing-award-ai.html

2018年のチューリング賞受賞者は、Yoshua Bengio氏、Geoffrey Hinton氏、Yann LeCun氏の3人。3人はともに「AIの父」と呼ばれており、AI分野において昨今特に注目を集めているディープラーニングを開発した功績を認められてチューリング賞を受賞することとなっています。

モントリオール大学の教授であるBengio氏は、Element AIというAI関連企業をスタートさせた人物。


Hinton氏はGoogleとトロント大学でAI関連の研究を続ける研究者


LeCun氏はFacebookのチーフAIサイエンティストで、ニューヨーク大学の教授でもあります。


3人が1990年代と2000年代に開発した技術は、近年になってコンピュータービジョンや音声認識といった分野で大きな注目を集め、自動運転車や自動医療診断までさまざまなAI技術で活用されています。例えば、スマートフォンのロックを解除するための顔認識システムや、メールの返信を自動で予測してくれるAI機能などは、3人が開発したアルゴリズムが基となったテクノロジーです。

LeCun氏は海外メディアのThe Vergeに対して、「これは非常に大きな誉れで、コンピューターサイエンス分野に入ることと同じくらい素晴らしいことです。また、私の友人のYoshuaおよびGeoffreyと一緒に受賞できるということも、素晴らしいことと感じます」とコメントしています。

GoogleのAI部門責任者であるJeff Dean氏は、「ディープニューラルネットワークは現代のコンピューターサイエンスにおける最大の進歩の一端を担っています。この進歩の中心には、今年のチューリング賞受賞者であるYoshua Bengio氏、Geoffrey Hinton氏、そしてYann LeCun氏により開発された基本的な技術があります」と3人を賞賛しています。


AIのブームとその誇大広告的な問題は、AI分野そのものと同じくらい古くから存在するものです。研究が膨らみすぎた期待に応えられない場合、研究資金および関心の低下を生み出します。そういった「AIの冬」とも呼ばれる現象は、1980年代の後半から既にあったそうです。しかし、AIの冬と呼ばれる時代から、3人の研究者は現代のAIにとって重要な構成要素のひとつとなっているニューラルネットワークの開発に取り組んできました。当時を振り返り、「コミュニティが興味を失っていたため、ニューラルネットワークに関する研究を発表することが不可能だった1990年代半ばから2000年代初頭までの間は、先の見えない暗い時期でした」とLeCun氏は語っています。

昨今のAIブームが到来するよりもかなり前の段階である2007年に、次世代ニューラルネットワークについて語るHinton氏の様子を収めたムービーがYouTube上で公開されています。

The Next Generation of Neural Networks - YouTube


3人は世間のAIへの関心を再燃させる必要があると考え、相互に関連研究を援助するためにカナダ政府から資金を確保したそうです。LeCun氏によると、この資金を用いて「定期的なミーティング、ワークショップなどを行い、学生のためにサマースクールを開催した」とのこと。このような取り組みにより、2012年、2013年頃に爆発的に成長する小さなAIコミュニティが誕生したそうで、AIを諦めなかった3人の地道な努力の上に現在のAIテクノロジーが成り立っていることがうかがえます。

この期間に3人はニューラルネットワークが文字認識のようなタスクにおいて強力な結果を達成できることを示しました。しかし、Hinton氏が率いる研究チームが「ImageNet」と呼ばれる有名なAIベンチマークを採用する2012年までは、そのほかの研究分野が注目を集めることはありませんでした。Hinton氏らの研究チームは、それまで他の研究者たちが少しずつしか機能改善を施せなかった物体認識の分野で、従来比で41%も高精度な物体認識システムをニューラルネットワークを用いて開発したことで注目を集めました。


GPUの安価な処理能力と豊富なデジタルデータがこれらの分野における燃料となり、2012年以降は3人が先駆けて開発していたバックプロパゲーションや畳み込みニューラルネットワークを含む、AI分野における基本的なテクニックが広く普及していくこととなったそうです。

既存のAIシステムは世界を理解するために大量のデータを必要としており、簡単にだまされる可能性もあることから、特定のタスクにしか適していません。しかし、LeCun氏はAIの見通しについて楽観的であるとのこと。「人類レベルの知性を生み出すためには新しい方法を使用できるかどうかにかかわらず、まだ見ぬものも含め、おそらくさらに50以上の山(障害)を超える必要があるでしょう。私たちは最初の山に登っただけなのです」と、今後の継続的な発展には多くの研究者の努力が必要であるとLeCun氏は語っています。

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in サイエンス,   動画, Posted by logu_ii

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